この記事について
この記事では白米や玄米のとぎ汁の中に住む乳酸菌や酵母菌などの発酵菌を培養して乳酸菌液*を作るための基本的な手順(とぎ汁乳酸菌液の作り方)と、乳酸菌液作りに必要な情報や発酵菌に関するさまざまな有用な知識、乳酸菌液の利用・活用法などをまとめています。
また、実践を通して得た知見やその過程で知ったさまざまな情報などをその都度書き加えています。そして、知識の不十分さや経験不足など、私の未熟さに起因する間違った推測や不適切な記述についても、誤りや不適切な内容が判明した段階ですぐに訂正するように心がけています。そのため記事の内容はかなり頻繁(ひんぱん)に追加・更新されますので、その旨ご了解下さい。
――この記事を最初に書いたときのタイトルは「米のとぎ汁で乳酸菌を培養する――米胚芽の発育促進効果」でしたがその後いろいろな乳酸菌培養の実践を重ねるうちに今のタイトルに落ち着きました。
* 正確には発酵乳酸菌液(発酵乳酸菌水・乳酸菌発酵液)と呼ぶべきですが煩わしいので以後は単に乳酸菌液と呼びます。なお、発酵乳酸菌液の中には酵母菌や麹菌(コウジカビ)なども一緒に生きています。しかしこの発酵液の中には乳酸菌が一番多く生息していて、その効能の一番の主役は乳酸菌なので「乳酸菌液」と呼ぶわけです。同じように、米麹(蒸し米にコウジカビを植えつけたもの)の中には乳酸菌や酵母菌も共生していますがコウジカビがもっともたくさんいてアミノ酸やブドウ糖を作り出す主役を演じているのでそう呼ばれています。同様にドライイーストも中に乳酸菌が共生していてもイースト菌(酵母菌)の密度が高く二酸化炭素を大量に発生させる主役になっているためにそう呼ばれているわけです。乳酸菌液では乳酸菌が主役で麹菌や酵母菌は脇役、米麹やドライイーストでは乳酸菌が脇役です。しかしながら脇役がいなければ主役はその役目をまっとうできないという意味で脇役もまた重要な働きをしていることは確かです。
この記事の目次
玄米や白米には乳酸菌が住んでいる
〔注記〕米のとぎ汁と乳酸菌(とぎ汁乳酸菌)
成熟した稲穂(いなほ)をつけた稲(いね)を刈り取って乾燥させ、さらに脱穀(だっこく)すると籾(もみ)(=稲の果実・種)が得られます。右の図は籾の構造を示しています。籾摺り(もみすり)という精米工程を経(へ)て籾から籾殻(もみがら)を取り除くと玄米になります(右下図)(画像をクリックすると別窓で原寸表示します)。
白米(精白米)は玄米からさらに果皮・種皮・糊粉層(かひ・しゅひ・こふんそう)と胚芽(はいが)が米ぬかとして取り去られて胚乳(はいにゅう)だけが残ったもの*1ですが(精米・精白)、白米の表面には糊粉層の一部が残っていますし、精米時に取り除けなかった米ぬかの一部や胚芽のかけらなども付着しています。
したがって、米のとぎ汁には白米表面近くに含まれる成分だけでなく米のかけらや胚芽のかけら・ぬかなどが入っています。白米の表面近くにはデンプンのほかにタンパク質が含まれていますし胚芽やぬかにはミネラル(灰分・無機質)やビタミン・アミノ酸・各種の酵素などが含まれているため、米のとぎ汁にはこれらのいろいろな成分が入っています。昔から日本で広く行われている米とぎ汁のさまざまな利用法はそれらの各成分の性質をうまく生かしています*2。
しかし、米のとぎ汁には上記のような各種成分だけでなく籾(もみ)の中で生きていた乳酸菌や酵母菌・麹菌(こうじきん)などの発酵微生物も含まれています(玄米の皮(果皮・種皮)の内側にも乳酸菌や酵母菌などが共生しています――内生菌(ないせいきん)*3 )。
ですから、とぎ汁をうまくコントロールして適切な環境に置けばそれらの発酵微生物が自然に増殖していろいろな有機酸や酵素などを作ってくれるので有用な発酵液(発酵乳酸菌液・発酵酵母液)が得られるわけです。さまざまな用途に使える上に保存しておいていつでも必要なときに使えるとぎ汁乳酸菌液は米のとぎ汁の再利用を考えている方にも是非お奨(すす)めしたいと思います。
――ネット上には「乳酸菌の作り方」といういい方が散見されます。しかし上記のように乳酸菌や酵母菌はとぎ汁の中に最初から含まれています。これらの発酵微生物を増殖させることによって発酵液(乳酸菌液)を作るわけですから本当は「乳酸菌液の作り方」というのが正確な表現でしょう。
――なお、米に住む乳酸菌は120℃・2気圧・20分間の高圧蒸気滅菌処理にも耐えて生き残るたくましい植物性乳酸菌です。
*1 精白(精米)によってとり去られる米ぬか部分(果皮・種皮・糊粉層・胚芽)は玄米全体のうち約8%を占め、白米部分(胚乳)が約92%を占めています(重量比)。
*2 参考資料(1) 雑誌『食品と容器』2010年10月号「シリーズ解説:米の話(第3回)米の成分(1)粒の生物的形成」を参照。10月号の全記事(pdfファイル)で読めます。
*2 参考資料(2) 文科省食品成分データベース:玄米/精白米
*3 内生菌(エンドファイト:endophyte):植物の根・茎・葉・花・果実の表面にはさまざまな菌類(真菌類)・細菌類が付着菌(エピファイト:epiphyte)として共生していますが、それだけでなく植物体のさまざまな器官の内部に住み着いて共生している菌類や細菌類がいることが近年分かってきています(〔展開編5〕植物系で作る豆乳ヨーグルトと内生菌 )。
〔2011年5月17日〕米のとぎ汁の中にいる乳酸菌を培養する方法を私が初めて知ったのは、ネットで読んだ記事に『飯山一郎のLittleHP』のあるページへのリンクが張ってあったのがそのきっかけです。そんな偶然からそのページに載っていた飯山さんの乳酸菌関連の記事とツイートに目を通したことで、乳酸菌培養に対する私の好奇心が目覚めました。
私が読んだのは2011年4月のものですがとぎ汁培養(米のとぎ汁乳酸菌の作り方)に関する基本的な情報はすべて書かれていましたので、あとは自分でやってみるだけでした。細かい条件などは実践や経験の中で自分で見つけていけばいい。要は料理や工作と同じです。米のとぎ汁を使った乳酸菌培養液を作るのに必要な材料は米のとぎ汁とあら塩(主成分の塩化ナトリウムだけでなくマグネシウムやカリウム・カルシウムなどのミネラル塩を含む天然塩)と砂糖(黒砂糖・粗糖・きび砂糖・白糖・てんさい糖…など)。特別な道具は要りません。ペットボトルとじょうごと計量スプーン、家の台所にあるものを使って誰でもできます。
たとえ失敗することがあっても続けていくうちに実践を通じていろいろなことがだんだん分かってきます。知恵(現実の問題を解決するための適切な判断力)というものは実践の中で失敗したり、つまづいたり、疑問を抱いたりすることを通して身につくものです。思考実験し仮説を立てて実践する。予想が外れて失敗することもありますがむしろ失敗することによって新しい発見をすることもまれではありません。飯山さんが公開して下さった貴重な情報は私にとってさまざまな知見をもたらす大いなるきっかけになりました*。
* 米のとぎ汁に塩や糖を入れたものを利用して白米(玄米)に住む乳酸菌や酵母菌などの有用菌を増殖させる方法を開発したのは飯山さんが最初ではなく、比嘉照夫氏のEM菌や曽我部義明氏のえひめAI(えひめ愛:えひめAI-1,えひめAI-2)の方が先行研究としてはずっと早いようです。EM菌は商業的に販売されていますが、えひめAIはその製造方法が公開されています。ネットで「えひめAI」を検索すれば作り方や使い方を紹介しているサイトがたくさん見つかります。なお、農業用や園芸用あるいは環境浄化用などに利用するために発酵液を大量に作りたい場合は黒糖や白糖の代わりに安価な精糖蜜(廃糖蜜・黒糖蜜)を使うとよいでしょう。
米のとぎ汁で米乳酸菌を培養する
〔注記〕とぎ汁培養に関する留意点
(1) 以下は基本的に常温環境下(20~40℃)での培養について書いてあります。乳酸菌や酵母は生物ですから生育環境によってその成長が左右されます。まったく同じようにしたつもりでも培養液の温度やとぎ汁の濃度・投入するあら塩や黒糖の量などの条件が培養結果に影響してきます。
乳酸菌が乳酸を作る過程ではデンプンや糖を分解する酵素(エンザイム:enzyme)の働きが関係しますので、酵素が働きやすい環境、つまり培養温度が重要な条件になります。一般に消化に関わる酵素は人間の体温と同じくらいの温度(35~40℃)でもっともよく働きます。まだ乳酸菌や酵母などの数が少ない培養初期の段階ではこの温度がかなり大事な役割を果たします。培養がうまくいかない方はそのあたりのことも考えて、できるだけよい温度環境に置くことを心がけて下さい。初夏~初秋は気温が高いのであまり心配する必要はありませんが、晩秋から春先にかけての気温が低いときにはこの温度管理がとても大切です。
――下の 環境温度と pH3.5に達するまでの日数 を参照。
昼間は陽の当たる窓のそばに置くようにすればよいのですが、天気が悪い日や夜の間は、ボトルを横にして座ぶとんなどではさんで保温するとか(ペットボトルに湯を入れた湯たんぽを併用すると効果的です)。あるいはホットカーペットやホットマットの上に寝かせておくとかといった工夫をする必要があります。私はホットマットを使っています(気温の低い季節や夜間にはカバーも併用)。また、保温状態になっている電気釜のそばや冷蔵庫の上部(裏側に近いところ)に置いている方もいらっしゃるようです(夜の間だけ風呂の残り湯に入れておく方も…)。なお、ホットカーペットやホットマットを使う場合は水分が漏れないようにふたをしっかり閉めておくようにしましょう。
――〔2012.03.30 追記〕気温の低い時期の昼間、アルミ蒸着の保温シートを陽の当たる窓際に敷いて、その上にボトルを置くのも効果があるようです<保温シート活用で、ヨーグルトづくり>〔エコは楽しい 2012年3月28日〕。私も試してみました。なかなかいいですね。
(2) ところで「米のとぎ汁で乳酸菌を培養する」といっても「とぎ汁」は単なる培養液ではありません。なぜなら上の注記でも触れているように玄米の甘皮の内側や白米の表面には米の籾(もみ)に由来する乳酸菌や酵母・麹(こうじ)等が共生している(互いに必要なものを提供し合いながら雑菌などが侵入してくるのを防いでいる)ため、米のとぎ汁には最初からこれらの乳酸菌や酵母・麹が入っているからです。どこかから乳酸菌の種を持ってきてそれを培養するわけではありません。培養液中でも乳酸菌液の中でも米粒の中と同じように乳酸菌や酵母・麹は互いに助け合って共生しています(乳酸菌は細菌類、酵母・麹は真菌類)。
――〔追記〕古くから日本の家庭で作られている野菜の塩漬けや糠味噌、韓国のキムチなども野菜の内部や表面に住んでいた乳酸菌や酵母等の発酵を利用しています。乳酸菌や酵母菌などの発酵微生物は自然界のどこにでもいて、目には見えませんがあらゆる種類の動物や植物の身体に住み着いて共生しています。
そういうわけなので、実は米乳酸菌の培養でもっとも重要な条件はどんな米を使うかということになります。乳酸菌や酵母・麹がたくさん生息している米、つまり飯山さんが指摘しているように、精米してからあまり日にちの経っていない新しい米を使うこと、そして残留農薬や放射性物質が入っていない安全な米、これが一番大事な条件です。農薬が沢山使われている米には乳酸菌や酵母が少ないので培養がうまくいかないことがあります。
――〔2012年1月11日 追記〕私は無農薬米を使っています。米乳酸菌や酵母・麹は精米日からかなり日にちが経っていても米のデンプン等を栄養源としてたくましく生きていることが分かりました(〔探究編1〕古米の玄米と米乳酸菌、玄米浸潤液)。したがってもっとも重要なのは無農薬であること、放射性物質に汚染されていないこと、この2点ではないかと思います。そのことをふまえた上で、米をしっかりと研いで乳酸菌や酵母・麹、胚芽やデンプン等を十分に含む濃いとぎ汁を手に入れること、これが培養に失敗しないための一番大事な心がけです。
「麹(こうじ)」という言葉には真菌類の微生物「コウジカビ」を表す用法と、米や麦などの穀類を蒸したものにコウジカビを植えつけた「米麹」「麦麹」「豆麹」「種麹」、あるいは「米麹」に塩を加えて培養した「塩麹」という発酵物そのものを表す用法とがありますが、文中で単に「麹」と表記しているものはすべて「麹菌(=コウジカビ)」を表しています。同様に、単に「酵母」とあるものはすべて真菌類の微生物である「酵母菌」を表しています。
乳酸菌培養に挑戦
〔2011年5月11日〕「米の一番とぎ汁をペットボトルに口切り詰めて,室内常温で1週間寝かせると乳酸菌など発酵菌が増えて,酸っぱい水になる」(2011年4月18日の飯山さんのツイートから)。そんなに簡単に乳酸菌が培養できるなら試してみよう、というわけで乳酸菌培養に挑戦してみました。私が一回に炊く米は1合。その一番とぎ汁を500mlのペットボトルに入れて培養――これを実行しただけですが最初から成功してしまいました。
〔メモ〕発酵が始まるとかすかに「目玉焼きのような匂い」がします。ちょっとほんわかした感じ(注意:ゆで卵の匂いとは違います。ゆで卵の匂い=温泉の匂い=硫化水素の匂いは腐敗臭です)。同時にわずかですが発生する二酸化炭素(炭酸ガス)のためにふたを開けたときに「プシュッ」と音がします。1日か2日で「目玉焼きのような匂い」がやや強くなり、その後はちょっと酸っぱい感じの匂いがほんのりとしてきます。なめてみるとほんの少し酸っぱさが感じられます。その後は「目玉焼きのような匂い」は薄れてきます。飲んでみると酸っぱくてさわやかな味になっています。肌にすりこんでみるとなんとなくしっとりといい感じ。乳酸・乳酸菌は人間ととても相性がいいようです。さらに発酵が進むと酸っぱさがはっきりと分かるようになります。
――〔追記〕「目玉焼きのような匂い」がしないこともあります。なぜなのか、今のところ不明です。――〔2011年11月25日 追記〕寒くなってきて培養液のほんわかとした匂いが復活しました。
その後、「1リットル(1000ml)あたり10グラム(小さじ1杯強×2)のあら塩を入れるとよい」という飯山さんのツイートを読み、2回目は 500mlのとぎ汁培養液に普段使っている海水塩を小さじ1杯強(約5グラム)入れたところ、最初のときよりも1日近く短縮されました。「黒糖を入れるとさらによい――1リットルあたり30グラム(大さじ1杯強×2)」というので、3回目は 500mlのとぎ汁培養液に海水塩だけでなく粗糖(そとう)を大さじ1杯強(約15グラム)入れてみるとさらに速く発酵が進みました。
〔注記〕とぎ汁に加える塩や糖の分量について
文中では小さじ・大さじ表記をしています。大さじ1杯には 15cc(15ml)*、小さじ1杯には 5cc(5ml)の液体が入ります。水 1cc の重さは 1g ですから大さじ・小さじそれぞれ1杯に入る水の重さはそれぞれ 15g・5g になりますが、塩や糖の比重(密度)は水よりもやや小さいので少し多めの量(すりきりではなくやや山になる程度)でだいたい 15g・5g になります。つまり塩や糖は「大さじ1杯強」「小さじ1杯強」の分量でほぼ 15g・5g となります。最初はきちんと重さを計ってどの程度かを頭に入れて下さい。その後は目分量で。少しくらい多くても少なくても大丈夫です。
* 1cc=1ml=1cm³(立法センチメートル)で、どれも同じ大きさの体積・容積を表わします。料理などでは cc、市販の飲料・調味料などでは ml、科学や学校教育では主に cm³, ml が使われています。
米乳酸菌の培養に用いる培養液のことを以後は単に 培養液 と表記します。また、米とぎ汁を使った乳酸菌培養液・米ぬかを使った乳酸菌培養液をそれぞれ とぎ汁培養液・米ぬか培養液 と簡単に表記することがあります。また、とぎ汁などを発酵させて十分な乳酸菌を増殖させた発酵液は正確には とぎ汁発酵乳酸菌液(とぎ汁乳酸菌発酵液・とぎ汁発酵乳酸菌水)あるいは 発酵乳酸菌液(乳酸菌発酵液・発酵乳酸菌水)と呼ぶべきですが、記事の中ではこれを単に とぎ汁乳酸菌液 あるいは 乳酸菌液 と表記しています。
――さとうみつろうさんは乳酸菌液のことを「HUB液(ヒーローウジャウジャボトル液)」と呼んでおられます(2013年3月19日)。ヒーロー=発酵菌たちがペットボトルの中で大増殖しているというイメージですね。
〔2012年4月29日 追記〕塩・砂糖について
黒糖(こくとう・くろとう)や粗糖(そとう)あるいは白糖(はくとう)・甜菜糖(てんさいとう)などの糖分を入れることによって乳酸菌が爆発的に増えます。糖を入れないと乳酸菌の増殖が遅くなるだけでなく、pH が 4.5~4.0 程度にとどまってしまいます。それでも雑菌や腐敗菌は生きていけませんが確実に安全な pH 3.5 程度まで落とすには2~3日後あたりに糖を追加することによって乳酸菌をさらに増殖させ乳酸を作らせる必要があります。
また、黒糖(黒砂糖)や粗糖、甜菜糖にはアミノ酸やミネラルが含まれているので飲用に用いるものは健康のためにも味覚のためにもこれらを使うのがよいでしょう(甜菜糖には大腸に住むビフィズス菌の栄養源となるオリゴ糖も含まれています)。白糖(白砂糖・精白糖)だとあまりおいしくありません。しかし消臭・殺菌目的なら白糖で作った乳酸菌液でも十分です。なお、白糖には糖分以外の栄養分が含まれていないので白糖を使う場合はミネラルを補うためにあら塩をかならず入れましょう(あら塩の代わりに食塩+にがりでもよい)。なお、塩分を控え目にしたい場合はあら塩の量を減らして代わりににがりを少し補うとよいでしょう。
糖を2~3日後に入れる理由
最初から黒糖や粗糖を入れると早々と酵母が増殖し、その結果乳酸菌の増殖が抑制されてしまいます。そのため 4~7日経っても pH が4.5~4.0 程度にとどまり、そのままの状態が長く続きます。4~7日で pH を 3.5 に到達させるには、最初は黒糖や粗糖を加えずにデンプン(アミロース・アミロペクチン:多糖類)を分解して得られる少ない麦芽糖(マルトース:二糖類)やブドウ糖(グルコース:単糖類)だけで培養を行うことによって、わずかな栄養分でも増殖可能な乳酸菌を先に増殖させることが大事です。
デンプン(を分解したブドウ糖と麦芽糖)だけで乳酸菌を最初に増殖させ pH を 5.0~4.5程度に落としておけば、2~3日後に糖を追加してから 数日(培養開始から4~7日)で pH3.5 に到達し、その後酵母の大増殖が始まります。
なお、暖かい環境で培養していると酵母の増殖にともなう大きめの泡の発生量がかなり多くなり、ときには蓋を開けた途端に泡が噴出してしまうこともあります。
――〔追記〕黒糖や白糖の主成分はショ糖(スクロース:二糖類)ですが、乳酸菌も酵母もショ糖を分解してブドウ糖(単糖類)と果糖(フルクトース:単糖類)にする酵素(スクラーゼ)を持っていて、これらを栄養源にすることができます。なお、果糖の方がブドウ糖よりも甘味が強めです。
〔2012年9月5日 追記〕白糖は最初に入れても大丈夫
白糖を使った乳酸菌液を沢山作っているうちに、白糖乳酸菌液は黒糖乳酸菌液に比べて酵母が少ないということに気がつきました。黒糖と白糖との違いは糖蜜を成分として含むか含まないかということと、黒糖や粗糖には乳酸菌や酵母が生息しているのに対して白糖には乳酸菌も酵母もいないということ、この二つです。これらのことから、糖蜜の有無あるいは黒糖や粗糖に生息している乳酸菌や酵母の存在が初期の酵母の増殖に関係している可能性が考えられます。
それならば、糖蜜を含まない白糖を最初から培養液に入れても初期の酵母の増殖は起こらないのではないか、と私は考えました。そこで、あら塩と一緒に白糖を最初に加えたとぎ汁培養液の実験をしてみました。これまで数回の実験の結果、予想通り培養初期の酵母の増殖が起こらないことが分かりました。
――〔追記〕その後の実践で、白糖の場合も2~3日後に入れた方が乳酸菌密度の高い乳酸菌液が得られることが分かりました。白糖の場合も最初から入れるとやはり酵母の増殖が促されるのですね。というわけで、乳酸菌密度の高い乳酸菌液にしたい場合は糖は2~3日後に入れ、酵母の多い乳酸菌液(酵母液)を作りたいときは糖を最初から入れて下さい。乳酸菌も酵母も多い方がよいなら2~3日後に黒糖を入れます。
〔メモ〕乳酸発酵
乳酸菌は酸素のない環境ではブドウ糖を分解して乳酸(Lactic Acid)を産生することによって生命を維持したり増殖したりするためのエネルギー(正確にはエネルギー通貨:ATP=アデノシン三リン酸)を作っています(無気呼吸・嫌気呼吸)。私たち人間や動植物が体内でエネルギーを作り出す過程の中にもこれと同じ過程――解糖系*(かいとうけい)――があります。
このように、乳酸菌は酸素を使わずに無気呼吸をしてブドウ糖を分解し、生命を維持したり増殖したりするためのエネルギーを手に入れますがそのときに副産物として乳酸を作り出します。したがってとぎ汁培養液のように整った栄養環境や温度環境のもとで乳酸菌が増殖すると、作られる乳酸も増えて酸性度が増すので培養液はだんだん酸っぱくなります。これを 乳酸発酵 といいます。漬物が酸っぱいのも同じ乳酸発酵の結果です。もともと野菜の中に住んでいた乳酸菌が野菜の栄養分を使って増殖して乳酸を作り出すために漬物は酸っぱくなるわけです。
* 解糖系で作られる乳酸は「L-乳酸:L-Lactic Acid, L-lactate」と呼ばれています。つまり生物(動物・植物・微生物)がその体内で作る乳酸は「L-乳酸」(L型・L体)であり、工業的に石油などから合成される D型(D体)の光学異性体である「D-乳酸」や D型L型混在の「DL-乳酸」とは区別されます。動植物や微生物が作るデンプンや糖・タンパク質などはすべて L型です。動植物や微生物は L型の糖を使って L型の乳酸=L-乳酸を作るわけです。
参考:「人体には L-アミノ酸や L-乳酸のように L体しかだめな理由」。ただし D-乳酸や DL-乳酸は人間にとっては役立たずではありますが必ずしも有害ではないということは押さえておきましょう。そういえば昆布の旨み成分は「L-グルタミン酸ナトリウム」でしたね。
また、とぎ汁や黒糖には乳酸菌や酵母の細胞を作るのに必要なアミノ酸やミネラル類(無機塩類)なども含まれています。あら塩にもミネラルが含まれています。にがりを加えるとさらによいらしいですが、市販のあら塩――海水塩や天日塩――にはにがりの成分と同じ塩化マグネシウムや塩化カリウムなどが含まれているので、これらを使えばにがりを入れる必要はありません。成分表を見てマグネシウムの含有量の多いものを選ぶとよいでしょう。なお、乳酸菌などの細菌類は身体が小さいので栄養分などの生育環境がよいと非常に短時間で増殖します。乳酸菌は40分弱で2倍に増えるという文献もあります(40分、80分、120分、160分、…で、最初の個体数の 2倍、4倍、8倍、16倍、…という風に指数関数的――ねずみ算式――に増殖する)。
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とぎ汁乳酸菌液の作り方(とぎ汁培養の基本レシピ)
とぎ汁培養の概要
とぎ汁は濃い方がいいので、ざるなどを使って胚芽もろとも根こそぎ濾し取ります。ペットボトルに入れたとぎ汁の中にあら塩(天日塩・海水塩・岩塩)を最初から加えます。
2~3日後に(暖かい環境なら2日後に、そうでなければ3日後に) 糖(黒糖・粗糖・白糖など)を加えます。糖を入れたらボトルを振ってよく混ぜます。以後は1日に1回程度ボトルを振って攪拌(こうはん・かくはん)します。
糖を入れると乳酸菌の大増殖が始まり、2~3日で乳酸菌と乳酸が急激に増えます。その後数日間はやや大きめの二酸化炭素の泡をたくさん発生しながら酵母が増殖します。酵母の増殖が一段落すると激しい発泡が落ち着いてきます。浮遊しているデンプンなどが大方沈殿し培養液がある程度透き通ってきたら完成です。
ペットボトルの中では残った栄養分を使って乳酸菌や酵母が世代交代を繰り返します。そのためわずかずつですがその後も二酸化炭素の発生が続きます。
初日: 目安としては米1合分のとぎ汁だったら約500mlの培養液になるように、2合分のとぎ汁なら約1リットルの培養液になるように水を加減します。ただし、とぎ汁が濃くても問題はないので3合分で1リットル、あるいは5合分で2リットルというふうにしても構いません(とぎ汁が濃い方が栄養分が豊富なため乳酸菌の増殖が速くなり、その分早く乳酸菌液が完成します)。水の量に合わせてペットボトルを選びます*。
* 1リットルのペットボトルは手に入りにくいので米2合分1リットルのとぎ汁を 500mlのボトル2本に分けて培養するなどの工夫をするとよいでしょう。あるいは、濃いとぎ汁の方が乳酸菌の密度の高い乳酸菌液が得られるので米2合を500ml強の水でといで濃い目の培養液にするのもよいと思います。そのあたりは柔軟に。
最初にペットボトルいっぱいに水を入れておき、それを使ってしっかりと米をとぎ、できるだけ濃いとぎ汁を手に入れます。この濃いとぎ汁と1%相当のあら塩とを元のペットボトルに入れます。加えるあら塩の量は、500mlのとぎ汁培養液(約500グラム)の場合は、5グラム(小さじ1杯強)、1リットル(約1000グラム)なら10グラム(小さじ1杯強×2)になります。
――(2015年9月7日 追記)研ぐときに米が水を吸うのでペットボトルに入れたとぎ水は目減りしています。ボトルの上部に空気が入っていますがこの空気に含まれる酸素ととぎ水に溶け込んでいる酸素は初期の乳酸菌増殖にとって必要なものですのでボトル一杯になっていなくても心配はありません。むしろ空気があることの方が重要です。
――(2014年4月21日)あら塩の量は半分程度でも大丈夫です。できあがった乳酸菌液がしょっぱいと感じるようならあら塩の量を減らして下さい。
とぎ汁とあら塩とを入れたらふたをしっかりと閉め、ボトルを振って攪拌します(乳酸菌と栄養源が触れ合う機会を高めるためと発生した二酸化炭素を逃がして新たな酸素が培養液に溶け込むようにするためです)。以後は1日に2~3回くらいの頻度(ひんど)で攪拌して下さい
当初は白い米デンプンがボトルの一番下に沈殿しています。しばらくすると小さな泡がそのデンプンのところから上がってくるのが観察できます。気温が高かったりその他の条件によってはすぐに気泡が発生し始めることもあります。その後は小さな泡がつぎつぎに上ってくるようになります。ボトルを斜めにして観察するとよく分かります。ボトルの上部に気体(二酸化炭素)がたまるため、ふたを開けると軽く「(プ)シュッ」という音がします。培養初期に発生するこの小さな泡は乳酸菌の呼吸に伴って発生しているものです。小さな泡が多いほど乳酸菌の増殖が盛んに行なわれていることを示します。
なお、二酸化炭素(炭酸ガス)は乳酸菌や酵母が糖を分解する過程(酸素呼吸・無気呼吸)で生じます。気温が高いと糖を分解する酵素がよく働くために乳酸菌や酵母の増殖率も上がるので気泡の発生が多くなります。個々の乳酸菌が出す二酸化炭素の量は個々の酵母が出す二酸化炭素の量に比べて少ないため、乳酸菌の増殖によって発生する泡粒は酵母の増殖によって発生するものよりも小さめです。大きめの泡が多量に発生しているときは酵母が大増殖しています。
――とぎ汁に含まれるデンプンは酵素(こうそ)*1の働きで最終的にブドウ糖*2にまで分解されます。乳酸菌や酵母はこのブドウ糖をエネルギー源として生きています。
――乳酸菌は酵母に比べて身体がかなり小さいので生育するためのエネルギーが酵母よりずっと少なくて済みます。そのため乳酸菌は酵母よりも格段に速く増殖し、糖の量が少ない培養初期(糖を投入する前)の段階では主に乳酸菌が爆発的に増えます。
2~3日後: 乳酸菌がかなり増えて pH が 5.0弱~4.5 くらいになっています。その頃には一番下に沈殿していたデンプンが消費されて、軽くなったデンプンかす――デンプンほど白くありません(淡い黄褐色)――が上の方に沈殿しています。小さな気泡の発生量が減る頃にはデンプンがかなり消費され、ほのかな匂いがするようになります。ここで培養液に 3% 相当の糖(黒糖・粗糖・白糖など)を入れます。500mlのとぎ汁培養液の場合は、15グラム(大さじ1杯強)、1リットルの培養液なら30グラム(大さじ1杯強×2)です。
――〔追記〕糖の分量は半分程度でもかまいません。糖分の大部分は酵母によって消費されるので半分程度でも乳酸菌の増殖には十分であり、その程度でも酵母はそれなりに増えるため乳酸菌液としてちゃんと使えるものができます。酵母の多い乳酸菌液が欲しい場合は糖を減らさずにおきます。
糖を入れると溶け込んでいた二酸化炭素の小さな気泡が口のところにシュワシュワと集まって来ます。暖かい環境で培養しているとボトルの口から溢れるほどの気泡が発生します(液音が高いと中に溶け込むことができる気体の量が減るため、そして酵母の増殖が盛んになるため、これらの相乗効果で二酸化炭素の泡がたくさん出ます)。気温の高い時期、私は糖を入れる前にあらかじめ培養液を少しボトルから別の容器に移しておくようにしています)。
3~5日後: そのまま1~3日するとまた小さな泡の発生量が減ってきます(小さな泡は乳酸菌が排出したものです)。そのころには目玉焼きのような匂いは薄れ、黒糖が消費された分だけ液の色が薄くなります。口に含んでみると甘みがほとんど消えて、ちょっと酸っぱいような感じがします。苦みや嫌な味、腐敗臭がしなければ成功です。発酵の結果作られる乳酸のために培養液は pH4 くらいになっています(30℃以上の暖かい環境なら4~5日で pH3.5 に到達)。
5~8日後: 残った糖分や塩分を消費してその後さらに発酵は進み、1~2日で酸っぱさがはっきり分かるようになります(pHは 3.5 程度)。これで完成、飲用やスプレー用に使えるようになります。この pH では腐敗菌や大腸菌などの雑菌は生息できません。
なお、寒い時期にはスプレー容器や飲用の容器の中でさらに熟成するとスプレーしたり、飲んだりしたときに何となく甘酸っぱいいい香り(芳香)がします。ただし初夏~初秋の気温が高い時期は、酵母が増殖するためにイーストの匂いが優勢になるようです。特に、気温の高い夏場は培養終期に盛んに発泡するものが増えます。酵母の大増殖に伴うものなので培養初期の泡よりも粒が大きいのが特色です。
暖かい環境で培養すると大粒の泡の発生量が増えるため、中にはふたを開けた途端に中身が噴出してしまうものも出てきますからふたを開けるときには注意をしましょう(発泡乳酸菌液――「乳酸菌を培養する(6)――〔応用編5〕発泡乳酸菌液と乳酸菌風呂」。このような状態になっているとペットボトルにかかる圧力のためボトルが膨張するので手で持ったときにとても固くなっているのが分かります)。また、発泡量が多いとデンプンかすや胚芽のかけらなどを巻き込んで上の方に昇ってくるため培養液が濁ります。発泡乳酸菌液を顕微鏡で観察すると出芽状態の酵母が沢山見られます。このような乳酸菌液には二酸化炭素がたくさん溶け込んでいるので飲んだときに炭酸飲料のようにピリピリした味になります。
以後は完成したとぎ汁培養液をとぎ汁乳酸菌液あるいは単に乳酸菌液とよびます。乳酸菌液はしばらくそのままで取っておけます。ときどきあら塩と黒糖、それに新しいとぎ汁少々を与え続ければずっと保存できるとのこと(1か月に1度くらいの間隔で1リットルあたり小さじ1杯強の糖と少々のあら塩を入れるといいようです)。冷蔵庫に入れておけば活動を抑制した状態で長期間保存できるようです。でも飯山さんがおっしゃる通り、乳酸菌液はいくらでも新しいものが作れますし拡大培養もできますので毎日作ってどんどん使うのがいいと思います。
――〔2011.08.28 追記〕 これまで見ている限り糖やあら塩を追加しなくても少なくとも1か月は大丈夫です。米乳酸菌も酵母もかなりしぶとい。――〔さらに追記〕私の経験では数か月経った乳酸菌液でも pH は 3.5~3.0 程度を保っていますし、乳酸菌液の中では乳酸菌や酵母・麹が地道に生きています。ただし、酵母の増殖の影響で乳酸菌の発酵力や増殖力が落ちているような気もしますし、酵母が乳酸を栄養源として消費するという説もあるようです(真偽のほどは分かりません)。
〔2014年4月21日 追記〕糖の代わりに乾燥米麹を使ったとぎ汁培養
3月末に始めた乾燥米麹を使った乳酸菌液作りについてほぼ確信が持てるようになったのでご報告します。白米とぎ汁を使った乳酸菌培養において白糖や黒糖を使わずに乾燥米麹を使ってできるとぎ汁乳酸菌液です。
作り方の基本的な流れは糖を使ったとぎ汁培養とまったく同じですが、乾燥米麹はあら塩ととぎ汁と一緒に最初からペットボトルに入れます。乾燥米麹の中にはデンプン分解酵素やタンパク質分解酵素がたくさん含まれているため初日から培養液の中にはたくさんのブドウ糖が作られます。そのため培養初期から乳酸菌の大増殖が始まって暖かい環境ならば2~3日で pH3.5 に到達し、その後発泡が落ち着いた段階からすぐに乳酸菌液として使える状態になります。
なお、乾燥米麹には生きている麹菌がたくさん含まれているだけでなくその中には乳酸菌や酵母も含まれています。詳しいことは「〔発展編4〕米麹の力(米と麹で作る濃密な乳酸菌液)」の「とぎ汁と米麹を使った実験」の項をご覧下さい。また、黒糖と米麹の両方を一緒に利用する方法については「〔発展編5〕黒糖と米麹の併用/米麹と産膜性酢酸菌」をお読み下さい。
〔注〕*1 アミラーゼ:デンプン(多糖類)を分解する酵素(α(アルファ)アミラーゼ・β(ベータ)アミラーゼ・グルコアミラーゼなど)や麦芽糖(マルトース:二糖類)をブドウ糖(グルコース:単糖類)に分解する酵素(マルターゼ)は麹が作り出したものだと私はずっと思い込んでいましたが、麹はカビの仲間なので酸素が十分にない環境ではあまり活発に活動できません。したがって、ペットボトルの上の方まで水を満たしたとぎ汁培養では麹はたくさんの酵素を作り出すことができないはずです。それならば乳酸菌や酵母が必要とするほどの量のブドウ糖を作り出す酵素は誰が生産したのでしょうか。
いろいろと調べた結果、実は白米や玄米にはデンプンを分解する酵素がすでに含まれていることが分かりました。稲(植物)は発芽する時に沢山のブドウ糖を栄養分として使います。それに備えて稲は成育中にデンプンだけでなくデンプン分解酵素も一緒に作り出してそれを種籾の中にあらかじめ貯えています。したがって米のとぎ汁には最初からこのデンプン分解酵素が入っているわけです。
この酵素は水分と温度が適正な条件になると活発に働き始めます。とぎ汁培養液の中はその条件を十分に満たすのでこの酵素の働きでブドウ糖が作られるというわけです。乳酸菌や酵母はその酵素の働きでブドウ糖のおこぼれを頂いて種籾の中で生き延びているのでしょう。そのお返しに酵母や乳酸菌は雑菌による腐敗から稲(植物)を守っているのだろうと思われます。
――〔追記〕市販の米粉や小麦粉は乾燥させた米粒や麦粒を挽(ひ)いて粉にする際に特に加熱殺菌をしませんので、米粉や小麦粉の中には乳酸菌や酵母が生きていますし、デンプンを糖に分解する酵素も含まれています。片栗粉はジャガイモ等からデンプンを取り出す際に殺菌しているらしく中に乳酸菌や酵母は生きていませんし、酵素も含まれていないようです。
*2 マルターゼ:乳酸菌は麦芽糖を分解する酵素マルターゼを持っているようです。したがって、デンプンが分解されてできる中間生成物である麦芽糖を乳酸菌は自らブドウ糖に分解して栄養源にすることができますから、糖を入れない初期の段階では乳酸菌は酵母よりも有利に増殖できるということです(酵母は乳酸菌が作りだしたブドウ糖を利用するようですがもともと量が少ないので乳酸菌ほど急速には増殖できないというのが本当のところかも知れません)。なお、日本酒醸造に使われる酒精酵母はマルターゼを持っていませんが麦に住むビール酵母や果実に住むパン酵母はマルターゼを持っているようです。
玄米とぎ汁について
玄米のとぎ汁は白米のとぎ汁に比べてミネラル成分を多く含みますがデンプンが少ないのが欠点です。そこで玄米とぎ汁を使う場合には不足するデンプンを補うために米粉(上新粉など)か片栗粉を少し加えるとよいでしょう。加える米粉や片栗粉の量は培養液1リットルあたり小さじ1/2程度で十分です。
〔メモ〕濃いとぎ汁を得るために――米のとぎ方の基本
普通の米のとぎ方と基本的には同じです。ただ、普通は米をすすぐのに使った水は捨ててしまいますが、この水を捨てないで培養液として利用するところが違います。
(1) とぐための容器(釜など)・とぎ汁を入れる容器・ざるを用意します。
(2) 米1合で約500mlの培養液を作りますので米の量に合わせてペットボトルを用意します。2合なら1リットル、3合なら 1.5リットル、4合なら2リットル… ですが、濃い分にはさしつかえないのでたとえば3合で1リットルでもかまいません。
(3) ペットボトルに水を入れておきます。2合なら1リットルです。
(4) とぐための容器に米を入れ、ペットボトルから4分の1ほどの水を注ぎ入れ、すばやくよくかき混ぜます。この水をとぎ汁を入れる容器にザルで濾(こ)しとります。この最初のすすぎ水には乳酸菌や酵母、ぬかに含まれる胚芽などの大切な成分が含まれています。
(5) ざるからとぐための容器に米を戻して、水を入れずに米をとぎます。手の平に握り込むようなつもりでシャカ、シャカと30回程度とぎます。「研ぐ」というのは米粒どうしをこすり合わせて付着しているデンプン等をそぎ落とすことですので手抜きをせずやさしくしっかりとといで下さい。
(6) ペットボトルから4分の1ほどの水を注ぎ入れ、よくかき混ぜてすすぎます。このすすぎ水をとぎ汁を入れる容器にザルで濾しとります。この水には米粒の表面から削り取られたでんぷん等が沢山含まれているので濃い乳白色をしているはずです(このすすぎ水の中にも乳酸菌や酵母が沢山います)。
(7) ざるからとぐための容器に米を戻して、水を入れずに米をもう一度とぎます。1回目と同じようにやさしくしっかりとといで下さい。
(8) ペットボトルから残った水をすべて注ぎ入れ、よくかき混ぜてすすぎます。このすすぎ水の中にも乳酸菌や酵母がいますので、とぎ汁を入れる容器にザルで濾しとります。これで濃い目のとぎ汁(合計3回濾し取ったすすぎ水)が手に入りました。これをペットボトルに戻して1%のあら塩(1リットルあたり10グラム)を入れれば培養液のできあがりです。
〔追記〕 市販の白米を利用する場合、一番とぎ汁であってもデンプンが少ないことがあるようです。ボトルの一番下に白く沈殿しているのでその量を確認することができます。そうなると、デンプンが早めに消費されて2日経たないうちに二酸化炭素の泡がほとんど出ない状態になります。その場合はとぐ回数を増やすか、米粉(なければ小麦粉か片栗粉)を少し補うようにするとよいでしょう(砕いた米粒を数粒入れるのもよいと思います)。
〔2011年11月21日 追記〕 米についた小さなゴミなどが気になる場合は、一番最初のすすぎは軽く済ませてそのすすぎ水は捨ててしまっても大丈夫ですが、その場合はもう一度水を入れてよくかき混ぜてそのすすぎ水を捨てずに濾し取って下さい。当然ながら通常よりもデンプンが少な目になりデンプンが早く消費されますので、培養液にあら塩を入れる際に米粉などのデンプン源を少し補って下さい。また、乳酸菌や酵母の数、および胚芽の量も少なくなるため増殖の速度が落ちて、完成するまでの日数が2~3日ほど余分にかかります。
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〔メモ〕pH試験紙・培養液の色(10円硬貨の利用)
発酵が進んでいるかどうかを確かめるには舌で酸っぱさを感じればいいのですが、米乳酸菌が作り出す乳酸の酸性度(酸度)は食酢やポッカレモンに比べると弱い(7分の1~10分の1くらい)ので十分経験を積まないとなかなか確信できません(塩分が入っているとしょっぱさに紛れてなお分かりにくい)。私は匂いには鈍感な上に舌にもあまり自信がないので pH試験紙(ペーハー試験紙/ピーエイチ試験紙)の助けを借りています(pH:水素イオン指数)。この用途ですと「リール式pH試験紙」程度(1刻みで測定できる)で十分です。ph7 が中性で、7より大きければアルカリ性、小さければ酸性です。米乳酸菌が作り出す乳酸は pH4.0~3.0 くらいのようです(食酢は pH3.5~3.0――pHが 1小さいと酸性度【水素イオン濃度(水素イオン活量)】が10倍、0.5小さいと約3.16倍になります)。上記の「リール式pH試験紙」の場合、黄橙色に変われば発酵はうまく行っています。数日で濃い目の黄橙になって完成。この段階では酸っぱさがはっきりと分かるほど(pH3.5前後)になり、その後1~2日して熟成すると気温の低い季節にはほのかな芳香がするようになります。
少し高いですが私は現在、pH 0.5-5.5 と 0.5刻みで測れるタイプのもの〔PH試験紙【ロールタイプ】(MACHERRY-NAGEL)〕を使っています。2日後に黒糖を投入する頃には培養液の pH はだいたい 5.0~4.5 程度になっていますのでそのあたりから熟成まで使えます。
黒糖を入れた後の培養液の色も判断材料になります。最初はやや濃い褐色ですが pH3.5 くらいになると薄めの褐色になり、熟成するとオレンジ色に変わります。
粗糖の場合は色が薄いので変化がそれほどはっきり分かりませんが、最初はやや褐色がかっていて、だんだん薄くなり最後にはグレープフルーツの果汁のような色になります。
なお、完成した乳酸菌液は半透明の状態です。デンプンや籾がらなどの小さな成分が分解されてもなおさらに小さくて軽い成分が浮遊しているためでこの半透明の状態はかなり長く続きます(半年以上放置すればこれらの微小成分も沈殿してかなり透明に近くなります。でもふつうはそんな状態になる前に使い切ってしまいますね)。この半透明液の部分を私は「上澄み」と呼んでいますが正確には「澄んで(完全に透き通って)いる」わけではありません。とはいえ「濁っている」と形容するほどの濁り具合でもありません。
自信がないときは、培養液を三角コーナーや生ゴミ、カーテンにかけてみて消臭効果や染み抜き効果があるかどうか確かめてみましょう。あるいは、広口の容れものに豆乳を少量入れてその1/10ほどの培養液を加えてよくかき混ぜたあと、暖かい場所に置いてしばらく様子を見ます。発酵乳酸菌液になっていれば10~12時間で固まって豆乳ヨーグルトができるはずです。
〔追記〕10円硬貨を利用して培養液が完成しているかどうかを確かめる
手元に pH試験紙がない場合は、赤黒くなった10円硬貨(10円玉)を利用するという方法もあります。小皿に培養液を少し取ってそこに古くなった10円硬貨をしばらく浸(つ)けてから指の腹でこすってみます。縁(ふち)や絵柄・文字の凸(とつ)になっている部分の酸化皮膜が溶けて銅合金の地色が現れるようなら乳酸ができているので、10円硬貨を一旦水洗いしてからもう一度培養液に浸(ひた)して凹(へこ)んだ部分を中心に指の腹で丁寧に全体をこすります。しばらくこすっているうちに硬貨の凹んだ平らの部分の酸化皮膜が溶けてきれいになるくらいならば十分な乳酸ができています。細かな凹み以外の部分が全体的にきれいになるなら培養液の pH は 4.0弱~3.5 であると判断できます。
〔2013年11月3日 追記〕こすらなくても5分程度浸けておくだけでもだいたいの判断ができます。参考のために写真を載せておきます(写真をクリックすると別窓で原寸表示します)。
左:培養開始から2日後、黒糖投入前のとぎ汁培養液(pH4.5)に5分間浸(つ)けておいたもの。
右:4日後、pH3.5に到達したばかりのとぎ汁培養液に5分間浸けておいたもの。
左:完成した玄米乳酸菌液(pH3.5弱)に2分間浸けておいたもの。
右:同じ乳酸菌液に5分間浸けておいたもの。
――10円硬貨がきれいになるのは有機酸(乳酸・クエン酸・酢酸・リンゴ酸など)の還元作用によります。クエン酸を含む梅干し・梅酢や柑橘類の果肉・果汁、乳酸・クエン酸を含む醤油・味噌・塩麹などでも10円玉や5円玉がきれいになります。野菜の漬物には乳酸がたくさん含まれているため漬物汁やぬか床のぬかなどを使って10円玉をきれいにすることもできます。
特に食酢(酢酸を含む)は pH3.5~3.0 くらいありますのでとぎ汁乳酸菌液を使うよりもきれいになります(食酢の場合指の腹でこすったときはたしかにきれいになったのですが意外にもただ浸け置きしただけではほんのちょっときれいになったかなといった程度でした。むしろ pH5.0~4.5程度の醤油に浸け置きしたときの方がずっときれいになりました。有機酸の還元力は単に pHだけで決まるものではないんですね。むしろ乳酸やクエン酸の方が金属に対するキレート作用が強いのでそのあたりも還元力に関係しているのかもしれません)。
なお、10円硬貨を使った判定法は pH試験紙による判定法と同じであくまでも pHがどのくらいかを判断できるだけですから乳酸ができたかどうかがこれで分かるわけではありません。しかしとぎ汁培養液の中では乳酸菌が乳酸を作るので pH試験紙の色の変化や10円硬貨の汚れの落ち具合が培養液の出来具合を測る目安になるということです。
〔2011年11月26日 追記〕 ふつうは培養終期にだけ pH を測るのですが、10月の初めからとぎ汁培養液をホットマット(温度設定「弱」)の上に置き始めたのを機会に培養中の pH の変化を2日ごとに測ってみました(サンプル数 17。いくつかのものは 3日後、5日後も測定)。使用した米はすべて同じものです〔山梨県北杜市22年産(2010年産)白米・精米日2011年9月21日〕。ほとんどのものが同じような pH 変化を示し、6日後までにすべてのものが 3.5 に到達しました。平均的な推移を示します。
2日後(黒糖投入前):5.0弱~4.5 4日後:4.0~4.0弱 6日後:3.5
〔2011年12月21日 追記〕 寒くなってきたのでしばらく前からホットマット上に寝かせたボトルの上にフリースの膝かけをかぶせ、その上に座ぶとんを載せるようにしています(温度設定は「弱」)。ボトルを手にとるとかなり暖かくなっていることが分かります。34℃くらいにはなっているでしょう(カーペット表面は 32℃)。そのせいで乳酸菌や酵母の増殖速度が上がって、カバーをしていなかったころに比べて培養にかかる日数が早まりました。使用した米や投入するあら塩・黒糖の量は変えていません。サンプル数は 4、すべてが同じ推移を示しています。11月26日の追記には書きませんでしたが、ホットマット上に置くようになって気温の高かった夏場と同じようにほとんどのボトルが培養終期に激しい発泡をするようになりました。
2日後(黒糖投入前):4.5 4日後:3.5
――〔2012.01.26 追記〕その後もすべてのとぎ汁培養液が同様の経過を示しています。
〔2012年2月2日 追記〕10日ほど前から冷え込みが厳しくなりました。そのせいか、培養液の激しい発泡が止まっています。
――〔2012.02.21 追記〕激しくはありませんが、pH が 3.5 になってからの発泡が再び見られるようになりました。
〔2012年2月11日 追記〕右から順に
<1日後 pH5.5弱> <2日後 pH5.0弱> <4日後 pH3.5>
<6日後 pH3.5(4日後からずっと pH3.5)>
右から2番目のみ米ぬか培養液、他はすべてとぎ汁培養液。一番右は黒糖未投入、他はすべて2日後に黒糖を投入。ホットマット(温度設定「弱」)上に寝かせてフリースの膝掛けで覆い、その上に座ぶとんを載せて保温。写真ではあまり違いが分かりませんが実際は培養液の色の差はもう少しはっきりしています。
――写真をクリックすると原寸表示します(別窓で開きます)
〔2013年3月28日 追記〕左から順に、3月11日・13日・15日…25日・27日 と2日おきにそれぞれ仕込んだとぎ汁培養液です。上と同様にホットマット(温度設定「弱」)上に寝かせてその上にカバーを掛けた状態で培養。右から1番目は1日後のもので pH5.0弱(黒糖未投入)、それ以外は2日後に黒糖を投入。右から2番目のものは3日後に pH3.5 に到達。それ以外のものは左から2番目のものを除いてすべて4日後に pH3.5 に到達しています(左から2番目のものは5日後)。
――写真をクリックすると原寸表示します(別窓で開きます)。
左端の2本はすでに激しい発泡はおさまっています。右端の2本はまだ激しい発泡が始まっていません。それ以外の5本は現在激しい発泡をしています。これらの5本は蓋を開けた途端に中身が噴出してしまうので開けてすぐに閉め、また開けてすぐに閉める…を繰り返して二酸化炭素を抜く必要があります。
なお使用した白米はすべて2010年産玄米〔山梨県北杜市産〕を自家用精米器で精白したものです(精白後10日以内)。
〔2012年7月4日 メモ〕環境温度と pH3.5 に達するまでの日数
上の2011年11月26日以降の〔追記〕にある通り、とぎ汁培養液が pH3.5 に到達するまでの日数はその時の条件によって 3~7日 とばらつきがあります。特に影響が大きいのは周囲の温度です。とぎ汁培養液を作ってからだいたい何日後に pH3.5 に達するか、これまでの経験をまとめるとおおよそ次のようになります(初日にあら塩、2日後に砂糖を加えた場合)。ただし、日数には培養液の濃度その他の条件も関係してきますのであくまでも大まかな目安と考えて下さい。なお、砂糖を加えない場合には pH は 4.0程度にとどまります。
23℃~ : 7日後
25℃~ : 6日後
27℃~ : 5日後
30℃~ : 4日後
33℃~ : 3日後
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〔2012年2月17日 メモ〕乳酸の産生
上の方で書いた通り、乳酸菌は発酵(無気呼吸・嫌気呼吸=無酸素呼吸)することによって生きていくためのエネルギー(エネルギー通貨ATP)を手に入れています。そのときに同時に乳酸を作り出します(乳酸発酵)。このため乳酸菌の増殖が進むにつれて培養液中の乳酸の量はだんだん増えていきます。その結果、培養液の pH は日毎に下がっていきます(=だんだん酸っぱくなる)。そのような理由で、酸っぱさの度合いや低下していく pH の値が乳酸菌液の出来具合を測るための指標(ものさし)になるわけです。
ところが、培養液中に酸素が溶け込んでいると乳酸菌や酵母・麹はその酸素を使って酸素呼吸(好気呼吸)によって ATP を作り出します。なぜなら、酸素呼吸は無気呼吸(発酵・嫌気呼吸)に比べると格段に効率よく ATP を手に入れることができるからです。酵母や麹は酸素が大好きですが、乳酸菌はほどほどの酸素が溶けている環境(たとえば1日1回程度かき混ぜられるぬか床の中)を好みます。そして、酸素呼吸によって増殖している乳酸菌は乳酸を作り出しません。ぬか床をかき混ぜるのは乳酸菌が発酵(無気呼吸)して過度の乳酸を作り出すのを防ぐためです。かき混ぜずに放っておくとぬかみそが酸っぱくなってしまいます。
ということなので、とぎ汁培養液を大きなボトルに入れて上部に沢山の空気が入っているような状態だと液面近くにいる乳酸菌は酸素呼吸をするため乳酸を作りませんが、それでも乳酸菌や酵母は増殖しています。そんな状態でも培養液の下の方では乳酸菌も酵母も無気呼吸をしています。なお、酸素呼吸の場合も無気呼吸の場合も糖分や塩分が栄養源として消費されるため甘みや塩辛さはなくなります。
〔2011年8月25日 メモ〕乳酸菌液の匂いと産膜酵母(さんまくこうぼ)の白い膜
培養開始後5~7日で pH が 3.5 程度になり酸っぱさがはっきり分かるようになったあと徐々に熟成が進むのですが、気温が低かった頃は熟成すると芳香がはっきりと分かりました。しかし気温が上がるにつれて芳香が薄れ、いつしか酵母の匂いつまりパンのイーストの香ばしい匂いがするようになりました。さらに使用した後上の方に空気がたくさん入ったボトルの乳酸菌液の表面にうっすらと白い膜のようなものが張るものも出てきました。完全な膜状にはならないまでも白いものが浮かんだ状態になるものもあります。この白い膜の正体は産膜酵母(film yeast:産膜性酵母)*1と呼ばれる野生酵母です。
このような状態になった乳酸菌液は薬っぽい匂いがします。ちょっと不快な匂いです。飲んでみると酸っぱいだけでなくちょっと苦い味がします。この薬っぽい匂い・苦みの原因物質は産膜酵母が作り出したものです*2。産膜酵母の膜ができている乳酸菌液は酵母や産膜酵母の旺盛な酸素呼吸によって二酸化炭素も発生するのでボトルの口を開けるとプシュッと音がします。このような白い膜が現れたらこまめに攪拌して産膜酵母を酸素の少ない下の方に追いやるようにしているうちに自然に薬っぽい匂いがしなくなり、苦みも消えます(産膜酵母は酸素がないと膜を作れないためボトルの上部まで乳酸菌液を満たして蓋をきちんと閉めておけば白い膜はほとんど発生しません)。なお、産膜酵母の作る膜は糠漬けやワイン製造過程でごく普通に見られるものでたとえ口に入ったとしても無害です。また、産膜が現れるということは乳酸菌が十分に増殖した後に酵母の仲間が増えたことを意味しています。つまり産膜酵母による膜の発生は乳酸菌培養が成功した証(あかし)なのでがっかりする必要はありません。
ボトルの口のところまで乳酸菌液を満たしておけば産膜酵母は酸素呼吸ができないため膜を作ることができません。乳酸菌液の薬っぽい匂いや苦みがどうしても気になる場合は小さめのボトルに入れ替えて、口のところまで乳酸菌液が満ちている状態を保つようにするとよいと思います。また、長期間保存する場合はボトルの口をきちんと閉めておくことによって酸素の供給を絶つことができるので膜の発生を抑制できます。
イーストの匂いの元は普通の酵母(酵母菌)です。この真菌は酸素がなければ発酵し麹〈糀〉(こうじ)などと連係してアルコールをつくりさらにアセトアルデヒドやエステルなどの芳香物質を産生します。アセトアルデヒドはたくさんあると悪臭(お酒を飲んだ人が口中から発する熟した柿のにおいの正体がアセトアルデヒドです)がしますが、微量だと芳香の原因物質になります。気温が低かったときの乳酸菌液の芳香は酵母や乳酸菌がつくり出したエステルやアセトアルデヒドによるものです。なお、私が培養した米乳酸菌液の中には大小の楕円酵母・長短の桿形酵母、乳酸桿菌、各種の麹菌がたくさん観察されました。乳酸球菌や円形酵母(パン酵母の仲間)も見られました。
この酵母も酸素が豊富にあると普通の呼吸をして増殖します。ボトルの上部に空気がたくさんある状態で放置すると(乳酸菌液の中にデンプンや糖があれば)酵母が酸素呼吸をして増殖し乳酸菌液の表面にたくさん集まっています。イーストの匂いがするのはこんな状態になっているときです。
――〔2012.06.18 追記〕 下の「古くなった乳酸菌液について」で触れていますが、産膜酵母は高温を好むようです。逆に低温は産膜酵母にとっては快適な環境ではないようです。実際、乳酸菌風呂に白い膜がたくさん発生するのは気温が20℃を越えてからであり、気温の低い晩秋~春にかけては膜の発生は少なくなります。そんなわけで私は現在、飲用に用いる乳酸菌液は小さなペットボトルに入れて冷蔵庫に保管するようにしています。
*1 産膜酵母は酵母の仲間ですがどちらかというとカビの仲間とよく似ています。形状ばかりでなく産膜酵母はカビ類と同様にセルロースやペクチンなどの多糖類を分解する酵素を作り出します。梅干し作りでも産膜酵母の白い膜が張りますが、特に紀州(和歌山)では産膜酵母が作る酵素の働きを利用して梅の果肉に含まれるセルロースやペクチンを分解させ、柔らかな梅干しを作っています。
*2 産膜酵母の白い膜は薬っぽい匂いがします。糠床などにできた膜が発するこの匂いは「セメダイン臭」とか「シンナー臭」といわれていますがこれは産膜酵母が作りだした酢酸メチルというエステルの一種が発する匂いです。この酢酸メチルは油性塗料の薄め液であるシンナーやセメダイン、マニキュアの除光液などに含まれる成分の一つなのでそう呼ばれるわけですが、実はバナナやリンゴなどの果実の持つ匂いの成分を構成する化合物でもあります。エステル類は大量にあると薬っぽい匂いなどがするので悪臭と感じられますがごくわずかだと果物の芳香として感じられます。人間の嗅覚の妙ですね。ですから産膜酵母が液面に膜を作っている乳酸菌液の下の方ではすり下ろしリンゴのようないい匂いがしていることがよくあります。私の場合、噴霧用の乳酸菌液は残りが少なくなってくると新しい乳酸菌液をつぎ足して使っています。スプレーボトルの液面には白い膜が張っているのですがスプレーしたときにリンゴの香りがします。このスプレーボトルの乳酸菌液を他のスプレーボトルに少し入れるとそちらのスプレーボトルの乳酸菌液もしばらくするとリンゴの匂いがするようになります。
なお、糖の代わりに米麹を使った乳酸菌液でもボトルの上部に空気がたくさんあると液面に白い膜が張りますがこちらはシンナー臭もなく苦みもありません。この膜は酢酸菌膜と呼ばれるもののようです(〔発展編5〕黒糖と米麹の併用/米麹と産膜性酢酸菌 )。
〔2013年5月14日 メモ〕二酸化炭素(炭酸ガス)の泡について
培養中や保存中のペットボトルの蓋を開けると培養液にかかる気圧が下がるため、培養液や乳酸菌液の中に溶け込んでいた二酸化炭素が泡になって出てきます。上に書いた通り、培養初期(糖を投入する前)には小さな泡がわずかに発生します。これは乳酸菌の増殖にともなって一部の乳酸菌が出すものですが、その後 pH が 3.5 に到達する前後に大量に発生する大粒の泡は酵母の増殖に伴うものです。乳酸菌の増殖にともなう小さな泡は量が多くないため気がつきにくいのですが消えにくいのが特徴です。これに対して酵母の増殖にともなう大粒の泡は比較的消えやすいという性質を持っています。培養後期や終期にも一部の乳酸菌が出す小さな泡は発生しているのですが酵母の出す大粒の泡に比べてその量が少ないためにあまり目立ちません。
ところが培養後期・終期に大量の泡が発生している場合、なんとなく粘りけがあって泡が消えにくいことがときどきあります。そういうときには酵母の増殖による大きな泡だけでなく乳酸菌の増殖による小さな泡も同時に発生していることが多いため、ボトルを斜めにしてよく観察すると下の方から小さな泡がゆっくりと昇ってきていることが分かります。この場合、pH もごくわずかながら低下しています。
〔2012年6月1日 メモ〕古くなった乳酸菌液について
作ってから1か月以上経った乳酸菌液を使って豆乳ヨーグルトを作ると、きれいに固まらない上にできあがるまでの時間もかなり長くかかります(固まるまでに時間がかかりますがやわらかでなめらかなおいしいヨーグルトができます。ちょっぴり酸味もあります)。
しかしながらこのような乳酸菌液の中にはできたばかりの乳酸菌液に比べてずっと沢山の乳酸菌や酵母・麹が生きています。しかも、2か月近く経った乳酸菌液の pHは 3.0前後になっています。産膜さえなければ飲用してもむしろおいしいくらいです。したがって消毒や殺菌、乳酸菌風呂などに用いてもまったく問題はありませんし、噴霧したり肌に塗ったりしてもその効能は変わりません。殺菌・消毒能力はむしろすぐれているかもしれません。
まだ私の推測に過ぎませんが、古くなった乳酸菌液は乳酸菌の増殖力が落ちているのではないかと思われます。その理由の一つとして、米酵母が増殖しすぎて乳酸菌の勢力が頭打ちになり乳酸菌の増殖力を低下させているのではないかと思い、1か月半ほど経った乳酸菌液を使ってちょっと実験してみました。
最初に、産膜を取り除くためにキッチンペーパーなどを使って濾過します。濾過した乳酸菌液を鍋(なべ)に移して中火で温めます。55℃くらいになったら火を止め、そのまま放置して液温が下がるのを待ちます。40℃くらいまで下がったら、洗ってきれいにしておいた元のボトルに戻し、あら塩(1リットル当たり5g=小さじ1杯強)と黒糖(1リットル当たり15g=大さじ1杯強)を加えます(実験時の pH は 3.5弱)。
乳酸菌は熱にもかなり強いので沸騰させても生き延びることはすでに確かめてありました。酵母は種類によって熱に対する耐性が異なります。日本酒を造るときに使われる酒精酵母は非常に熱に弱いようですが、とぎ汁乳酸菌の中にいる酵母については、円形酵母と楕円酵母および短い桿形酵母は比較的熱に弱く、長い桿形酵母はけっこう熱に強いことが分かりました。麹は熱にも強いです。そういうわけで、55~60℃に加熱した乳酸菌液には乳酸菌とわずかな長い桿形酵母と麹が残ります。円形酵母・楕円酵母・短めの桿形酵母はほとんど残っていません。中でも乳酸菌はたくましく、加熱する前に比べて連鎖したものが増えていました。つまり加熱によって乳酸菌は増殖したわけです。麹がたくさん生き残っていることは予想外でした。
そのまま数日置いたものを使って豆乳ヨーグルトを作ったところ、それなりの固さのきれいなものができました。食べてみるとこくがあっておいしい。
〔追記〕 加熱処理した日から10日余り経ったところで pH を計ってみると 3.0 になっていました(かなり酸っぱい)。また、顕微鏡で見ると円形酵母を除く楕円・短桿形・長桿形の酵母が増殖していました。中でも長桿形酵母がかなり増えていました。もちろん乳酸菌も増えていますし麹もそれなりに生きています――〔追記〕加熱によって死んだ酵母などの死骸が乳酸菌が増殖するための栄養源になっている可能性があります。古くなった乳酸菌液にアミノ酸やミネラルを含む水に浸した玄米や少量の豆乳などを入れると乳酸菌が増殖することから古くなった乳酸菌液には乳酸菌が増殖するためのアミノ酸等が不足しているのではないかと推測されます。
〔2012年11月28日 メモ〕古くなった乳酸菌液はだいたい1か月ごとに1リットルあたり糖を小さじ1杯強(約5g)とあら塩を少々入れることで4か月くらいはもたせられるようです。豆乳ヨーグルトも時間をかければおいしいものができます。通常の乳酸菌液だとヨーグルティアを使った場合 40℃・7~8時間かかりますが古くなった乳酸菌液でも 40℃・9~10時間で固まります。また、古くなった乳酸菌液も飲用や噴霧用にまったく問題なく使えますができるだけ使い切るようにするのがよいでしょう。私は古くなったものは乳酸菌風呂用に使ったり、洗濯前の浸け置きに使ったりしています(汚れのついた台布巾や手拭きに使ったタオル、雑巾などは洗濯する前にバケツに入れた乳酸菌液にしばらく浸けておくとしみやこびり付いた汚れが取れて結構きれいになります)。
〔2013年5月22日 追記〕 2012年3月5日に作ったとぎ汁乳酸菌液を2012年4月2日に50mlだけ取り分けて、それに水50mlと黒糖・あら塩を少々加えたものを小さなボトルに入れて常温で放置してあります。豆乳ヨーグルトの種に使ったりしたので現在は20ml程度しか残っていません(ボトルの6分の1くらい)。現在の PH は3.0 です。これを顕微鏡で覗いてみました。糖もあら塩も与えずに1年以上放っておいたものなので乳酸菌や酵母は減っているだろうなと思いましたが、乳酸菌の数はできて間もない乳酸菌液よりも多く、酵母菌もかなり残っています(円形・楕円形・短桿形のものは少ないですが中桿形・長桿形のものは増殖しています)。麹菌もふつうの乳酸菌液の中と同程度います。液の色が大分薄くなっているところを見ると残っている栄養分を摂取してみなたくましく生き延びているようです。
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〔メモ〕乳酸菌と酵母
乳酸菌はビフィズス菌や大腸菌、赤痢菌などと同じ細菌の仲間です。乳酸菌は発酵するときに乳酸を作り出す細菌の総称です。稲の種籾の中には複数種の乳酸菌(球菌・桿菌)が住んでいます。同じように種籾の中にはいろいろな種類の酵母も生きています。酵母には球形(円形)のもの・卵形(楕円形)のもの・さお状(桿形)のものがありますが、円形や楕円形、桿形の酵母にもそれぞれいろいろな種類のものがたくさんあります。米のとぎ汁や玄米・米ぬかには種籾に由来するこれらの乳酸菌や酵母、それに麹が生きています。なお、酵母はその形ではなくその増殖の形態〔出芽酵母・分裂酵母〕で分類されているようです。米とぎ汁に生息している酵母を観察する限りでは円形や楕円形のものは出芽酵母が多く、桿形のものはそのほとんどが分裂酵母であるように思われます。
酵母はカビやキノコなどの真菌の仲間ですが単細胞性であるという点で多細胞生物であるカビやキノコとは異なっており、その大きさもカビやキノコよりもずっと小さいのが特徴です。乳酸菌の大きさ(直径あるいは太さ)はだいたい0.数μm(μm:マイクロメートル=百万分の1メートル=千分の1ミリメートル)で、酵母の大きさ(直径・太さ)はほぼ数μmです*。つまり、乳酸菌は酵母のほぼ10分の1くらいの大きさに当たります。同じような形のものなら直径や太さが10分の1になると体積は1000分の1になりますから、単純に考えると、生存したり増殖したりするために必要な栄養分もほぼ1000分の1で済むということになります。このため、乳酸菌は酵母よりもはるかに少ない栄養分で増殖することができるわけです。
しかも直径や太さが10分の1になると体表の面積は100分の1になるので、体積の低下の割(1000分の1)には体表面積の低下(100分の1)は少ないといえます。したがって身体の小さな生物ほど〔体積に対する表面積の割合〕が大きくなります。しかも、細菌類や真菌類は外界との間で体表を通して栄養摂取や産生物の排出(代謝(たいしゃ))を直(じか)に行なうため、身体が小さいほど効率よく代謝が行われます。そのため栄養条件などがよければ乳酸菌は酵母よりもずっと速く増殖することができます。
〔注〕* 乳酸菌や酵母には非常に沢山の種類があってその大きさも大小さまざまです。ですから実際にはここに示したサイズよりも小さな乳酸菌や酵母もいますし逆にこれよりも大きなものもいます。
〔2012年2月19日 メモ〕塩麹
麹味噌を作るときなどに使われる塩麹(しおこうじ)、最近は料理の味付けなどによく使われています。私もじゅりさんの影響で、池田屋さんの「塩入り米麹」を購入していろいろ重宝に使っています。乾燥状態で送られてきた「塩入り米麹」に水を加えて 7~10日間暖かいところで寝かせると、米粒の中のデンプンやタンパク質を分解して自らの栄養源にするために麹(コウジカビ)は一生懸命にデンプン分解酵素やタンパク質分解酵素を作ります。麹は酸素がないと活動ができないので一日に一回程度よくかき混ぜて酸素を補給するようにします。下部は特に酸素不足になりがちですから上下を入れ換えるようなつもりでかき混ぜる必要があります。塩麹の中には麹が作り出したデンプン分解酵素やタンパク質分解酵素がたくさん含まれています。中には米のとぎ汁とは桁違いに多くの麹がいますが、やはりというべきか塩麹の中には酵素の働きでデンプン・タンパク質が分解されてできたブドウ糖・アミノ酸を栄養源にして酵母や乳酸菌もたくさん生きています。
というわけで、この塩麹をとぎ汁培養液を作る際にあら塩と一緒に少量入れると培養初期の乳酸菌や酵母の数も多くなり、同時に酵素の量が増えてデンプンをブドウ糖にする反応が活発になります。その相乗効果で乳酸菌培養の速度も上がります。またアミノ酸も作られるため料理などに使う際においしさが増します。入れる量は、スプーンの先にちょっとくらい。塩麹の量はほどほどに。
〔2012年10月13日 余談〕たんこぶと米粒
乳酸菌が麦芽糖を栄養源にすることができると知って、子どもの頃たんこぶを作って家に帰ると祖母や母が口の中で細かくかみ砕いた米粒を塗ってくれたことを思い出しました。なんとなく痛みが和らいでたんこぶの腫れが治まったように記憶しています。実際に数時間のうちに乳酸菌が増殖して乳酸を作り出したためにそうなったのかどうかは疑問ですが…。唾液の中にはデンプンを分解してデキストリン(多糖類)を作り出す酵素αアミラーゼがたくさん含まれています。デキストリンが大量にあると米粒に含まれているβアミラーゼによってたくさんの麦芽糖が作り出されます。御飯をよく噛むと甘くなるのはαアミラーゼとβアミラーゼとの連携によってデンプンが麦芽糖に分解されるためです。ちょっと面白そうなので実験してみました。
白米を10粒ほど口に含み歯で細かくかみ砕きます。同時に唾液が分泌されて細かく砕けた米粒と唾液が混ざったものが口の中にたまります。この混合物をシャーレに移し数日間観察することにしました。この中には米粒に含まれる各種の栄養分や酵素が含まれています。また唾液に含まれるαアミラーゼもかなり入っているはずです。乳酸菌が増殖するために必要な栄養分やミネラルは十分あるでしょうから期待が持てそうな気がします。
最初のものを顕微鏡で見るとわずかながら乳酸菌がいます。でもその数は少ない。プレパラートを隅から隅まで覗いて見ましたが、酵母は見当たりませんでした。
pH の変化です。初日:8.0、1日後:6.0、2日後:5.0、3日後:4.5、4日後:4.0、5日後:4.5…。
糖を入れないとぎ汁培養液と同じようにこのまま 4.5~4.0 の間で推移しそうです。シャーレの中の混合物はわずかですから空気も十分に供給されるため酸素呼吸をする乳酸菌もかなり多いのではないかと推察されます。5日後のものを顕微鏡で観察してみました。
驚きました。完成したとぎ汁乳酸菌液よりもはるかにたくさんの乳酸菌が増殖しています(濃いとぎ汁そのものなので当然かもしれません)。栄養分が固まっているところには乳酸菌の小さなコロニーができています。酵母も卵型(楕円形)を主に球形、桿形のものがかなりたくさん見られます。予想していた以上の増殖率です。唾液のαアミラーゼが効いているようです。
ということで、白米粉と少量の塩麹を水に溶かしたものでも同じような結果が得られるのではないかと予想。あるいはアミラーゼ群(ジアスターゼはアミラーゼの別称)を沢山含む大根おろしと白米粉との組み合わせも面白そうです。暇なときにやってみます。
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私の使っている米について
〔2012年10月2日 追記〕 (1) 私が米乳酸菌培養を始めた2011年5月初旬から同年9月末までは「八ヶ岳たんぼのなかまの無農薬米」という玄米(2010年清里高原産・2011年精米)を家庭用精米器で精白した白米を使っていました。そして同時にできる米ぬかを米ぬか培養に使っていました。
(2) 2011年の10月初めからは山梨県北杜市産の無農薬米「ひとめぼれ」(2010年産・2011年精米)を使っています(2012年10月現在まで)。この白米はもうすぐなくなるのでその後はまた(1)の玄米(2010年産以降)を精白したものを使う予定です。
(3) 私が炊く米は2日に1合で、白米と玄米とを交互に食べているのでこのように古い米をずっと使い続けているわけですが、このような古い米であっても乳酸菌や酵母は確実に生きています。玄米浸潤培養ではいまだに2009年産の玄米(今や古々々米に近い)を使ったりもしますがその中にも乳酸菌や酵母はしぶとく生き残っています。このような古い米であっても新米を使った培養とほとんど同じような結果が得られるというのは驚くべきことです。米乳酸菌や米酵母がいかにたくましいかを示していると思います。
〔2013年7月15日 追記〕2011年産の玄米を消費し終わったため3か月ほど前からは2012年産の玄米を精白した白米を食べています。
培養液の濾過・沈殿培養液・ボトル等の洗浄
〔2011年5月18日 追記〕培養液の濾過
できあがった乳酸菌液は上澄み部分だけ取り分けて使うのがよいと思います。取り分ける際はじょうご(漏斗)に茶漉し(ちゃこし)などを置いて浮遊している胚芽などを取り除きます。浮遊してきた沈殿物が混ざらないように静かに濾し取ります。ボトルの底の方に残ったやや濁った乳酸菌液を利用したい場合は、沈殿物が流れ込まないように気をつけてキッチンペーパーや木綿の布などで液体部分だけを濾し取ります(コーヒーフィルターを使えばかなりきれいなものが手に入りますが時間がかかるのが難点です)。これを先に取り分けたものと一緒にします。時間が経つと細かなデンプン等がわずかに沈殿しますが上の方だけを使うようにすれば大丈夫です。
――〔追記〕飲用にするものは上澄みをコーヒーフィルターで濾過してから冷蔵庫に保管しておくと産膜酵母が発生せず粉っぽさも薄れます。
〔2012年6月1日 追記〕培養液の沈殿物
とぎ汁培養液のボトルの底にはデンプンかすのほかにとぎ汁に含まれている米ぬか成分(甘皮や胚芽粒など)が沈殿しています。完成した乳酸菌液を飲用にしたりスプレーしたりするときにはこれらの沈殿物は邪魔になります。そのような理由から私はこれまで完成したと思われる段階で上記のようにして上澄み部分だけを取り分けて、ボトルの底に残った沈殿物はそのまま捨てていました。
しかし、濾過した沈殿物をパック代わりに顔に塗るとつるつるになるというグレープおばさんのコメントや、乳酸菌培養に培養液の沈殿物を再利用しているというroujinさんのコメント * を拝見すると、沈殿物の中にはたくさんの乳酸菌や酵母や麹が残っているのではないかと思われます。さらに数か月を経た乳酸菌液の中でも乳酸菌や酵母の数が減っているどころか増えていること、分裂した直後の連鎖した乳酸菌や出芽酵母などが少数ながら見られることをこれまでの経験から知っていましたので、先日濾過したあとにキッチンペーパーに残っていた沈殿物を容器に取り少量の水を加えて攪拌してしばらく置いた後にその上澄み液を顕微鏡で覗いてみました。予想通り、そこには乳酸菌や酵母と想いの外たくさんの麹がいました。
沈殿培養液
というわけで、培養液から上澄みを取り分けた後にボトルの底に残る沈殿物を使った乳酸菌培養の実験をしてみました。初期の乳酸菌や酵母の数がとぎ汁よりも多いので加えるあら塩と黒糖の量はとぎ汁培養の場合よりもやや少なめにします。
ボトルの底に残った沈殿物はそのままにして、それにあら塩(1リットルあたり10グラム弱=小さじ1杯×2)を入れ、ボトルの首のあたりまで水を加えます。2日後に黒糖(1リットルあたり30グラム弱=大さじ1杯×2)を加え、そのまま数日で pH が3.5 になりました。
――最初にあら塩を入れるときに米ぬかと米粉をそれぞれ1リットルあたり小さじ半分程度入れるとさらに確実です。あるいはどちらか一方を1リットルあたり小さじ1杯でもよいでしょう。
沈殿物の中には乳酸も含まれていますので当初の pH は 4.5~5.0、2日後に黒糖を加える際には 4.0~4.5 程度になっていますが、培養の経過はとぎ汁培養の場合とほとんど同じです。できあがった乳酸菌液の中には沢山の乳酸菌や麹・酵母がいます。飲んでみるとやや粉っぽい感じがしますが、飲用以外の用途ならとぎ汁培養乳酸菌とまったく同じように使えると思います。実験の結果できた沈殿培養乳酸菌液の上澄みは乳酸菌風呂F(5月22日)に使うことにしました。また、汚れ物を洗濯する前に浸け置きするにもそれなりの量の乳酸菌液が必要ですが、沈殿培養で作った乳酸菌液なら惜しみなく使えるのでけっこう重宝しています。
――〔追記〕沈殿培養乳酸菌液も上澄みをコーヒーフィルターで濾過すれば粉っぽさがなくなって飲用等に使うことができます。
〔注〕* 豚に乳酸菌液を与える実践:roujinさんのコメントにはご自身がインドネシアの豚小屋で経験した乳酸菌液の実験について興味深い内容が書かれています。乏しい資材の中で苦心して米乳酸菌の大量培養をなさったそうで、黒糖やあら塩が手に入らないので白糖と食卓塩を使ったとのこと。実験結果は
(A)通常の予防接種やビタミン剤、抗生物質投与の50匹の飼育
---結果は、死亡率:10%(5匹)、延べ下痢日数:600日強
(B)初期予防接種のみで、他薬剤なし。豚一匹当たりの乳酸菌量/日=100cc
---結果は、死亡率:0(0匹)、延べ下痢日数:1日
だったそうです。
白糖でもちゃんとした乳酸菌液が得られること、培養液の沈殿物も利用できること、90℃の高温殺菌をしたとぎ汁でも乳酸菌液が作れることなど貴重な情報が含まれていますので一度目を通しておかれることをおすすめします。
〔2011年9月6日 メモ〕ボトル等の洗浄
乳酸菌の培養に失敗しないためには、使用するボトルや計量カップ・じょうご(漏斗)、濾過用の布等はできるだけ清潔なものを使用する必要があります。汚れたボトル等を使うと失敗する確率が確実に増します。また、使ったあとは必ず洗浄・洗濯しておくことも大切なこころがけです。正常にできた乳酸菌液が入っていたボトルは水で数回すすぐだけで大丈夫ですが、培養に失敗したボトルは必ず洗剤を使って洗浄して下さい。特に汚れのひどいボトルは培養に用いない方が賢明です。それでもどうしても使いたい容器の場合は、この記事の末尾にある「黒カビについてのまとめ」にあるような方法で洗浄することをお勧めします。
〔2013年5月27日 メモ〕フルフルボトル洗い
先日ホームセンターで「フルフルボトル洗い」なるものを見つけました。私は乳酸菌培養に使うボトルは再利用を繰り返していますが、培養中に浮遊してくる沈殿物のために首の辺りにどうしても汚れがついてしまいます。この汚れはこびり付いているわけではないので使い終わった後や濾過した後にブラシなどでこすれば落とせますがこの作業はけっこう面倒です。しかしこの「フルフルボトル洗い」、買ってきてしばらく使っていますがなかなかのすぐれものだと思います。ボトルの中に水と一緒に入れて横に振るだけなのでとても楽です。
水について
〔2011年5月21日 追記〕大事なことを書き忘れていました。とぎ汁のときにはあまり意識しなかった水ですが、米ぬかの場合、水道水を使うと比較的大きな泡が出て味がちょっと変になることがあります――そうならないときもある。苦みが加わった感じ。これはおいしくないので pH4 であってもすべて廃棄しています。培養には湯冷まし水か浄水器で濾過した水を使うのがよいでしょう。
というわけで、今は『ブリタ』の「マレーラ XL」(3.5リットル) という簡易浄水器で水道水を濾過した水を使っています。私のところの水は塩素が多いので湯沸かしポットに入れる水は以前からこの浄水したものを使っていました。お茶の味がまったくちがいます。発酵とは関係ありませんがこの水を入れ続けて約2年半、ポット洗浄無用です。白いカルシウム塩が付着しません。浄水器本体は楽天やアマゾンで探せばそれなりの価格で手に入りますが日本仕様の交換用フィルターカートリッジの単価はアマゾンの「日本仕様 限定増量パック8個セット」が一番安いと思います(並行輸入品は安価ですがフィルターの除去性能が違います)。
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米ぬかの利用
胚芽に含まれる乳酸菌の発育を促進する物質
飯山さんのところの掲示板の「手作り乳酸菌の摂取方法」というスレッドを見ると必ずしも成功した方ばかりではないようです。私の場合は拍子抜けするほど簡単にできてしまったのが不思議でしたが、ネットを検索して<米胚芽の乳酸菌発育促進物質について(その 1)>(そのページの「CiNii 論文PDF - オープンアクセス」というリンクから論文のpdfが読めます)を読んでその理由が分かりました。
その論文によると、米胚芽には乳酸菌の発育を促進する物質が含まれており、その主たる成分は水溶性のミネラル(マンガンイオン・Mn2+)であるということです。
実は、私が現在食べている米は譲ってもらった玄米を家庭用の精米器で精米したものなのです。家で精米した米には市販のものよりも沢山の米ぬかが付着しており、そのとぎ汁にはかなりの量の胚芽が含まれています。そんなわけで、私が使ったとぎ汁には乳酸菌の発酵(発育・増殖)を促進する胚芽が通常のとぎ汁よりも沢山含まれていたということです。私が乳酸菌の培養に苦労せず成功した大きな理由はこの胚芽の存在だったと推察されます。
〔メモ〕 玄米や米ぬか・白米には稲の籾(もみ)に由来する乳酸菌等が付着して生きています。ということは、乳酸菌の培養には米ぬかが利用できるということです。その上、玄米から削り取られた胚芽のほとんどは米ぬかに含まれていますから、胚芽には乳酸菌の発育を促進する作用があること、胚芽にはタンパク質やミネラルも含まれているということを考えると米ぬかは乳酸菌の培養にはとても適しているということが分かります(白米粒のへこんだところは本来胚芽があった部分です。精米によって削り取られた胚芽のほとんどは米ぬかに含まれていますが一部はかけらとして白米に付着しています)。ただし、米のとぎ汁に比べると米ぬかにはデンプンが非常に少ないという欠点があります。
というわけで、米ぬかとあら塩と水をペットボトルに入れて乳酸菌培養の実験をしてみました。成功です。米ぬかの量はあまり少ないと発酵が進むのに時間がかかります。いろいろ試した結果、1リットルあたり大さじすりきり2杯(約9グラム)くらいが多くもなく少なくもなしといったところでしょうか。
米のとぎ汁を使った乳酸菌培養がうまくできないとか、もっとたくさんの乳酸菌を培養したいという方は、米ぬかを利用してみるのも一つの手です。とぎ汁が薄いようなら少量の米ぬかを加えると効果があるかもしれません。もちろん自家製でない市販の米ぬかでもかまわないと思います。家では米を炊かないという人でも米ぬかを買ってくれば乳酸菌の培養ができるのではないかと思います。是非挑戦してみて下さい。
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乳酸菌液の利用・活用・効能
最後に乳酸菌液の利用・活用やその効能についてまとめておきます(順不同。まだまだいろいろありそう。気がついたものを追加していきます。間違いがあればコメント欄でご指摘下さい)。また、「こんな使い方もあるよ」という方はコメント欄でお教えください。
〔メモ〕 とぎ汁培養や米ぬか培養によって作られた乳酸菌液には乳酸菌のほかに酵母やいろいろな種類の麹も共生しています。そして、これらの微生物(細菌・真菌)はタンパク質や炭水化物(デンプン・糖)などの栄養分を分解する酵素を持っています。また乳酸菌液には乳酸菌が産生した乳酸(pH 3.5~4.0)や麹・酵母が作り出した有機物(アミノ酸・アルコール・アルデヒド・エステル等)のほか、とぎ汁にもともと入っていたビタミンBなどの栄養分も含まれています。以下に示した発酵乳酸菌液の性質は、細菌や真菌そのものの働きと上記のような各種の有機物や培養液に入っているミネラル等の働きによってもたらされるものです。
〔まとめ〕乳酸菌液の利用・活用および各種効能
●スプレーボトルに入れて噴霧する*。流し台の三角コーナーやトイレ、ぞうきん、汗臭さの残ったシャツ、匂いのついたカーテンなど…。消臭効果がある。三角コーナーの場合、消臭効果があるだけでなく乳酸の殺菌作用によって容器に着くぬめりがなくなります。ただし黒カビや赤カビなどはとぎ汁乳酸菌液の pH3.5 程度では退治できません。乳酸菌液をつけるとこすり落としやすくはなりますが…。
――スプレーボトルの中に入れた乳酸菌液の中でも乳酸菌や酵母が生きて呼吸しているので二酸化炭素が発生します。そのため噴霧口のところから乳酸菌液が垂れて落ちることがあり、それがレバーのばね部分に入り込んで固まるとレバーの動きが固くなります。そんなときはばねの入っている部分にクレ550を1回吹き付けてやればレバーの動きが回復します。なおクレ550の成分はほとんど灯油と同じなので灯油をスポイトなどでばねの部分に滴下するという方法でも大丈夫です。ちょっとベトつくのが難点ですがサラダ油などでもよいはずです。
●花粉の季節には部屋にスプレー噴霧すれば乳酸菌が花粉を食べてくれる。
●風呂の湯に入れる(50ml~。培養に成功するようになってから私は500ml入れています――拡大培養をし始めたので今は1リットル、2リットルと…増やしています)。全身弱酸性のしっとり肌になり、角質がぼろぼろしなくなる。べたべたせずさっぱりした感じ。湯から上がっても身体は流さずに…。私くらいの年齢になると加齢臭が気になりますが、もしかすると効き目があるかも…。なお、1リットル以上入れるようになってからは湯垢が付かなくなりました――身体から出た垢や脂肪・タンパクなどの有機物は乳酸菌のエサになるらしい。
――〔追記〕現在私は乳酸菌液を20リットル程度(14%)入れた乳酸菌風呂に入っています。この程度の濃度だと少なくとも20日以上、うまく管理すれば数ヵ月は湯の交換をせずに乳酸菌風呂を維持できます。
●石鹸シャンプー(カリウム石鹸・弱アルカリ性)のリンスとして 10%のクエン酸水溶液をぬるま湯で薄めて使っていましたが、代わりに乳酸菌液をぬるま湯で薄めたものを使うことにしました。頭皮がしっとりしていい感じです。髪の毛もさらさらになります。
●そのまま素肌にスプレーするのもあり。水仕事の後の手、冬場の乾燥肌にもよいのではと思います。洗顔した後やひげ剃り後のローションとしても使っています。カミソリ負けを治し荒れた肌をしっとりとした状態にしてくれます。なお肌に用いるときは一旦手のひらにスプレーしてから塗ります。
●新陳代謝を促進する働きや色素に対する働きを持っているので、吹き出もの(にきび)を治す効果や色素沈着したニキビ跡を目立たなくする効果がある。また、メラニン生成をおさえる働きによってシミやくすみ・毛穴の黒ずみ・肌の色むら等を改善する。古い角質を溶かして表皮の細胞を活性化することによって新しい皮膚細胞の形成を促す。角質層のセラミド生成を促して肌を保護するバリア機能を高める。保湿効果もある。その上、分子が大きいため皮膚の浅い部分に作用するので肌に対する負担は少ない。――〔追記〕顔や手には<乳酸菌を培養する(8)>でご紹介している豆乳ヨーグルトの乳清がおすすめ。pH 4~5 で乳酸菌液よりも酸性度が弱くよりしっとりしています(べたべたはほとんどありません)。飯山さんの掲示板でエコママンさんから、乳清にオリーブオイルを少量入れて使っていらっしゃることをお聞きしました。手元にオリーブオイルがなかったので乳酸菌液のおかげでほとんど使うことがなくなったスクワランオイルを少し入れてみました。なかなかいいです。オイルが入っているのでリップクリーム代わりにも使えて重宝しています。
●赤ちゃんのおむつかぶれや長時間椅子に座ることによってできる突発性の褥瘡(じょくそう)の予防や治療に効果がある。
●軽いやけどや切り傷も乳酸菌液を塗ると治りが早いようです。肌が乾燥してかゆみがあるときにも効果があります。
●下の「とぎ汁乳酸菌に関するブログ記事等」にリンクを載せたメルシーフードさんの記事<アトピー改善の切り札は 乳酸菌だ!!①>によると乳酸菌液の飲用や皮膚への塗布はアトピーにもよく効くようですね。副作用のある薬にくらべて元々人間の腸内や皮膚に住んでいる乳酸菌や食物に含まれる酵母・麹を摂取することはリスクが少なく効果も大きいのではないかと思いました。私はアレルギー体質ではあるものの幸いアトピーではないみたいですが皮膚が弱いのはたしかで、乳酸菌液の塗布によってかゆみやかぶれから解放されたのがとても嬉しい。
●歳を取ったためか数年前から手の爪が割れやすくなって困っていました。私は妙なところが潔癖で日に何度も石鹸で手を洗います。それもあって爪が割れやすいのだと思いますが、手を洗った後乳酸菌液を手の平にスプレーして両手に擦り込むようにしてみたところ爪が割れることがほとんどなくなりました。今では外出して帰ってきたときなどちょっとした手洗いのときは石鹸を使わずに乳酸菌液だけで済ますようにしています。
●どんどん飲む。お腹の調子がよくなる。乳酸菌類には一般的に抗変異原性、腫瘍抑制作用、血中コレステロール低減作用、病原菌に対する拮抗作用などがあることが知られている(<細野明義:乳酸菌の利用とプロバイオティクス>)。飲みにくいようならレモン汁やポッカレモンなど酸っぱい系の柑橘類の果汁をちょっと入れると味と香りがよくなります。最近はストレートタイプのミカンジュースと半々くらいにして飲んでいます。夏場はこれに炭酸水を加えるとさわやかな感じになります。私は豆乳ヨーグルトも乳酸菌液も毎日摂取しています。
――〔追記〕飲用にするものは、できあがった乳酸菌液の上澄み部分をコーヒーフィルターで濾過し小さな容器に小分けして冷蔵庫に保管しています。これによって粉っぽさがなくなって産膜酵母もできないのでかなり飲みやすくなります。また、下に書いてあるようにみかんの皮や夏みかんの皮を陰干ししたものを小さく刻んでコーヒーフィルターで包んで入れておくとほんのりとみかんの香りと味がしておいしく飲めます(広口のびんを使っています)。
●乾燥してのどがいがらっぽくなった時や、咳が出るときはのどに向かって乳酸菌液を 1~2回スプレーします。のどの潤いが持続するので効き目が長いですし、即効性もあります。私の場合、のど飴が不要になりました。
●ミカンの皮を陰干ししたものを刻んで乳酸菌液に入れておくといろいろ使えます。飲みやすくなりますし、スプレーボトルに入れて噴霧するといい香りがします。ミカンの皮は咳にも効き目があります。(ミカンの皮は塩水で洗ってから水気を切り、ネットに入れて陰干しします。一週間くらい陰干しにしたら密閉できる容器にしまっておきます。1年以上経ったものは陳皮(ちんぴ)と呼ばれる漢方薬になります。陳皮は七味唐辛子にも入っています)。
●歯磨きをした後、乳酸菌液を口に含んでよくクチュクチュする(歯磨き粉は少なめで…。あるいは歯磨き粉なしで乳酸菌液を口に含んで歯磨きをしてもよい――私も最近は乳酸菌液だけで歯磨きしてます)。乳酸菌の効果で歯磨き時の出血や歯肉の腫れを抑える、歯石沈着を防ぎ歯質を強化してむし歯を予防する、歯周菌を殺し歯周ポケットを広げる酵素の活性を抑えることによって歯周病を予防する、歯の着色汚れを防ぐ、歯周病菌除去により口臭が消える…等々の効果があるようです。
――市販の歯磨き粉を使うと歯石ができやすくなります。20年以上前に石鹸歯磨き(生活クラブのハミガキ。ん?「生活クラブ聖教」じゃありませんよ。「生活クラブ生協」です)に切り替えて以来私の歯には歯石がまったくできません。乳酸菌液だけではもの足りないとおっしゃる方にはヱスケー石鹸のファミリーハミガキをお勧めします。私自身も乳酸菌液で歯磨きするようになってからもときどき石鹸歯磨きは使っています(歯磨き後は乳酸菌液でクチュクチュします)。
●乳酸菌液を口に含んでクチュクチュすることにより口臭を消し、口内炎を予防する。できた口内炎も早く治る。また乳酸菌液を飲用していると口唇ヘルペスのできにくい体質になる。昨年5月以降、私は口内炎や口唇ヘルペスとはさよなら。常備していたチョコラBB(ビタミンB2製剤)が無用の長物になりました。
●豆乳ヨーグルトを作って食べる。飲むのと同様、あるいはそれ以上の効果があるらしい。少しゆるめのヨーグルト、蜂蜜をかけたりするとおいしい。もちろんそのまま食べても…。オリゴ糖を入れると便秘に効果があるとのこと。
豆乳と乳酸菌液との割合(体積比)はおよそ9:1――たとえば、豆乳450ml:乳酸菌液50ml――になるようによく混ぜる(固めにしたいときは、乳酸菌液の割合を減らして10:1――豆乳500ml:乳酸菌液50ml――くらいにする)。全体量の2%程度のオリゴ糖を入れると大腸に住むビフィズス菌がこれを食べて元気になる。なお乳酸菌やビフィズス菌は胃酸に弱いので、乳酸菌液や豆乳ヨーグルトは食事で胃酸が弱まったとき、つまり食後に摂取するとよいとのこと。なお、豆乳ヨーグルトは肝臓にもいいようです。
豆乳ヨーグルトについては下の「豆乳ヨーグルトについて>をご覧下さい。
●さまざまな料理に。食酢がわりに使うと酸っぱさがあまり強くないのでまろやかな酸味が味わえる。
●調理前のレバーや肉を漬けておく。臭みが取れてやわらかくなる。
●ポリ袋の中に軽くスプレーし、別のポリ袋に入れた野菜を保存する。傷むのを抑えられる。
●乳酸菌液にキュウリ、大根、白菜、ニンジンなどの野菜を浸して塩を適量入れると簡単な浅漬けができる。野菜はまるごと入れるのではなく漬かりやすいような大きさに切っておくとよい。常温だと産膜酵母が発生するので蓋付きの容器に入れて冷蔵庫に保管する。
――野菜に塩をまぶして擦り込み、ジップロックに入れて乳酸菌液を何回かスプレーしてから空気を抜いて密閉し冷蔵庫に入れておくと産膜酵母も発生せずにおいしい浅漬けができます。
●乳酸菌液を使ってすんき漬けに挑戦した方がいらっしゃいます(「塩を減らす工夫 (番外編) Go! Go! 乳酸菌」)。とても参考になりますね。私もやってみようと思います。
●賞味期限切れになりそうな豆腐はタッパなどに入れて乳酸菌液に浸しておけばしばらくは使える。あまり長く入れておくと酸っぱくなるが味は悪くない。さらに長期間浸けておくとチーズっぽくなる。豆腐をミキサーにかけて乳酸菌液を適量入れれば豆腐ヨーグルトができる。味はやや豆腐っぽいらしいが…。
●鍋やフライパンの焦げ付きをとる。焦げ付いた部分にスプレーしてしばらく放置する。スプレーする量や放置時間は焦げ付きの度合いによって加減する。ひどい焦げ付きの場合は焦げ付きを十分覆う程度の乳酸菌液を入れて一晩放置する。
●3年使ってきたマーブルコートの中華鍋。コーティングはしっかりしているが最近肉などが焦げ付く部分が出てきた。底全体が薄く褐色になっているが焦げ付く部分にはどうやら油がこびりついていて洗っても落ちない。指先でさわるとちょっと盛り上がっている。洗った後、浸るくらいの乳酸菌液をいれて一晩放置。翌日指先でこすると盛り上がっていた部分が少し低くなった。2、3回繰り返して乳酸菌液を入れ続けているうちにこびりつきがなくなって焦げ付かなくなった。
●食器洗いをする前に汚れたものにシュッシュ。しばらく置いて水で流してから洗う。油汚れにも効果あり。ガスレンジまわりの掃除。飛び散った油や吹きこぼれも食器洗いのついでにシュッシュして、しばらく置いてふき取る。料理するたびにこまめにやりましょう。
●換気扇の油汚れ。あまりひどくなければスイッチを入れて回した状態で、シュッシュと2回軽く吹き付ける。数回に一度くらいの割合で水を固く絞ったぞうきんなどで汚れを拭き取る。べたべたが消えているので簡単にきれいになる。それでも羽の裏側には多少の汚れが残るので2週間~一か月に一回程度、羽を外して裏側に乳酸菌液を吹き付け、しばらくしてから固く絞ったぞうきんで拭き取るようにする(ついでに奥の方も拭き取る。乳酸菌液のおかげでシャッター扉の裏側や枠にもべたべた汚れがほとんどつきません)。
●食べこぼしのしみにスプレーしてしばらく放置する。いつの間にか薄くなっている。醤油のしみなどは完全に消えることが多い。汚れのひどいものはやや多めに。
●10倍以上に薄めた乳酸菌液を庭の花壇や鉢植えの土に散布して土壌改良をする。如雨露やスプレーで葉や茎に直接散布する場合は100倍程度に薄めたものを使う。畑に使う場合は<『光合成細菌』で放射能浄化!>を参考にしてもっと本格的に光合成細菌や乳酸菌を培養する。すべての病虫害に効果があるわけではないがかなりの効果があるという。また野菜や花のできにも良い結果が得られるらしい。
●大分以前のことですがこの記事のコメントで jkokoさんという方が仏花を長持ちさせるために乳酸菌液を利用することができないだろうかとお尋ねになりました。私はその知識がないので相当に薄めればその用途に使えるのではないでしょうかとお返事しました。その後 jkokoさんはいろいろとお試しになったようで先日、仏花の水に乳酸菌液を10回ほどスプレーしたものを使い、水が減ってきたらこれを繰り返す(入れ換えた水にまたスプレーするということだと思います)ことで20日ほどもたせることができるというご報告を頂きました。生花にもこの方法は使えるのではないかと思い、ご紹介しました。仏花の花瓶で10回程度なので、生花の場合は花瓶の大きさによってスプレー回数を加減すればよいと思います。
●ペットの飲み水に2、3滴。口内炎などが治る。犬や猫の毛にシュッシュ、ふわふわして毛並みがよくなるらしい。ペットのトイレにもシュッシュしましょう。匂いが消えて快適です。
● 植物乳酸菌や酵母はとてもたくましいので、数か月経って古くなった乳酸菌液の中にも乳酸菌や酵母などが沢山生きています。乳酸もちゃんと残っています。古い乳酸菌液で豆乳ヨーグルトを作ると固まるまでにかなり時間がかかったり、たとえヨーグルトができてもきれいなものができなかったりしますが、乳酸菌や酵母・麹の働きがまったくなくなるわけではありませんし、腐敗もしていません。ですから古くなった乳酸菌液でも十分効果があります。捨てずに活用して下さい。私は古くなった乳酸菌液や沈殿培養で作った乳酸菌液を小さな蓋付きのバケツに入れ、その中に汚れのひどい台布巾や手拭きに使ったタオルなどを数日浸しておいてから洗濯するようにしていますが染みなども取れて結構きれいになります。
●尾籠(びろう)な話ですが私は乳酸菌液をトイレに入った後のお尻拭きに使っています。年に何回か妹たちの家に泊まります。どちらの家のトイレもウォシュレットが付いていて用便後に温水でお尻をきれいにするというのはとても快適です。何回か使うとすっかり癖になります。しかし私が住んでいるのは市営の団地で勝手にウォシュレット付きの便器に変えることはできません。仕方がないので大分以前から私は重ねたトイレットペーパーに水をスプレーしたものでお尻を拭いて最後の仕上げをしていました。
とぎ汁乳酸菌液を作り始めてふと「トイレに置くスプレーの中身を水ではなく乳酸菌液にすればお尻をきれいに拭き取るだけでなく乳酸菌のおかげでお尻が清潔に保たれ、防臭効果もあるはずだ」と思いついてからは水ではなく乳酸菌液をトイレットペーパーにスプレーしたものを使うようになりました。とても快適です。なお乳酸菌液や水をスプレーする場合、トイレットペーパーの厚さを6枚重ね程度にする必要があります。
――〔2013.02.11 追記〕『放知技(ほうちぎ)』のコメント(2013/02/09)でクリスさんが紹介なさっている記事によると、どうもウォシュレットはいいことばかりではないようですね(サンデー毎日記事「お尻を洗いすぎる女たち」)。その記事によると、温水洗浄便座の普及に伴って女性たちの下半身に異常が増えているらしい。もともと女性の下半身に住み着いて外から雑菌が侵入してくるのを防いでくれている乳酸菌を温水によって洗い流してしまうためにかえって下半身が不潔な状態になってしまうということのようです。温水洗浄便座を使った後に乳酸菌液を含ませたトイレットペーパーで仕上げをするといいかもしれませんね。きのこ姐さんなら「乳酸菌液で○洗浄」とおっしゃるかも。
飯山一郎さんの関連ツイート 2012年01月23日(月)
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黒カビ退治
風呂場や洗面台などの水場周りに発生する局所的な黒カビには重曹(重炭酸ソーダ=炭酸水素ナトリウム)の10%水溶液(900mlの温湯に100グラムの重曹を溶かして冷ましたもの:pH9 程度)がよく効きます。ただし、壁の広い範囲にわたってはびこっている黒カビをこれで退治するのは大変です。そんな場合はバケツ4分の1ほどの水に<炭酸塩(炭酸ソーダ=炭酸ナトリウム)入りの粉石鹸と粉末の酸素系漂白剤とを2:1くらいの割合で混ぜたもの>を大さじ4~5杯溶かしてデッキブラシなどでこすり落とすのが一番楽です。仕上げは水で流します。
この<炭酸塩入り粉石鹸と粉末の酸素系漂白剤とを混ぜたもの>(弱アルカリ性)は換気扇やガスレンジのグリルなど油汚れのひどいものの手入れにもとても役立ちます。水にこれを溶かして(水1リットルあたり小さじ1~2杯)ぞうきんに含ませて拭くことで大抵のしつこい汚れが簡単にきれいになります。後は水で洗い流すか水を含んだぞうきんで洗剤を拭き取って下さい。
ペットボトルや口の狭いビンを洗浄するときはこれを入れ(水1リットルあたり小さじ1~2杯)、口のところまで水を満たしてからふたを閉めしばらく置いておきます。カビや藻などが中に生えているものでも数日できれいになります(汚れの落ちたボトルは水で念いりにすすいで下さい)。
考えてみれば洗濯槽用のカビ取り洗剤(ヱスケー石鹸「洗濯槽クリーナー」)と同じ成分〔粉石鹸(脂肪酸ナトリウム)+アルカリ助剤(炭酸ナトリウム)+酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)〕なのでよく効くのは当然かも知れません(過炭酸ナトリウムは粉末の酸素系漂白剤です。液体の塩素系漂白剤ではありませんのでくれぐれもご注意下さい)*。――「もしや」と思って100円ショップで買ってきて使わずにしまってあるシンクや洗面台の排水パイプ用のパイプクリーナー(粉末)。成分を見たら同じですね。ただし「酵素」というのも入っていますが…。
* 黒カビがよく取れると評判の『通販生活』の洗濯槽クリーナーはこのヱスケー石鹸のものとまったく同じですね。通販生活のサイトの説明によるとこの洗濯槽クリーナーの成分組成は、酸素系漂白剤77%・炭酸ナトリウム15%・脂肪酸ナトリウム8%となっています。酸素系漂白剤の割合がずいぶん多いと思いましたが酸素系漂白剤の発泡力でカビを浮き上がらせて剥がしとるということらしいです。
最近は100円ショップでもセスキ炭酸ソーダ(セスキ炭酸ナトリウム)が手に入るようです。これだと2%の水溶液でも pH9.5 程度はあるので 10%重曹水よりも手軽にアルカリ水が作れます。小さじすり切り4杯で20グラム弱ですので、これを 980ml(約1リットル)の水に溶かせば 2%のセスキ炭酸ソーダ水ができます。局所的な黒カビ退治にはこちらを使うのが手軽です。
――セスキ炭酸ナトリウムは炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウム(重曹)とを半々くらいの割合で含む混合物です。自然界にはこの形態で存在しているものが多く、市販の重曹の多くはこのセスキ炭酸ナトリウムから精製するようです。
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