『週刊ポスト』官房機密費告発(4)――頬かむりし続けるメディア(PC版ページへ)

2010年07月13日11:16  社会>政治・経済

『週刊ポスト』2010年6月18/25日号 p.149 

[怒りの告発キャンペーン 第4弾]

 私は死んでも追及を止めない!

「官房機密費もらった記者がいないか」

 大新聞・テレビの回答書を公開する

 ――久米宏・池上彰・勝谷誠彦ら「非記者クラブ」のジャーナリストが続々援軍に

「日本のメディアはこの件について、日光の賢い三猿のような反応を示している」――英経済誌『エコノミスト』は官房機密費マスコミ汚染問題についてこう皮肉った。彼らはいつまで頬かむりし続けるのか。

上杉隆(ジャーナリスト)と本誌取材班 

 不可思議なことが起こった。先週号でテレビ朝日系『ビートたけしのTVタックル』が官房機密費特集を中止したとお伝えしたが、急きょ企画を復活させたのだ。

 5月31日放送の同番組は「嵐の参院選突入スペシャル」だったが、普天間問題などと並んで「官房機密費」がトピックに上がった。当初出演を打診され、番組側の都合でキャンセルになった私はその露骨さに心底驚いた。そんなに「上杉隆」がまずいのか。

 それでも、番組ではコラムニストの勝谷誠彦氏が孤軍奮闘してくれた。

「メディアがカネでコントロールされてるんだから、大変な話なんですよ。本当だったら新聞社・テレビ局全部大騒ぎしなきゃおかしいじゃないですか。なんで野中(広務)さんがいって、あとは『週刊ポスト』が書いてるだけなんですか? 東京新聞はいい記事を書きましたよ。(中略) テレビ朝日やればどうですか、本当に。(機密費は)回ってるんですよ」

 勝谷氏のボルテージはさらに上がり、「記者クラブでズブズブの人たちは、(中略)匿名性の陰に隠れてるから、もらっても別に会社クビにならないんですよ」とぶち上げた。司会の阿川佐和子さんが「ちょっと触れるつもりがこんなに盛り上がるとは思わなかった」と驚いたほどだった。

 このように、黙殺を決め込んだはずの記者クラブメディアを舞台に、フリーランスがゲリラ的に局地戦を展開し始めた。こうした動きは、実は同時多発的に起こっている。

 たとえば5月29日、久米宏氏のTBSラジオ『ラジオなんですけど』に私が電話出演した際には、本来は別のテーマ(鳩山由紀夫氏)だったが、わざわざ久米氏の方からこの話題を持ち出し、「絶対にやるべきです」「ぜひスタジオに来て機密費について話してください」「僕は何も怖いものはないから」といってくれたのだ。ラジオではほかにも吉田照美氏が文化放送『ソコダイジナトコ』で毎日のようにこの問題を取り上げてくれている。

 イタリーの靴買ってやる

 この問題を封じ込めるために、私のスキャンダルを探す大メディアさえ現われているなか、こうした援軍は非常に心強い。

 5月28日のテレビ朝日系『朝まで生テレビ』は、鳩山内閣がテーマだった。機密費は議題になかったが、司会はあの田原総一朗氏である。私は始めから仕掛けるつもりでいた。終了間際、ようやくその場面は訪れた。

上杉 先月(4月23日)ですか、野中広務さんが那覇での公演の中で、官房機密費を田原総一朗さんだけには渡していないと証言しましたよね、突然。

田原 それを聞かれるのは嫌だったんだけどな(笑い)

上杉 無理矢理こじつけていったような感じですけれど、あれってなんで田原さんだけの名前を出したんですかね、野中さんは。

田原 野中さんは娘さんに怒られたといっていました。なんで返した人の名前を出すんだと。なんでもらった人の名前を出さなかったんだと。

上杉 普通だったらもらった人の名前をいうべきですよね。

田原 いやまあね、あの、まあ、終わり(笑い)

 何とも消化不良だったが、放送終了後に田原氏はツイッターでつぶやいていた。

〈今朝、5時に帰宅するなり娘に「なぜ機密費の話しが上杉さんから出たときに曖昧にしたのか」と怒鳴られた。機密費の話しは話せば長くなるので言うのをためらった〉

 田原氏に怒鳴った娘さんの感覚こそが、ごく普通の感覚だろう。それを十分に理解している田原氏さえもが話すのをためらってしまうところに、この問題の根の深さがある。

 いま、すべての言論人に、官房機密費問題にどう対峙するのかが厳しく問われている。

 勝谷氏が「匿名性の陰に隠れている」と批判した記者クラブも、その例外ではない。

 5月26日にBSデジタル放送のBS11『InsideOUT』に司会の小西克哉氏の紹介で出演した際、私は毎日新聞論説委員の金子秀敏氏と論戦を交わした。金子氏は当初「私はそういう体験ないんですよ」といっていたが、その後、自身の体験談について語り始めた。

金子 私の経験でいうとですね。ある人から選挙区に遊びに行こうと誘われることがあるんですね。「靴買ってやるから、いい外国の、イタリーの靴買ってやるから、サイズをいえ」。そのとき、自民党の職員から、「ダメだよ、あの人から物もらったりしちゃ、絶対ダメだよ」って、私は右も左も分かんなかったから、いったんもらっちゃったら、いうがままの使い走りになっちゃうんですよね。それを自民党の職員がやめろってちゃんとサイン送ってくれましたね。

上杉 ちょっと不思議なのは、渡した側は、外遊のときの飛行機でお土産代を渡したり、Yシャツ券を渡したり、料亭や料理屋で御馳走したりと、みんなあったといっているのに、まったくそういうの1回もないんですか。

金子 私は全然ないですよ。

小西 私の知っている某テレビ局の記者が、新人のときに羽田(孜)政権時代の総理官邸付きをやっていたんですが、彼から「こんなものもらってあんなものもらって」って見せてもらったことがありましたよ。

 社内調査すらしない大マスコミ

 記者クラブへの視線は厳しさを増している。なかでも衝撃的だったのが、池上彰氏の朝日新聞5月28日付朝刊「新聞ななめ読み」である。野中発言を紹介した上で、〈重大な問題なのに、朝日新聞を含めて新聞やテレビの追及はほとんどありません。どうしてなののでしょうか。こんな疑問を持っている読者は多いはずです〉と問題提起。〈東京新聞の編集局長は、疑惑を否定しました。では、朝日新聞の編集幹部や、朝日新聞出身の評論家、コメンテーター諸氏は、どうなのでしょうか。取材してみる記者はいませんか?〉と呼びかけたのだ。この刺激的な挑発が、内外に与えた影響は大きい。

 しかし、今に至るまで記者クラブメディアからその問いに対する明確な返答はない。そこで、新聞・テレビ・通信社の主要記者クラブメディアに対し、「過去から現在に至るまで社内で機密費を渡された記者はいたか」「この件に関して社内調査したか。する予定はあるか」の2点について回答を求めた。

機密費問題に関するメディア各社の回答
メディア
記者に内閣官房機密費が渡されたことはあるか? その社内調査はしたか? 今後する予定はあるか?
朝日新聞 弊社の記者が内閣官房機密費を受け取ったという事実も指摘もありません。弊社に関して具体的な事柄があるというならばお示し下さい。
毎日新聞 ありません。 調査の必要はありません。
読売新聞 ご指摘のような金品の授受については承知しておりません。
産経新聞 ありません。 調査の予定はありません。
日経新聞 不確実な情報を前提としたお問い合わせにはお答えできません。
東京新聞 期限内に回答なし。
共同通信 ありません。 調査の有無など社内の問題については社外の方にはお答えしていません。
時事通信 社として、報道の公正さを疑われる利益の提供を受けることを禁じており、記者倫理に反するような行為はないと確信しています。 社内調査については、その有無も含めて公表する考えはありません。
NHK 指摘されたような疑惑については聞いておりません。よってお答えは差し控えさせていただきます。
日本テレビ 当社では、記者が官房機密費を渡された事実は一切ございません。
TBSテレビ 官房機密費問題は、TBS報道局が独自に取材を展開し、今年4月に第1弾を放送して問題提起したことをきっかけに大きな反響を呼びました。私どもではすでに第4弾まで放送しておりますが、その後も引き続き、使途などについて追及、取材を進めています。
フジテレビ お問い合わせのようなことはありません。
テレビ朝日 確認した範囲ではそのような事実はありません。
テレビ東京 回答なし。

 上記がその一覧だが、ふだん「政治とカネ」を追及する記者クラブメディアの歯切れの悪さに呆れた読者も多いことだろう。

 鳩山由紀夫前首相や小沢一郎前幹事長の「政治とカネ」をめぐる問題で、あれほど「説明責任」をいい募(つの)った記者クラブが、国民の税金である官房機密費について、自らに向けられた「疑惑」になぜ答えようとしないのか。本来は税金の使い途(みち)の監視役であるべきメディアが機密費を受け取っていたとすれば、それこそ「政治とカネ」の問題である。

 この異常さに、ついに海外メディアも気付き始めた。イギリスの『エコノミスト』誌が特集記事を掲載したのである。

〈世界の多くの地域では、ジャーナリストは政界の裏金スキャンダルというおいしいネタの魅力に抗し切れないだろう。日本では、秘密の資金が首相執務室近くの金庫の中に隠されており、数十年間にわたり政治的な懐柔工作のために使われてきたとの情報が漏れ出している。そのカネは、ジャーナリストやテレビ評論家にも流れたと言われている

 多くを物語るように、日本のメディアはこの件について、日光の賢い三猿に似た反応を示している。「見ざる」「聞かざる」「言わざる」である〉(『エコノミスト』5月22日号)

 海外のジャーナリストからどれだけ嗤(わら)われても、日本のメディアは「三猿」を決め込むつもりだろうか。

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