『週刊ポスト』大新聞は国民の敵だ 2――IMF「消費税15%提言」報道の疑惑(PC版ページへ)

2010年08月03日00:13  社会>政治・経済

『週刊ポスト』2010年8月6日号 p.41 

〈徹底検証/大新聞は国民の敵だ〉2

 これこそ「世論誘導」ではないのか

 IMF国際通貨基金「消費税15%提言」報道に財務省のヤラセ疑惑

 消費税増税派からみればまさに「待ってました」と拍手をしたくなるほど絶妙のタイミングである。菅民主党が参院選で惨敗したわずか3日後の7月14日、IMF(国際通貨基金)が日本に対し「消費税15%」を提言するレポートを発表した。表層的には“外圧”とも映るこの提言の背後には、財務官僚の怪しい影が躍(おど)っている――。

 件(くだん)のレポートは、日本に対する年次審査報告書のこと。加盟国、そして世界経済の安定のため、IMFのエコノミストが各国を訪問した上で政策への評価や助言をまとめたものだ。今回の報告では、「消費税率を15%に引き上げれば、国内総生産(GNP)比で4~5%の歳入増が生じる」と記されている。さらに、税率アップによって懸念される景気減速についても言及。「当初は、成長率を0・3~0・5%押し下げる」と見ながら、老後のための貯蓄が消費に回り、日本経済への信用度が増すことで海外からの投資が増えるなどの結果、「毎年0・5%ずつ成長率を押し上げる」としている。

 このようにHMFが日本の税率アップやその時期についてまで言及するのは初めてのこと。消費税10%を目指す菅政権と財務官僚にとっては自らの主張に、国際機関の“お墨付き”を得た格好となる。

 しかし、この提言について専門家からは疑問の声が上がっている。埼玉大学経済学部の相澤幸悦教授もそのひとりだ。

「IMFに各国の財政政策を指導する権限があることは事実。しかし、それは財政危機に陥(おちい)った国などに対して資金支援を行なった場合に限ってのことで、日本に対してこんな指導を出すのはあまりにも不自然です。日本は支援を受けるどころか、IMFに対する出資比率は、米国に次いで2番目の“大スポンサー”なんですから」

 日本のこれまでの出資総額は2兆円近く。このあまりに不自然な「提言」の正体は、IMFと財務省の近すぎる関係を見れば、おのずと透(す)けて見える。

 実は出資金と共に、日本は多くの日本人職員をIMFに送り込んでいる。現在、IMFで働く日本人職員は49人。そのうち10数名が財務省からの出向だ。

 『国連幻想』(扶桑社刊)などの著書がある産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が指摘する。

「IMFは、長らく財務官僚の“天下り先”と化しており、副専務理事の篠原尚之氏をはじめとして日本人が座る重要ポストのほとんどは財務官僚によって占(し)められています。この提言も財務省の意向を十分に反映しているものであることは間違いありません」

 篠原副専務理事は、消費税増税積極派として知られ、近く財務次官に就任する勝栄二郎氏と同期入省という間柄。さらに、今回のIMFの年次審査報告の作成には、徳岡喜一氏という財務省からの出向者が名を連ねている。

 何のことはない、「消費税15%」提言は、「財務省の別働隊」が関与していたものだったのである。

 コロンビア大学経済学部のディビッド・ウェインスタイン教授の視線は冷ややかだ。

「20年前、私は日米構造協議に関わったことがあるが、当時、日本の政府当局者が自分たちの望むような改革をするためにアメリカの“外圧”を使おうとして、アメリカ側に内部情報をリークすることはしばしばありました。アメリカが提示する要求の多くは、“メード・イン・カスミガセキ”だった。今回も財務省がIMFに対して同様のことをしていても、驚くべきことではない」

「消費税」だけをピックアップ

 そもそも報告書は、日本の「増税派」の了解の上で出されたものだった。報告書には、今年5月、10日間にわたってIMFの審査チームが東京を訪れた際、野田佳彦副財務相(当時)、古川元久内閣官房副長官らと会談したことが記されている。さらには〈(日本の)当局者たちは結論を共有した〉とも明記されているのである。

 財務官僚の意向に合わせ「消費税増税」をみちびき出したせいか、レポートの内容自体が強引すぎると指摘するのはイエール大学経済学部の浜田宏一教授だ。

「政府の信用状態を正確に把握するには、粗(あら)政府債務(資金の借り入れ・保証などの債務)ではなく、純政府債務(粗債務から政府が保有する金融資産を差し引いたもの)を見るのが常識です。純政府債務であれば日本の借金はGDP比60%以下にもかかわらず、同レポートではわざわざ粗政府債務の数字(日本の借金はGDP比約180%)を用いている。

 第二に、レポートは日本円へのソブリンリスク(※)を懸念しているが、国全体で見るとギリシャとは正反対に日本は世界最大の債権国。今の円高を見ればわかるとおり、円に対するマーケットの信任は高く、リスクが高いとは到底いえない。さらにこれまで金融緩和などの対策を講じていないことに深く言及せず、デフレの危険が伴う消費税増税を求めるのにも無理がある」

※ ソブリンリスク/国家の債務不履行(さいむふりこう)(デフォルト)に対する危険性のこと

 さらに浜田氏は、マスコミの報道にも首をかしげる。「このレポートでは日本の不十分な金融政策などにも触れているのに、なぜか報道では、消費税の部分だけが取り上げられている」

 実際に、A4サイズの紙で46枚に及ぶレポートのうち、消費税増税について具体的に触れた部分は3ページほど。にもかかわらず、新聞各紙には、

〈日本に早期増税提言へ〉(朝日7月14日夕刊)

〈IMF「日本、消費増税を」 来年度から段階的に14~22%案提示〉(読売15日夕刊)

 と「消費増税」の見出しばかりが躍(おど)った。

 ある大手新聞の政治部記者が、今回の報道の裏事情を明かす。

「朝日は、このレポート発表直前にIMFの関係者に取材してスッパ抜いた。その関係者が消費税の部分のみ漏らしたからなのか、朝日の記者がそこだけに注目したからなのかは定かでないが、記事は消費税増税だけにスポットを当てた。結果、IMFと財務省の筋書き通りになった」

 IMFのレポートは、一般の読者から見れば、日本に対する国際機関からの“外圧”である。ただし、そのシナリオを描いたのは増税に突き進もうとする国内勢力なのだ。

 国民を欺く菅政権と財務官僚はもちろんのこと、意図的な情報を批判なく受け入れ、それを垂れ流す大メディアにも大きな責任がある。

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