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2010年07月07日(水)| 社会>政治・経済 |  
『週刊ポスト』官房機密費告発(1)――政治と巨大メディアの癒着構造

『週刊ポスト』2010年5月28日号 p.32 

〈怒りの告発スクープ〉PARTⅠ

世論誘導工作に巨費投入」の全容を白日の下に曝(さら)し出せ

なぜ大新聞・テレビは野中広務氏が暴露した「官房機密費」を追及できないのか

 いつから大新聞・テレビは“世論調査屋”になったのだろう。全国紙の一面やニュースのトップを“今週の世論調査”が飾るなど、少なくとも先進国では異常な報道である。各紙・各局が徒党を組んで「政局」を動かそうと躍起になる一方で、肝心の「政治の闇」に斬り込む取材は皆無だ。

 なぜ「社会の木鐸」は沈黙するのか。そこには長い歳月をかけて築き上げられた、政治と巨大メディアの「癒着の構造」がある――。

「マスコミ対策で餌付けされ飼い慣らされた政治記者が偏向報道をタレ流している」(ジャーナリスト・上杉隆氏)

 黙殺された「野中証言」

 大新聞とテレビの《内閣支持率引き下げ競争》が加熱している。

 日本テレビが4月上旬に鳩山内閣の支持率「30%割れ」を報じると、3月末には共同通信が「20.7%」を発表。5月に入るとTBSも「20.9%」と追いかけ、テレビ朝日は「自民党が民主党を上回った」と政党支持率逆転を伝えた。さらに読売新聞は、普天間問題が5月末までに決着しない場合、首相は「退陣すべきだ」との答えが51%にのぼったと報じた。

「いまや関心事は、どの社が最初に支持率10%台突入を打つかです」(大手紙の編集局幹部)

 政権を「支持するか」と「退陣すべきか」しか質問しないのでは、世論調査を政権批判の道具に利用しているといわれても仕方ない。

 メディアが自らの取材で権力を監視・批判をするのは当然の責務である。しかし、「世論」という「他人の口」を利用して政権批判を展開するのは、批判材料を調べる取材能力がないということを自ら認めるようなものだ。

 いや、大マスコミが今のような異常なやり方を押し通そうとするのは、あるいは、政治を正面から批判することに、ある種の「後ろめたさ」を抱えているからかも知れない。

 そう感じさせるのが、小渕内閣の官房長官を務めた野中広務氏の官房機密費証言をめぐる報道ぶりだ。

 野中氏は4月19日、TBSの報道番組『NEWS23X(エックス)』で、首相官邸が持つ年間約14億6000万円にのぼる機密費の使途について重大な証言を行なった。その核心部分は、機密費は歴代内閣からの「引き継ぎ帳」にあるリストをもとに、政権維持に有益と思われるさまざまな人物に“つかみ金”として配られ、その中には国会対策や歴代の首相経験者などに加えて、

「(政治)評論をしておられる方々に、盆暮れにお届けするというのは額までみんな書いてありました」

「テレビで正義の先頭を切るようなことをいっている人が、こんな金を平気で受け取るのかと思いました」

 ――と、国民の誰もが知るようなマスコミ界の大物たちにもカネを渡してきたことを暴露したのである。

 だが、大マスコミはこの野中証言を「黙殺」した。

 スクープした当のTBSでさえ、他の時間帯のニュースでは触れなかった。

「上層部の判断で繰り返し流すことも可能だが、今回はそうした判断は出なかった。野中氏の機密費証言はこれ以上扱わないでしょう」(TBS報道局関係者)

 野中氏はその後もこの問題を提起したが、他のメディアもベタ記事扱いで伝えただけで、自分たちの関わる疑惑については口をつぐんだのである。税金でありながら、事実上、時の権力者の“お小遣い”として闇から闇へ消えてきた官房機密費は、歴代政権がついに手をつけなかった未解決の重大疑惑である。昨年9月の政権交代のドサクサの中で、当時の河村建夫・官房長官が2億5000万円の機密費を引き出していたことも発覚している。この件は大阪市の市民団体「公金の違法な使用をただす会」が河村氏を詐欺罪や背任罪などで東京地検特捜部に告発した。

 しかし、新聞・テレビはやはりこの疑惑をほとんど報道せず、特捜部が動いている形跡もない。小沢一郎・民主党幹事長の政治資金事件では書くメディアがこぞって市民団体の告発を大きく報じたのと比べれば、落差はあまりに大きい。

「竹下機関・三宝会」の目的

 大メディアが「機密費」問題をタブー視しているのは、そこを掘り返すと大新聞・テレビの癒着という、国民に知られてはならない報道の裏側」に行きつくからだ。

 どんな時代でも、政治権力と“近すぎる関係”になるメディア関係者はいた。しかし、大マスコミが徒党を組んで政権そのものと癒着するような異常な関係になるきっかけは、今から10数年前に生まれた。竹下登・元首相が97年に結成し、「竹下機関」の異名をとった「三宝会」という組織はきわめて重大な意味を持つ。

「三宝会」のメンバーには財界人、各省の事務次官経験者など錚錚(そうそう)たる顔ぶれが加わっていたが、最も重視されたのはマスコミ人脈だった。朝日、読売、毎日、日経、産経、共同通信、時事通信をはじめ、民放キー局4社などの竹下派担当を経験したベテラン記者10数人が参加し、設立趣意書には、〈新聞、テレビ、雑誌など、マスコミの第一線で活躍しているジャーナリストを中心に、政、財界の関係者らが定期的に集まり、情報交換を行ない〉――とある。

 当時は、93年に自民党が分裂してから続いてきた小沢vs竹下戦争の真っ最中で、自民党は村山、橋本政権で政権に復帰したものの、政権基盤は不安定で、新進党などを巻き込んだ政界再編の動きが渦巻いていた。

 竹下氏の目的は、簡単にいえば《小沢批判》の情報宣伝機関づくりにあった。

 自民党は93年の総選挙で負けたのは不利な報道を行なわれたからだととしてテレビ朝日の椿貞良・報道局長を証人喚問するなど、メディア操縦に躍起になっていたが、“ムチ”の一方で「シンパ記者」の組織化を図ったところが、情報戦に長(た)けた竹下氏ならではの着眼点だった。

 竹下氏の狙い通りというべきか、三宝会のメンバーは今や「民主党に批判的」な立場で世論形成に強い影響力を持つ人物が多い。現在の新聞・テレビの支持率方法の背後には、そうした人脈が見え隠れしている。

 この組織の存在をいち早く指摘したのは本誌だった。本誌97年10月31日号は、「三宝会」が竹下直系の情報機関として設立され、事務次官経験者や現職の内閣情報調査室長も加わっていることを報じた。このスクープは当時の衆院予算委員会で、「マスコミを利用した政治支配」と政府追及の材料となったが、大メディアは一切報道しなかった。それは組織化すれば、不都合な国会審議さえ隠せることを図らずも示したといえる。

 時系列でいえば、その半年後に橋本首相は参院選に惨敗して退陣し、98年に小渕内閣が発足、野中氏が官房長官に就任し、機密費の配り先を記した「引き継ぎ帳」を受け取ったのは、ちょうどその頃のことだ。

 官房機密費は、そうしてメディアと自民党政権との“潤滑油”に使われてきた。

 ある大手紙のベテラン自民党担当記者は、「官房長官や副長官などと懇談した後、お土産の菓子折に、“奥さんに靴でもプレゼントしてください”と大手靴店の商品券が入っていた」と語る。中には、時の官房長官から、「あんたらも大変だね。ご同業の方が、官邸に無心にきたよ」と打ち明けられた番記者もいる。

 官房機密費の甘い汁を吸い、政権の「道具」になることを受け入れたマスコミ人が、河村前長官の「機密費“持ち逃げ”問題」を追及できないのは当然だ。その「癒着構造」こそ、この国の政治を歪(ゆが)めている病巣なのだ。

 次稿のリポートでは、その人名に斬り込む。

『週刊ポスト』2010年5月28日号 p.35 

〈怒りの告発スクープ〉PARTⅡ

「あなたは受け取ったのか」

「機密費は国家の必要経費なのか」

「実名リスト」で名指しされた言論人を連続直撃!

上杉隆(ジャーナリスト)と本誌取材班 

「毒まんじゅう」を食らったのは誰なのか――。「官房長官時代に機密費を評論家に配った」という野中広務氏(小渕恵三内閣、在任98~99年)の発言は、政府とメディアの隠れた「共犯関係」を暴いた。メディアが自浄能力を問われる中、上杉隆氏がついに配布先を記した「実名リスト」を入手。沈黙する新聞・テレビに代わって、徹底追及した。

 野中広務氏は、沖縄での講演で「田原総一朗氏だけは受け取りを拒んだ」といったが、受け取った評論家の名は明かしていない。私は野中氏に取材を申し込み、名を明かすよう迫ったが、拒否された。

 野中氏が証言したように、カネを渡すべき評論家のリストは、歴代官房長官が引き継いできたものである。ところが宇野宗佑内閣の官房長官だった塩川正十郎氏(在任89年)も本誌の取材に「中身については墓場まで持っていく」、細川護煕(もりひろ)内閣の官房長官の武村正義氏(在任93~94年)も、「何も喋らない。週刊誌は嫌いだ」と一様に口をつぐみ、名を明かそうとしない。

 一方、野中氏の講演内容について報じた4月28日付の琉球新報を受け、各全国紙は簡単な後追い記事を書いたが、やはりカネを受け取った評論家の名については追及していない。

 歴代官房長官と大メディアが歩調を合わせたような、この奇妙な沈黙は何を意味するのか。

「官房機密費」とは正式には「内閣官房報償費」という。使途を明らかにしない内閣の予算のことで、機密外交、国会対策などに広く使われてきた。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏はNHKの官邸担当記者時代、「官房長官室にある金庫の中を見せてもらったことがある。現金の札束が入っていた」と証言する。

 今、私の手元に3枚のメモ書きがある。1枚は下に「内閣」と印字され、政治評論を主とする言論人約20人の名と、万単位の金額と思(おぼ)しき「200」「100」といった数字が手書きで記されている。ここには一部政治家の名も混じっていた。また別のメモには、業界紙などの媒体名と担当者名に加え、その横には「○月○日 済」といった支払日を記したと思われる書き込みがあった。メモが作成された当時の官邸関係者が証言する。

「これは官房機密費の配布先リストです。盆暮れの年2回、リストの相手に配っていた。メモは89年頃に作成されたもので、歴代の官房長官秘書官たちが前任者のメモを書き写し、またその時々で書き換えながら受け継いできたものです」

「料亭の女将が紙袋を持ってきた」

 この種のメモは注意深く扱わなければならない。すべてが評論家に渡ったとは限らず、途中で誰かに“抜かれる”こともあり得る。また、特定の評論家を貶(おとし)めるために、配るつもりはないのにわざとリストに名を加える可能性もあるからだ。

 そこで、リストに掲載された評論家のうち、存命の人物に真偽を直撃取材した。

まずは三宅久之氏。5月7日に収録された『たかじんのそこまで言って委員会』(讀賣テレビ系、5月16日放送)がメディア特集を組み、私も出演した。そこで収録中、出演していた三宅氏にこの件を質問すると「デタラメだ」と一蹴されたが、後日、改めて取材を申し入れると、三宅氏はこう答えた。「第2次中曽根康弘内閣で官房長官になった藤波孝生(在任83~85年)は早大の後輩で、『急に忙しくなって約束していた2つの講演ができないので、代わりにやってくれませんか』と頼んできた。引き受けることにしたら秘書が100万円を持ってきた。藤波のポケットマネーだと思って受け取りました。領収書も書いてない。

 しかし、内閣からカネをもらったことは一切ないし、野中さんからは菓子折ひとつもらっていない。今回の発言には大変憤慨している。ああいうことをいうなら、誰がもらったのかはっきりいってほしい。痛くもない腹を探られ、ネットで『三宅を殺せ』とまで書かれ、迷惑千万です」

 野中広務氏が唯一、名を挙げた田原総一朗氏も「これまで一度ももらったことはない」と話す。

「野中さんの使いだという料亭の女将(おかみ)らしき女性が『反物(たんもの)』の入った紙袋を届けに来たことがありました。受け取ってもらわないと困ると懇願されたので、あとで返すつもりで受け取ったところ、開けてみたら現金。後日、野中さんの事務所を訪ね、丁寧な手紙を付けて返しました」

 中村慶一郎氏も受け取りを否定する。

「私は75年から76年にかけて三木武夫内閣の首相秘書官を務め、00年から01年には森喜朗内閣の官房参与でした。政治評論家に官房機密費を配っていたのは事実です。リストのメモは秘書を辞める直前に見ました。自民党政権時代の悪習であり、恥部ですよ。森内閣を離れてから、内閣の職員から連絡があった。機密費を渡したいのだなとピンときて、受け取るつもりはないので放っておいたら、その後、何の連絡もありませんでした」

 田原氏は取材に「受け取るのが永田町の常識で、拒否するのは非常識」と語った。一方、「リストは怪文書のたぐい」と牽制した上で、「永田町の常識」に従ったことを認めたのは俵孝太郎氏である。

「私はこの四半世紀、政府の様々な審議会委員を務めてきました。日当は1万3800円で、往復のタクシー代にもならない。政府としては私に苦労をかけたと思っていただろうから、半年に一度ぐらいずつ官房長官などが数十万円を持って挨拶に来ることはありました。こういうお金をもらっていたのは私だけではない。それを否定するなら嘘だと思う。ただし、野中さんがいうような『盆暮れに500万円ずつ』というのは(野中氏が所属していた)経世会の“マナー”だと思う。私は野中さんから何も頼まれたことはないし、お金をもらったこともない」

 同じくリストにあった2名の評論家からは、期限内に回答を得られなかった。

 記者クラブにも機密費が

 影響力のある政治評論家に官房機密費が配布され、受け取った人間がいたことは確かだ。そして、リストに載った評論家には共通点がある。かつて大新聞の政治部記者で、記者クラブに所属していた人物が多くを占めているのだ。

 実は、政治部記者に対しては、日常的に官房機密費が配られてきた歴史がある。たとえば官房長官と記者たちとのオフレコ会食の際、秘書が現金付きの手土産を記者に手渡す。あるいは、記者の転勤や出産、家の新築などの機会に、官邸から現金入りの祝いの品が届けられる。単位は5万円、10万円である。

 そうした記者が社の幹部となり、退職後は政治評論家となり、今度は政府の審議会委員などへの謝礼として機密費を受け取る。

 記者クラブメディアが、平野博文官房長官の機密費公開に関する「公約違反」を追及しないのも、今回の野中発言の中身を検証しようとしないのも、彼ら自身が、「毒まんじゅう」を食らってきたからではないか。

 官房機密費は総額で約14億6000万円(09年度)。過去には外務省機密費からの「上納金」(※)があり、実際には官房機密費はもっと多かったが、日本の機密費は全体でも約80億円程度。先進各国と比べると、アメリカの約2.8兆円は別格としても、イギリス約460億円、ドイツ約390億円(外務省の01年度調査による)と、日本は機密費の予算自体は少ない。

 三宅氏が「誘拐された日本人の身代金を外務省の機密費から出すように、機密費は必要」、俵氏が「インテリジェンス(諜報)に使う機密費がなかったら国家とはいえない。野中発言は本来、墓場まで持っていく話」と語ったように、機密費は当然、必要であり、安全保障に深く関わる機密費の使途をすべて公開することもないと私も考える。

 日本で問題なのは、メディア側の対応である。アメリカでも機密費を使った「スピン」(情報操作)が仕掛けられているが、メディアの側には警戒心が強く、「2ドルルール」「5ドルルール」などを設けている。政治権力からコーヒー代などを超える金品の提供を受けてはならない、という自主的なルールである。破ったジャーナリストは事実上、メディアから追放される。

 一方、日本では長年、政治部の記者たちは官邸に「餌付け」され、「飼い慣らされ」てきた。そして彼らは退職後、政治評論家やコメンテーターとして新聞、テレビで活躍する。もう一度繰返す。新聞、テレビが「野中発言」を黙殺するのは、“自己保身”のためなのではないか。

※ 外務省の機密費の一部が、官房機密費に転用されていた問題。外務省機密費流用事件は97年に本紙がスクープし、官邸への上納については、01年まで年間約20億円の機密費が上納されていた。岡田克也外相は今年2月、上納の事実を認めた上で、01年度以降は行なわれていないと説明した。

平野貞夫(元参院議員)が爆弾告発

私は機密費で政治部記者の「酒と女」を世話した

私が昭和40年から園田直(すなお)衆院副議長の秘書をやっていた頃、園田さんの使いで官房副長官室に行くと、竹下登さん(当時官房副長官)が報償費(官房機密費)を月々300万円くれたから、新聞記者相手にもかなりの額を使った。

番記者を集めて、都内の料亭で飲んでから銀座のクラブに連れて行く。クラブの料金には「女」の値段も含まれていた。そのあと私は帰るが、記者連中は女とホテルに泊まる。A社の記者は行かなかったけどね。それで翌朝、副議長公邸に集まった記者たちと朝食を食べる。そんなことを月に1、2回やっていた。いまの新聞社の上の世代、政治部長や編集委員ぐらいまでは、そういうことをしてきた。

それから、自民党を離党した後、羽田孜政権のとき、熊谷弘官房長官と私と、現在も活躍するある政治評論家、名前はいえないけど、3人で食事することになった。ところが、熊谷さんが行けなくなっちゃった。そこで、「これ渡しておいて」と預かった白い封筒を、その評論家に私が料理屋で渡した。彼は当然のように受け取ったよ。あれは間違いなく機密費だった。

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言語関連の用語について

 表現された言語(本来の意味の言語)を単に言葉あるいは言語、ことば…のように表記しています。ソシュール的な意味の言語(言語規範ないし思考言語)はカッコつきで「言語」あるいは「言語langue」・「ラング」・「ことば」等と表記しています。(背景色つきで「言語」のように表記している場合もあります)

 一般的な意味の概念を単に概念と表記し、ソシュール的な意味の概念(語の意義としての概念、いわゆるシニフィエ・語概念)はカッコつきで「概念」と表記します。(2006年9月9日以降)

 また、ある時期からは存在形態の違いに応じて現実形態表象形態概念形態のように用語の背景色を変えて区別しています(この文章では〈知覚形態〉も〈表象形態〉に含めています)。

 ソシュールの規定した用語を再規定し、次のような日本語に置き換えて表記します。詳細は「ソシュール用語の再規定(1)」を参照。

【規範レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語韻     (ある語音から抽出された音韻)

・シニフィエ   → 語概念(語義) (ある語によって表わされるべき概念)

・シーニュ・記号 → 語規範(語観念)(ある語についての規範認識)

・記号の体系   → 語彙規範   (語すべてについての規範認識)

・言語      → 言語規範   (言語表現に関するすべての規範認識)

語概念・語韻は 語概念⇔語韻語韻⇔語概念)という連合した形で語規範として認識されています。語規範はこのように2つの概念的認識が連合した規範認識です。ソシュールは「言語langue」を「諸記号」相互の規定関係と考えてこれを「記号の体系」あるいは「連合関係」と呼びますが、「記号の体系・連合関係」の実体は語彙規範であり、言語規範を構成している一つの規範認識です。規範認識は概念化された認識つまり〈概念形態〉の認識なのです。

なお、構造言語学・構造主義では「連合関係」は「範列関係(範例関係)」(「パラディグム」)といいかえられその意義も拡張されています。

 語・内語・言語・内言(内言語・思考言語) について、語規範および言語規範に媒介される連合を、三浦つとむの主張する関係意味論の立場からつぎのように規定・定義しています。詳細は『「内語」「内言・思考言語」の再規定』を参照。(2006年10月23日以降)

  : 語規範に媒介された 語音個別概念 という連合を背後にもった表現。

内語 : 語規範に媒介された 語音像⇔個別概念 という連合を背後にもった認識。

言語 : 言語規範に媒介された 言語音(語音の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった表現。

内言 : 言語規範に媒介された 言語音像(語音像の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった認識・思考過程。

内語内言は〈表象形態〉の認識です。

なお、上のように規定した 内言(内言語・内的言語・思考言語)、 内語とソシュール派のいうそれらとを区別するために、ソシュール派のそれらは「内言」(「内言語」・「内的言語」・「思考言語」)、「内語」のようにカッコつきで表記します。

また、ソシュールは「内言」つまり表現を前提としない思考過程における内言および内言が行われる領域をも「言語langue」と呼んでいるので、これも必要に応じてカッコつきで「内言」・「内言語」・「内的言語」・「思考言語」のように表記します(これらはすべて内言と規定されます)。さらに、ソシュールは「内語の連鎖」(「分節」された「内言」)を「言連鎖」あるいは「連辞」と呼んでいますが、まぎらわしいので「連辞」に統一します(「連辞」も内言です)。この観点から見た「言語langue」は「連辞関係」と呼ばれます。ソシュールは「内語」あるいは「言語単位」の意味はこの「連辞関係」によって生まれると考え、その意味を「価値」と呼びます。構造言語学では「言(話し言葉)」や「書(書き言葉)」における語の連鎖をも「連辞」と呼び、「連辞関係」を「シンタグム」と呼んでいます。詳細は「ソシュールの「言語」(1)~(4)」「ソシュール用語の再規定(1)~(4)」「ソシュール「言語学」とは何か(1)~(8)」を参照。

 さらに、ソシュールは内言における 語音像⇔個別概念 という形態の連合も「シーニュ・記号」と呼んでいるので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【内言レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音像(個別概念と語規範に媒介されて形成される語音の表象)

・シニフィエ   → 個別概念(知覚や再現表象から形成され、語規範の媒介によって語音像と連合した個別概念)

・シーニュ・記号 → 内語

・言語      → 内言

ソシュールがともに「シーニュ・記号」と呼んでいる2種類の連合 語韻⇔語概念語規範)と 語音像⇔個別概念内語)とは形態が異なっていますのできちんと区別して扱う必要があります。

 また、実際に表現された言語レベルにおいても、語音個別概念 という形態の連合が「シーニュ・記号」と呼ばれることもありますので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【言語(形象)レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音個別概念語規範に媒介されて実際に表現された語の音声。文字言語では文字の形象

・シニフィエ   → 表現された語の意味。個別概念を介して間接的にと結びついている(この個別概念語規範の媒介によってと連合している)

・シーニュ・記号 → (表現されたもの)

・言語      → 言語(表現されたもの)

 語音言語音語音像言語音像語韻についての詳細は「言語音・言語音像・音韻についての覚書」を、内言内語については「ソシュール用語の再規定(4)――思考・内言」を参照して下さい。また、書き言葉や点字・手話についても言語規範が存在し、それらについても各レベルにおける考察が必要ですが、ここでは触れることができません。

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プロフィール

シカゴ・ブルース

シカゴ・ブルース (ID:okrchicagob)

1948年生れ(68歳♂)。国語と理科が好き。ことばについては子供のころからずっと関心を抱いていました。20代半ばに三浦つとむの書に出会って以来言語過程説の立場からことばについて考え続けています。現在は39年間続けた自営(学習塾)の仕事を辞め個人的に依頼されたことだけをこなす日々です。

コメント等では略称の シカゴ を使うこともあります。

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意識と言語(こころとことば)

われわれは人間が『意識』をももっていることをみいだす。しかし『精神』は物質に『つかれて』いるという呪いをもともとおわされており、このばあいに物質は言語の形であらわれる。言語は意識とおなじようにふるい――言語は実践的な意識、他の人間にとっても存在し、したがってまた私自身にとってもはじめて存在する現実的な意識である。そして言語は意識とおなじように他の人間との交通の欲望、その必要からはじめて発生する。したがって意識ははじめからすでにひとつの社会的な産物であり、そして一般に人間が存在するかぎりそうであるほかはない。(マルクス・エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』古在由重訳・岩波文庫)


ことばは、人間が心で思っていることをほかの人間に伝えるために使われています。ですから人間の心のありかたについて理解するならばことばのこともわかってきますし、またことばのありかたを理解するときにその場合の人間の心のこまかい動きもわかってきます。
このように、人間の心についての研究とことばについての研究とは密接な関係を持っていて、二つの研究はたがいに助け合いながらすすんでいくことになります。一方なしに他方だけが発展できるわけではありません。
…こうして考えていくと、これまでは神秘的にさえ思われたことばのありかたもまったく合理的だということがおわかりになるでしょう。(三浦つとむ『こころとことば』季節社他)


参考 『認識と言語の理論 I』を読む 1(1)――認識論と言語学三浦つとむ『認識と言語の理論 I』

子どもたちに向けた言葉

ふしぎだと思うこと
  これが科学の芽です
よく観察してたしかめ
そして考えること
  これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける
  これが科学の花です
        朝永振一郎

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