これまでに私は〈白米のとぎ汁〉〈玄米のとぎ汁〉〈米ぬか+デンプン+水〉〈玄米浸潤液+デンプン〉〈玄米浸潤液+浸潤後の玄米とぎ汁〉あるいは〈米粉+水〉〈白米粉+水〉〈玄米粉+水〉等を培養液として使った米乳酸菌の培養実践を数多く行なってきました。
デンプン源としては、片栗粉・米粉・白米粉・玄米粉を使いました(片栗粉と米粉は市販のもの、白米粉と玄米粉は家にあった白米・玄米をそれぞれ家庭用製粉機で粉にしたもの)。
白米や玄米や米ぬか、市販の米粉の中には乳酸菌その他の発酵微生物が生きているので、上記の培養液の中にはどれも最初から乳酸菌や酵母などが含まれています。そしていずれの培養液にも栄養源としてのデンプンと、種籾の中に含まれていたデンプン分解酵素や各種の酵素が入っています。
私が行なった米乳酸菌の培養実験・実践の多くはあら塩と砂糖を加えたものです。昨年5月に始めた当初の数回はあら塩も糖も使いませんでしたが、その場合はできあがった乳酸菌液の pH は 4.5~4.0 にとどまっていました。米乳酸菌培養に白糖*1を使い始めたのは大分後になってからということもあって、実践のほとんどが黒糖・加工黒糖・粗糖*2を用いたものです。黒糖(加工黒糖・粗糖)を加える場合、培養液に初めから入れると乳酸菌液の pH は長い間 4.5~4.0 にとどまってしまうため、黒糖(加工黒糖・粗糖)は培養開始から約2日後に投入する必要があります。そうすることによって培養初期に乳酸菌を先に大増殖させて、4~7日後くらいまでに乳酸菌液の pH を 3.5 に到達させることが可能になります(培養環境の温度が高いほど早く 3.5 に到達します)。その結果、最初に挙げた培養液のすべてにおいて、初日にあら塩*3、2日後に黒糖(加工黒糖・粗糖)を加えることによって pH3.5 の乳酸菌液を得ることに成功しています。
米ぬかと砂糖だけを使った培養実験
ところが<乳酸菌を培養する(11)――〔探究編3〕黒糖と白糖、白糖乳酸菌風呂>に書いたように、白糖の場合には培養液の中にあら塩と一緒に最初から白糖を入れても3~7日で pH が 3.5 に到達することが分かりました。というより白糖の場合には2日後に入れるよりもむしろ最初から入れた方が早く 3.5 に到達すること、酵母の増殖も早まることが分かりました。また、白糖乳酸菌液は黒糖乳酸菌液に比べて酵母が少ないということも経験的に分かりました(初日に白糖を入れることによって酵母はそれなりに増える)。
上に挙げた培養液にはいずれもデンプンが含まれています。砂糖を2日後に入れる培養方法の場合、乳酸菌の初期の大増殖に使われるエネルギー源はデンプンが分解されてできる麦芽糖やブドウ糖です。ところが白糖を初日に入れると pH が早めに 3.5 に到達するということは、初期の増殖において乳酸菌が白糖を利用しているということ、少なくとも初期においては酵母は白糖を効率的に利用できていないこと、この二つを示しています(黒糖や加工黒糖を最初に投入した場合は酵母が早めに増殖することから、酵母は黒糖や加工黒糖を効率的に利用していることが分かります)。
そんなことを考えているうちに「白糖があればデンプンはなくても大丈夫ではないか」という考えがふと頭に浮かびました。黒糖や加工黒糖、粗糖の中には乳酸菌や酵母が生きています。白糖の中には乳酸菌や酵母はいません。また、白糖の中には糖蜜成分がまったく含まれていません。黒糖や加工黒糖の中にいる乳酸菌や酵母の存在が関係しているのか、糖蜜成分の有無が関係しているのか、あるいは他の何かが関係しているのかは分かりませんが白糖が初期における乳酸菌の増殖に関与していることは明らかなのでとにかく実験してみることにしました。
私の手元には上記4種の砂糖(黒糖・加工黒糖・粗糖・白糖)があります。〈米ぬか+あら塩+水〉の培養液を用意し、別々に4種の砂糖を入れて様子を見ます。また、糖を最初から入れたものと、2日後に入れたものとの違いも観察します。米ぬかは通販で購入したデンプンの少ない「青森県ときわ村産「つがるロマン」の米ぬか)」(無農薬・無化学肥料・有機JAS米)を使います。あら塩は上記の「海水塩」。
500mlのペットボトルを8本用意し、それぞれに米ぬか大さじすりきり1杯とあら塩小さじ1杯強を入れ、首の下あたりまで水を入れます。8本を4本ずつ2つのグループに分けます。一方のグループの4本には黒糖・加工黒糖・粗糖・白糖をそれぞれ大さじ1杯強ずつ入れます(これをAグループと呼ぶことにします)。もう一方のグループの4本には2日後に黒糖・加工黒糖・粗糖・白糖をそれぞれ大さじ1杯強ずつ入れます(こちらはBグループと呼ぶことにします)。
通常の培養もやっているため余分な8本をホットマットの上に寝かす余地はないので、日当たりの良い窓際に8本を並べて置きます。実験は8月23日から9月末にかけて行ないました。晴れた日の昼間は30℃を越えますが、天気の悪い日や夜間は26~27℃辺りまで下がります。通常のとぎ汁培養でもこの環境では pH3.5 になるまで5、6日かかります。
さて、結果です。それぞれのボトルについて pH が (1)5.0、(2)4.5、(3)4.0、(4)3.5、(5)3.0 になるまでにそれぞれ何日かかったかをまとめると次のようになります。
Aグループ(初日に砂糖を入れたもの)
黒糖 :(1)2日後、(2)5日後、(3)8日後、(4)到達せず
加工黒糖:(1)2日後、(2)5日後、(3)8日後、(4)到達せず
粗糖 :(1)2日後、(2)5日後、(3)8日後、(4)到達せず
白糖 :(1)2日後、(2)3日後、(3)4日後、(4)5日後、 (5)15日後
Bグループ(2日後に砂糖を入れたもの)
黒糖 :(1)3日後、(2)5日後、(3)8日後、(4)到達せず
加工黒糖:(1)3日後、(2)5日後、(3)6日後、(4)7日後、 (5)到達せず
粗糖 :(1)3日後、(2)5日後、(3)8日後、(4)18日後、(5)36日後
白糖 :(1)3日後、(2)5日後、(3)7日後、(4)8日後、 (5)15日後
デンプンがほとんどない培養液でも初日に糖を入れた場合、白糖以外は pH が 3.5 に到達しないことが分かりました。これは予想通り。しかし、白糖はデンプンがなくても 3.5 に到達すること、しかも2日後に入れるよりも最初から入れた方が早く 3.5 に到達することが分かりました。
2日後に糖を入れた場合、デンプンがないにも関わらず加工黒糖は7日で 3.5 に到達しました。これは予想していませんでした。粗糖の18日後は加工黒糖の結果を見ていたのでなんとなく納得。しかし、黒糖が1か月以上経っても 3.5 に到達しなかったのは期待外れでした。黒糖や粗糖を使う場合はデンプンが必要ということでしょう。また、白糖は2日後に入れた場合に8日もかかっています。白糖はやはり最初から入れる方がいいようです。なお、2日後に糖を入れる場合デンプンがあれば、黒糖・加工黒糖・粗糖・白糖のどれもが4~7日で pH3.5 に到達することはこれまで数多くの実践を通して確認済みです。
この実験で「白糖があればデンプンはなくても大丈夫ではないか」という私の予想が正しかったことが確認できました。しかし、乳酸菌は白糖だけで初期の増殖ができるのに、酵母はなぜできないのかその理由は今のところはっきりとは分かりません。細胞形成に必要な栄養分のうちミネラルはあら塩にも含まれていますが糖蜜に含まれているタンパク質や脂質等の成分が関係している可能性は考えられます。タンパク質や脂質はとぎ汁や米ぬか等にも含まれていますが乳酸菌に比べて身体の大きい酵母が増殖するには足りないかもしれません。なお、乳酸菌や酵母も細胞を作るために必要なタンパク質などは外部から取り入れることができなければ糖などを利用して自ら作り出すことができますから時間さえあれば増殖することはできます。
なお、糖とあら塩だけでデンプンを入れない米ぬか培養液・米ぬか乳酸菌液は嫌な匂いがします。糠漬けの糠床は特有の匂いがしますがそれと比べてもさらに嫌な匂いです。そして黒糖や粗糖を入れたものでは糖蜜の色のために隠れてしまって分かりませんが白糖を使ったものでは米ぬかから出てきた色素のために褐色になります。白糖を使ったとぎ汁乳酸菌液やデンプンを入れた白糖米ぬか乳酸菌液あるいは白糖を使った玄米浸漬乳酸菌液ではこのような褐変は見られません。結局のところ、デンプンを入れない米ぬか培養液はたとえ pH が3.5 になったとしても完成するまでに時間がかかる上に嫌な匂いがしますし、白糖の場合は培養液が褐色になってしまうわけです。
というわけで、黒糖・粗糖を使う培養液にはデンプンが絶対に必要である(加工黒糖や白糖の場合もデンプンは入れた方がよい)こと、黒糖・加工黒糖・粗糖は2日後に入れなければならないこと、白糖は最初に入れる方がよいということがあらためて確認されました。いずれにしても米ぬか培養ではデンプンを入れることが必須であるというのがこの実験で得られた結論ではないかと思います。
〔注記〕pH試験紙については「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「pH試験紙・培養液の色(10円硬貨の利用)」をご覧下さい。pH試験紙が手元にない場合の簡易判定に10円硬貨を利用する方法についても記してあります。
〔注記〕乳酸菌の培養に用いて使い終わった使ったペットボトルの汚れは水で洗うだけで十分ですがボトル内部の肩口の辺りに付着している浮遊物や産膜などはブラシで落とせます。なお、「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「培養液の濾過・沈殿培養液・ボトル等の洗浄」でご紹介している「フルフルボトル洗い」を使うと手間がかからず簡単にペットボトルの洗浄ができます。
〔注記〕 米のとぎ汁や米ぬか水等を利用した米乳酸菌の培養に関する基本的な事項や知っておくべき大切な情報は <乳酸菌を培養する(1)――〔基礎編〕> に載せてあります。まだお読みでない場合は一通り目を通しておかれることをお勧めします。また、その記事には 乳酸菌液の利用・活用・効能 や 関連記事へのリンク集 も載せてあります。
なお、日々の実践を通して新たに分かったことや新しい知見、あるいは誤っていた記述など、<乳酸菌を培養する(1)>の内容は頻繁に更新・追加されていますのでときどき目を通して頂ければ幸いです。
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