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2007年03月28日(水)| 言語>意味 |  
三浦つとむ「意味とは何か、どこに存在するか」(3)

〔注記〕以下の文中において「受容」とあるのは、表現されたものを受け取ってその内容や意味を理解することを表わしている。「解釈」とか「鑑賞」という言葉もあるが意味が限定的なので、それらをも含む広い意味の言葉として「受容」を用いている。したがって「受容者」には「解釈者」「鑑賞者」の意味も含まれている。

三浦つとむ「意味とは何か、どこに存在するか」(2)で引用したうちの後の方の二番目の段落で、ルフェーブルが「意味はあらゆる側面から他のものへわれわれを送りかえす。一方においては、過去へ、既得の知識へ、現在性へ、記憶へと、――他方においては、潜在性へ、可能性へ、意味を担った知覚場の多様性へと送りかえすのである」と書いている部分について三浦は「表現主体のつくり出した概念」あるいは「直接に表現されていない表現主体の独自の認識の部分」であるといっている。つまりルフェーブルが「意味」であると考えているものは実は表現者が言語のうちに表現した個別概念である、と三浦は指摘している。しかし、ルフェーブルはこれを表現者とは関りなく受容者が自ら作り出すものだと考えている。

前稿で書いたように構造言語学はソシュールの解釈を鵜呑みにして連合関係(語規範)から連辞関係(内言)や言語表現が作り出されると考えるので、表現された言語の意味は受容者が連合関係(語規範)と連辞関係とから勝手に解釈するものだという風に短絡して考える。これは構造言語学(ソシュール)が「受容過程における『連辞関係』の成立を表現過程に直結させ表現過程を受容過程に還元してしまっている(言語と内言――言語の意味)からであり、それは内言を作り出しているつもりのソシュールが無自覚のうちに内言を観察・受容する立場に移行し、受容者の立場で「言語単位」の成立を説明しようとしたからである(ソシュールの「言語」(4)――「言語単位」と「価値」)。しかしソシュールが言語単位の成立を神秘のヴェールの陰から覗き見ることしかできなかったのは彼自ら告白している通りである。

ルフェーブルは連合関係(語規範)と連辞関係とから意味が生れるとするソシュールの解釈をさらに拡大させ、連合関係(語規範)のみならず表現とは直接関係のない「社会」および「他の実践的諸形態」と「言語」(連辞関係)との関係で意味が生じると考えている(このような解釈を度外れに拡大すると、バルト流に表現でないものの中に勝手に意味を見いだして、実際には記号(記号規範に媒介された表現)でも象徴(直喩的・隠喩的な表現)でもないあらゆるものを記号や象徴だと見誤るバルト流の解釈に行きつく)。

にもかかわらず(というよりソシュール的思考の裏返しとして)ルフェーブルもまた無自覚のうちに受容者の立場から表現者の立場に移行し、知らず知らずのうちに表現者の〈対象→認識(意識)→表現〉過程を逆にたどり、表現過程を追体験しているのである。そして、その追体験においてルフェーブルの意識の中に生じている個別概念のさまを生き生きと語っているのが上記の引用部分(「知覚場の多様性」)なのである。

三浦つとむ「意味とは何か、どこに存在するか」(『言語学と記号学』勁草書房所収)

言語の話し手や書き手は、統一された全体としての思考をもっていて、その表現に際して概念の部分を表面化することになる。この表面化は、聞き手や読み手がその観念的な追体験において、同じ統一された全体としての思想を複製するための、いわば手がかりである。ルフェーブルが言語の意味とよんでいるのは、表現を対象とする追体験において、表面化している概念以外にいろいろな他のものを感じとることをさしている。意味を、統一された全体の思想によって形成されるものとして、過程的構造のありかたから理解するならば、彼が意味作用とよぶものも実は意味の一部であって、両者を切りはなして対立させるべきではないくらい、すぐ判ったはずである。そしてルフェーブルの切りはなしは、意味作用とならべて意味を聞き手・読み手の側で受けとるものとして扱っているために、表現を対象とする追体験でなくても、「あらゆる側面から他のものへわれわれを送りかえす」ような事物それ自体は「意味を帯び」ているのだという、バルト的発想へのふみはずしを準備していたのである。たとえば、多種多様の商品によって形成されている現実の世界も、「独自のやりかたで、すなわち特定的に、ひとつの記号体系、ひとつの言語、ひとつの記号学の場を構築している。」と、解釈するのである。精神的交通、表現主体の思想の追体験による複製という問題で、表現において意味が形成されると考えず、対象が意味と関係があることから対象それ自体が意味を帯びるのだと考えるなら、商品が意味を持っていて記号と同じように記号学の対象となる思いこむのも不思議はない。

こうしてルフェーブルは、商品はそれらを買うことができるという「意味」を持つから記号なのだとか、それらは楽しみを与えてくれるという「意味」を持つことで、「約束されてはいるが手に届かない享楽の記号」であるとか、バルト的な解釈をならべていく。さらに、金や装身具やダイヤモンドその他の宝石などは、そこから富や富が与えている権力を感じるから、象徴であるともいう。彼は、宝石商のショーケースに入っている商品それ自体を象徴とよぶのであって、それらを身につける人間がそのことで自分の富や権力を他の人間に示すという、表現によって象徴が成立すると考えるのではない。こんな記号や象徴の説明は哲学者の思弁的な解釈であって、マルクス主義でも何でもないし、この主張が科学的な記号論だなどと自惚れるとすれば、チャンチャラおかしいのである。(p.30~31)

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言語関連の用語について

 表現された言語(本来の意味の言語)を単に言葉あるいは言語、ことば…のように表記しています。ソシュール的な意味の言語(言語規範ないし思考言語)はカッコつきで「言語」あるいは「言語langue」・「ラング」・「ことば」等と表記しています。(背景色つきで「言語」のように表記している場合もあります)

 一般的な意味の概念を単に概念と表記し、ソシュール的な意味の概念(語の意義としての概念、いわゆるシニフィエ・語概念)はカッコつきで「概念」と表記します。(2006年9月9日以降)

 また、ある時期からは存在形態の違いに応じて現実形態表象形態概念形態のように用語の背景色を変えて区別しています(この文章では〈知覚形態〉も〈表象形態〉に含めています)。

 ソシュールの規定した用語を再規定し、次のような日本語に置き換えて表記します。詳細は「ソシュール用語の再規定(1)」を参照。

【規範レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語韻     (ある語音から抽出された音韻)

・シニフィエ   → 語概念(語義) (ある語によって表わされるべき概念)

・シーニュ・記号 → 語規範(語観念)(ある語についての規範認識)

・記号の体系   → 語彙規範   (語すべてについての規範認識)

・言語      → 言語規範   (言語表現に関するすべての規範認識)

語概念・語韻は 語概念⇔語韻語韻⇔語概念)という連合した形で語規範として認識されています。語規範はこのように2つの概念的認識が連合した規範認識です。ソシュールは「言語langue」を「諸記号」相互の規定関係と考えてこれを「記号の体系」あるいは「連合関係」と呼びますが、「記号の体系・連合関係」の実体は語彙規範であり、言語規範を構成している一つの規範認識です。規範認識は概念化された認識つまり〈概念形態〉の認識なのです。

なお、構造言語学・構造主義では「連合関係」は「範列関係(範例関係)」(「パラディグム」)といいかえられその意義も拡張されています。

 語・内語・言語・内言(内言語・思考言語) について、語規範および言語規範に媒介される連合を、三浦つとむの主張する関係意味論の立場からつぎのように規定・定義しています。詳細は『「内語」「内言・思考言語」の再規定』を参照。(2006年10月23日以降)

  : 語規範に媒介された 語音個別概念 という連合を背後にもった表現。

内語 : 語規範に媒介された 語音像⇔個別概念 という連合を背後にもった認識。

言語 : 言語規範に媒介された 言語音(語音の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった表現。

内言 : 言語規範に媒介された 言語音像(語音像の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった認識・思考過程。

内語内言は〈表象形態〉の認識です。

なお、上のように規定した 内言(内言語・内的言語・思考言語)、 内語とソシュール派のいうそれらとを区別するために、ソシュール派のそれらは「内言」(「内言語」・「内的言語」・「思考言語」)、「内語」のようにカッコつきで表記します。

また、ソシュールは「内言」つまり表現を前提としない思考過程における内言および内言が行われる領域をも「言語langue」と呼んでいるので、これも必要に応じてカッコつきで「内言」・「内言語」・「内的言語」・「思考言語」のように表記します(これらはすべて内言と規定されます)。さらに、ソシュールは「内語の連鎖」(「分節」された「内言」)を「言連鎖」あるいは「連辞」と呼んでいますが、まぎらわしいので「連辞」に統一します(「連辞」も内言です)。この観点から見た「言語langue」は「連辞関係」と呼ばれます。ソシュールは「内語」あるいは「言語単位」の意味はこの「連辞関係」によって生まれると考え、その意味を「価値」と呼びます。構造言語学では「言(話し言葉)」や「書(書き言葉)」における語の連鎖をも「連辞」と呼び、「連辞関係」を「シンタグム」と呼んでいます。詳細は「ソシュールの「言語」(1)~(4)」「ソシュール用語の再規定(1)~(4)」「ソシュール「言語学」とは何か(1)~(8)」を参照。

 さらに、ソシュールは内言における 語音像⇔個別概念 という形態の連合も「シーニュ・記号」と呼んでいるので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【内言レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音像(個別概念と語規範に媒介されて形成される語音の表象)

・シニフィエ   → 個別概念(知覚や再現表象から形成され、語規範の媒介によって語音像と連合した個別概念)

・シーニュ・記号 → 内語

・言語      → 内言

ソシュールがともに「シーニュ・記号」と呼んでいる2種類の連合 語韻⇔語概念語規範)と 語音像⇔個別概念内語)とは形態が異なっていますのできちんと区別して扱う必要があります。

 また、実際に表現された言語レベルにおいても、語音個別概念 という形態の連合が「シーニュ・記号」と呼ばれることもありますので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【言語(形象)レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音個別概念語規範に媒介されて実際に表現された語の音声。文字言語では文字の形象

・シニフィエ   → 表現された語の意味。個別概念を介して間接的にと結びついている(この個別概念語規範の媒介によってと連合している)

・シーニュ・記号 → (表現されたもの)

・言語      → 言語(表現されたもの)

 語音言語音語音像言語音像語韻についての詳細は「言語音・言語音像・音韻についての覚書」を、内言内語については「ソシュール用語の再規定(4)――思考・内言」を参照して下さい。また、書き言葉や点字・手話についても言語規範が存在し、それらについても各レベルにおける考察が必要ですが、ここでは触れることができません。

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プロフィール

シカゴ・ブルース

シカゴ・ブルース (ID:okrchicagob)

1948年生れ(69歳♂)。国語と理科が好き。ことばについては子供のころからずっと関心を抱いていました。20代半ばに三浦つとむの書に出会って以来言語過程説の立場からことばについて考え続けています。現在は39年間続けた自営(学習塾)の仕事を辞め個人的に依頼されたことだけをこなす日々です。

コメント等では略称の シカゴ を使うこともあります。

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意識と言語(こころとことば)

われわれは人間が『意識』をももっていることをみいだす。しかし『精神』は物質に『つかれて』いるという呪いをもともとおわされており、このばあいに物質は言語の形であらわれる。言語は意識とおなじようにふるい――言語は実践的な意識、他の人間にとっても存在し、したがってまた私自身にとってもはじめて存在する現実的な意識である。そして言語は意識とおなじように他の人間との交通の欲望、その必要からはじめて発生する。したがって意識ははじめからすでにひとつの社会的な産物であり、そして一般に人間が存在するかぎりそうであるほかはない。(マルクス・エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』古在由重訳・岩波文庫)


ことばは、人間が心で思っていることをほかの人間に伝えるために使われています。ですから人間の心のありかたについて理解するならばことばのこともわかってきますし、またことばのありかたを理解するときにその場合の人間の心のこまかい動きもわかってきます。
このように、人間の心についての研究とことばについての研究とは密接な関係を持っていて、二つの研究はたがいに助け合いながらすすんでいくことになります。一方なしに他方だけが発展できるわけではありません。
…こうして考えていくと、これまでは神秘的にさえ思われたことばのありかたもまったく合理的だということがおわかりになるでしょう。(三浦つとむ『こころとことば』季節社他)


参考 『認識と言語の理論 I』を読む 1(1)――認識論と言語学三浦つとむ『認識と言語の理論 I』

子どもたちに向けた言葉

ふしぎだと思うこと
  これが科学の芽です
よく観察してたしかめ
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  これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける
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        朝永振一郎

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