乳酸菌を培養する(18)――〔探究編5〕米乳酸菌は120℃に耐えるか(PC版ページへ)

2013年08月17日21:02  科学・教育>発酵

最終更新日 2013年8月26日〕

〔2013.08.22 追記〕実験3:黒糖とぎ汁乳酸菌液を圧力鍋で煮沸する

〔2013.08.26 追記〕実験4:黒糖とぎ汁乳酸菌液を圧力鍋で高圧蒸気滅菌処理する


先日掲示板『放知技』の<乳酸菌・光合成細菌などの微生物の科学的効果>というスレッドに「白米研ぎ汁には植物性乳酸菌がタップリという人がいますが、残念ながら白米研ぎ汁には冒頭の実験結果により植物性乳酸菌は含まれていないものと思います。また摂取しても含まれる乳酸菌は胃酸で殆ど死滅することと推定します」という引用文を含むコメントが投稿されていました(#216)。

引用元の記事「白米研ぎ汁乳酸菌」(『醗酵食で自然体に生きる 埼玉の醗酵仙人 菌坊』)を読んでみると、菌坊さんは煮沸させた白米とぎ汁をペットボトルに入れて乳酸発酵するかどうかを試したようです。その結果煮沸したとぎ汁は発酵しなかったので「白米研ぎ汁乳酸菌水には植物性乳酸菌が含まれていない」と結論なさったようです。

〔注記〕とぎ汁培養液や米ぬか培養液を使って十分な乳酸菌を増殖させた液のことを私は発酵乳酸菌液(発酵乳酸菌水)と呼びますが記事の中ではこれを単に乳酸菌液と表記しています。

なお塩や糖の分量について以下の文中ではグラム表記の他に「小さじ~杯強」「大さじ~杯強」という表記を使っています。塩や糖の比重は水よりも小さいので「小さじ1杯強」「大さじ1杯強」でそれぞれ約5g・約15gになります。つまり「強」はやや山になる程度の量を表しています。

 この記事の目次

 
菌坊さんの加熱とぎ汁実験と加熱玄米浸漬水の実験について

とぎ汁乳酸菌液には植物性乳酸菌がいない?
菌坊さんがおっしゃる「白米研ぎ汁乳酸菌水」というのは素直に読めば白米のとぎ汁を発酵させて作ったとぎ汁乳酸菌液のことを指していると思われるので上記の「白米研ぎ汁乳酸菌水には植物性乳酸菌*1が含まれていない」という部分だけを読むとあたかもとぎ汁乳酸菌液には植物性乳酸菌がまったくいないかのように思われるため、この記事をお読みになったうぴさんが上記のようなコメントを掲示板に投稿なさったのでしょう。私は一昨年(2011年)の5月以来白米とぎ汁乳酸菌液をずっと作り続けてきました。2年余にわたるとぎ汁培養米ぬか培養等の実践を通して米乳酸菌のしぶとさ・たくましさを知った私から見ると上記の菌坊さんの主張はやはり間違っているといわざるをえません。

*1乳酸菌と呼ばれる細菌類には非常にたくさんの種類のものがあります。一般的には動物の体内や皮膚などに生息している乳酸菌は「動物性乳酸菌」、植物の体内や体表に住む乳酸菌は「植物性乳酸菌」と呼ばれていますが生物学的にこのような厳密な区別があるわけではありません。人間や動物が摂取する植物性の食べものには植物の体内や体表に生息している乳酸菌が住んでいるため、人間や動物の腸内には当然これらの「植物性乳酸菌」が住み着いているわけですから、学術的・科学的に「動物性乳酸菌」「植物性乳酸菌」の二つにきちんと分類できないのは当然のことです。

菌坊さんは「90℃の加熱に耐えて生き残る乳酸菌」だけを「植物性乳酸菌」と呼んでいらっしゃいます。これは菌坊さん独自の定義であり一般的な「植物性乳酸菌」という呼び方とは違います。ですから余りよく考えずに菌坊さんの上記記事を読んで、とぎ汁乳酸菌液の中には「植物性乳酸菌」がいないと早とちりする方がいらっしゃるかも知れません。しかしながらとぎ汁にあら塩や砂糖を加えて作ったとぎ汁乳酸菌液の中には米乳酸菌つまり「植物性乳酸菌」がたくさん増殖しているのは間違いのないことです乳酸菌を培養する(1)――〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた(とぎ汁培養液)

さらに「乳酸菌を培養する(17)――〔展開編5〕植物系で作る豆乳ヨーグルト」をお読み下さると分かるのですが様々な野菜や野草、穀類・豆類、果物の体内や体表には乳酸菌が住んでいて、特に植物体の内部に住む内生菌と呼ばれるものは加熱や洗浄などの処理をおこなった後の植物性食品の中でもしぶとく生き残っています。まだ完全に確認されたとはいえませんが炊いた白米ごはんの中にも乳酸菌が生き残っている可能性があります。これらのことや下記のroujinさんの実験結果から判断して、90℃以上に加熱した白米とぎ汁の中にもそれに耐えて生き残る乳酸菌がいるのは間違いないと私は確信しています。

とぎ汁乳酸菌は煮沸に耐える
菌坊さんの主張はやはり間違っている」と私が確信しているのはかつて私はとぎ汁の煮沸実験をしたことがあるからです。その実験では、とぎ汁にあら塩を入れたものを鍋に入れて煮沸しこれをペットボトルに移してから 32℃程度の暖かい環境で2日置いたところ、pHの低下と小泡の発生が見られたので確実に発酵が進んでいると判断し加工黒糖を投入しました。その後通常よりは日数がかかった(8日。通常は4日)ものの培養液の pH が 3.5 に到達しました(顕微鏡でも乳酸菌がたくさん増殖しているのを確認しました。またこれを種にした豆乳ヨーグルトも作って食べました)。加工黒糖の中には乳酸菌や酵母が生息しているので増殖した乳酸菌の中には加工黒糖由来のものもいたと思いますが加工黒糖+あら塩の培養実験では pH3.5 に到達するのに5週間以上かかったことを考慮すれば煮沸したとぎ汁の中で生き残った乳酸菌が増殖したという可能性が非常に高いと思います。

また、当ブログの「乳酸菌風呂に対するネガキャン――ニセ科学批判とエア御用」という記事に寄せて下さったroujinさんコメント(2012/04/26)によれば、90℃で高熱殺菌したとぎ汁にグラニュー糖10%、食卓塩0.3%を加えて培養したところ pH3.1 の乳酸菌液が得られたということです。

菌坊さんが行なった加熱とぎ汁の実験ではあら塩も糖も入れていないらしいので、そのような栄養分の乏しい環境ではたとえ乳酸菌が生き残ったとしても十分に発酵できるほどの増殖は難しいのではないかと推察できます。あるいはとぎ汁自体が薄かったのではないかという可能性も考えられます。麹菌などのカビ類は加熱しても胞子という形態で生き延びるので記事にある写真のようにボトルの中に黒いカビ(黒麹か黒カビかは判別できませんが)が発生したのだと思われます。また菌坊さんの実験では2リットルのボトルに加熱したとぎ汁1リットル程度が入れてあります。このような好気環境も乳酸菌の嫌気発酵にとってはハンディとなるでしょう。

菌坊さんの玄米浸漬(しんせき)は栄養が豊富
それにひきかえ菌坊さんが「煮沸に耐えた加熱乳酸菌水」とおっしゃる加熱した玄米浸漬水は栄養環境も嫌気環境もまったく違います。菌坊さんは「美味しい加熱乳酸菌水」という記事で「この乳酸菌水は仕込む前に2合の玄米を90℃5分煮沸殺菌したものです。仕込んだのは冬場でした。例の通り1リッターのペットボトルに入れ就寝時オマタに挟んで3日3晩布団に入ったまま無事酸味が出て4リッターペットボトルに移し後は常温自然培養で屋根裏に放置していました。」と書いておられます。この記述から推察できるのは、菌坊さんは2合の玄米を水に浸けたものを90℃に加熱してこれを1リットルのペットボトルに入れてさらに水で満たしたものを3日3晩暖かい環境に置いたこと。そして酸味が出て乳酸菌が乳酸を作り出したことを確認した上でこれを4リットルのボトルに移し、さらに水を加えて全体を4リットルにしたということです。記事に載っている4リットルのボトル(焼酎のボトルのようです)の写真を見てもそのことは分かります。また、過去の記事でも「早く醗酵させるためには2合の玄米を1リッターペッボトルで充分醗酵させてから4リッターへ希釈して4リッターボトルでの醗酵としてください。また、醗酵しにくい場合は玄米比率を増やしてください」とおっしゃっています。そんなわけで菌坊さんの加熱玄米浸漬水の発酵環境と菌坊さんの実験で使われた加熱とぎ汁の発酵環境とのあいだには雲泥の差があります。菌坊さんは加熱したとぎ汁の中でかろうじて生き残っているかもしれない乳酸菌に対してはあまりよい発酵環境を与えなかったわけです。菌坊さんはその程度の実験で「白米研ぎ汁乳酸菌水には植物性乳酸菌が含まれていない」と決めつけてしまった。玄米の中に「植物性乳酸菌」が生きているのなら米ぬかや胚芽の一部を中に含む白米とぎ汁の中にも「植物性乳酸菌」は生きているはずであるという想像力がなぜ働かなかったのでしょう。私にはそれが不思議です。
――菌坊さんは記事の中で「90℃煮沸」と書いておられますが「煮沸」というのは加熱して沸騰させることです。しかしよほど高い山にでも登らない限り水は90℃では沸騰しませんから正確には煮沸ではなく「90℃加熱」だと思われます。白米とぎ汁の場合も「煮沸」ではなく「90℃加熱」だったのかもしれません。

米乳酸菌は120℃の煮沸に耐えるか
菌坊さんの実験に対するクレームはこれくらいにして本題に参りましょう。当記事のサブタイトルは「米乳酸菌は120℃に耐えるか」です。菌坊さんが90℃加熱の玄米浸漬水を使っておられるのに「なぜ120℃?」といぶかしむ方もいらっしゃるでしょう。実は前述の「白米研ぎ汁乳酸菌」という記事の中で菌坊さんは「植物性乳酸菌は120℃の煮沸に耐え、また人工胃酸中にも80%以上の生存確認が認められている耐性に優れ確実に腸まで生きて届く乳酸菌です」と書いておられます。実際に菌坊さんがそういう実験をなさったのかどうか、菌坊さんのブログの記事の中にその実験に関するものは見つかりませんでした。「生存確認が認められている」という表現からみて誰か他の方が実験したのかもしれません。そんなこともあり、また 90℃の加熱とぎ汁培養実験についてはすでにroujinさんが白糖と食卓塩を使って pH3.1 の乳酸菌液ができたことをご報告下さっていますので、どうせやるなら 120℃の煮沸実験をしてみようと考えたのでした。紅茶葉やコーヒー粉・日本茶・ジャムなどの中でも乳酸菌は生きています。「米酸菌は 120℃の加圧沸騰に耐えて生き延びるだろう」、半分確信めいた希望を抱いて私はとぎ汁乳酸菌液の120℃煮沸実験を始めたのでした。
――「美味しい加熱乳酸菌水」を読むと菌坊さんが玄米浸漬水を90℃加熱なさったのは「(玄米)乳酸菌水のイヤな雑臭」を取り除くためだったようでもあります。菌坊さんのこの加熱乳酸菌水はでき上がるまでに5か月かかったとのことです。なお「〔発展編1〕驚異の玄米浸漬培養液」という記事では短期間にできてしかも嫌な匂いも褐変もない玄米浸漬乳酸菌液の作り方をご紹介しています。この玄米浸漬乳酸菌液(当ブログ記事の中では略して「玄米乳酸菌液」と表記することもあります)は乳酸菌密度が高いので是非お試し下さい。

圧力鍋の温度と内圧
120℃というのは市販されている標準的な圧力鍋の内圧で得られる温度です。簡単にいうと標準的な圧力鍋は水を入れて加熱したときに内圧(鍋内部の気圧)が約2気圧(2atm)に保たれるように作られています。そして 2気圧の元では水は120℃強で沸騰しそれ以上の温度にはなりません(ただし、料理等で圧力鍋を使用する場合は材料や調味料に含まれる水溶性の成分が水に溶け込んでいるため沸点はそれよりも高くなります――沸点上昇という化学的な現象が起こるため)。
――平地における通常の大気の圧力(大気圧)はほぼ1気圧です。そして、1気圧の大気圧の元では水は100℃で沸騰します(高山や海抜の高い場所では大気圧が1気圧よりも低いため水は100℃よりも低い温度で沸騰します)。実際は高気圧に覆われてよく晴れた日でないと大気圧は1気圧にはならず、雨の日や天気の悪い日は大気圧が低いので鍋ややかんで沸騰させたお湯の温度は100℃よりも低いのがふつうです。圧力鍋や圧力釜は水を入れて密閉します。内部には蓋をするときにいっしょに閉じ込められた大気圧と同じ気圧の空気が入っていますから加熱する前の圧力鍋内部の気圧はほぼ1気圧です。圧力鍋は設定された値よりも内圧が低い時には密閉性が保たれるように設計されています。水を入れて加熱すると蒸発によって発生した水蒸気が鍋の内部にどんどんたまるのでたまった水蒸気の圧力が加わって鍋の内圧は大気圧よりも高くなっていきます。このため圧力鍋の中にある水は加熱し続けることによって100℃よりも高い温度になり内圧は発生し続ける水蒸気のためにどんどん高くなっていきます。しかし安全のためと内圧を一定に保つために、圧力鍋には設定された気圧(おもりを使って調整されています)よりも内圧が高くなったときに中の水蒸気を逃がすための調圧弁がついているので内圧が設定された値に達すると調圧弁が自動的に開き外に水蒸気が出てきます。調圧弁から蒸気が出てくるまでは強火で加熱しますが内圧が設定値に到達して蒸気が外に出てきたらその後は弱火で加熱するだけで鍋の内部では水が沸騰し続けて一定の高温・高圧(約120度・2気圧)が保たれるわけです。圧力鍋を使った料理のレシピに書いてある加熱時間というのは調圧弁が開いて水蒸気が出始めてからの弱火による加熱時間を示しています。

なお以下の実験では現在私の手元にある圧力鍋*2を使います。

*2ルミナスプラス 片手圧力鍋 DLPK3.5:この圧力鍋の高圧モード, 低圧モードのゲージ圧はそれぞれ 110kPa(1100hPa), 65kPa(650hPa)ですから水を入れて密閉してから加熱沸騰させたときのこの圧力鍋の最大内圧はそれぞれのゲージ圧に実験時の大気圧を足せばよいことになります。標準大気圧は 1気圧(≒101.3kPa)ですが実験時の大気圧はその日の天候や測定場所の海抜によっても異なります。大抵は 1気圧をやや下回る程度ですから大体 100kPa を足せばよいでしょう。したがってこの圧力鍋の高圧モードでの最大内圧は 110+100=210(kPa) ということになります(210÷101.3≒2.07 から最大内圧は2気圧ちょっと程度)。大気圧を 100kPa と見積もったために生じる誤差を含めた上で、この圧力鍋の高圧モードにおける水の沸点は 120~122℃ だろうと考えられます(リンクページの [飽和蒸気圧表] ボタンを押して、出てきた表の 120℃~122℃あたりを見ると 210kPa=2100hPa に近い値が並んでいます)。

なおこのシリーズの片手圧力鍋は現在製造されておらず市場にも流通していないようですが内面にフッ素加工がほどこされた「ルミナスプラス フッ素両手圧力鍋 LPFR3.5」というのが出ています。フッ素加工・両手鍋になったということ以外は仕様も付属品も DLPK3.5 とまったく同じです。価格も3年前に私が買った DLPK3.5 と同程度です。

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実験1:pH3.5 に到達したとぎ汁培養液(あら塩・白糖添加)を圧力鍋で煮沸する

実は以下の実験をする前に米ぬかとあら塩・白糖で作った乳酸菌液(pH3.5)を圧力鍋に入れて加熱沸騰させる実験を行ないました。実験前の乳酸菌液と加熱後の乳酸菌液との両方を顕微鏡で観察した結果、実験前の乳酸菌液に見られた酵母の姿は加熱後の乳酸菌液ではまったく見られませんでしたが乳酸菌については半減とまではいかない程度の減少でしたので、この実験によって米ぬか乳酸菌液の中の乳酸菌は 120℃超の高温に耐えて生き延びたことが確認できました。そんなわけでとぎ汁乳酸菌液の中の乳酸菌も圧力鍋による加熱に耐えるであろうという予想の元に実験を始めたのでした。

2013年8月13日 夕〕8月10日に炊いた 1合の白米から得たとぎ汁500mlにあら塩小さじ1杯強を加えてホットマット上に寝かせて上にカバーを掛けました。2日後の12日夕に白糖大さじ1杯強を加えてさらにホットマット上で培養を続けました。この培養液が翌13日に pH3.5 に到達したので150mlを小瓶に取り分けておき、残りの培養液を圧力鍋に入れて加圧沸騰させました(内圧が設定圧に到達してから弱火で5分間加熱)。火を消して圧力が下がるまで調理台のステンレスの上で放熱させ、圧力が大気圧と同じになったところで蓋を開けガラス蓋に変えてさらに培養液の温度が下がるのを待ちました。

冷めた培養液と取り分けておいた原液とを顕微鏡で観察しました。原液の中には非常にたくさんの乳酸菌(発酵初期の盛んな増殖のため長く連鎖したものが多く観察されます)とわずかな数の楕円形の出芽酵母が見られました。加熱沸騰させた培養液の中にはやや減少したもののまだかなりたくさんの乳酸菌が見られました(3分の2くらい?)が長く連鎖したものは見られず2連鎖のものがちらほら観察されるくらいでほとんどのものが単独でした。酵母の姿はまったく見られませんでした。高温で加熱したために酵母はすべて死滅したものと思われます(高温に強い産膜酵母以外のものは 55℃程度で死んでしまうようです。さすがの産膜酵母も 70℃には耐えられないでしょう。ましてや 120℃の高温に耐えられる酵母はいないでしょう。――8月17日の追記に書きましたが酵母も生き延びたようです。

ペットボトルに入れて沈殿が落ち着いたところでよく見ると一番下に黄褐色(ビスケット色)のものが沈殿しています。通常の培養ではデンプンが分解されたデンプンかす(本当の名前は分かりませんがデンプンやタンパク質が分解されてできたものであることは確かです)は薄い黄褐色をしていますがデンプンかすはかなり軽いので沈殿物の一番上にたまります。したがって一番下に沈殿している黄褐色の沈殿は明らかにデンプンかすではありません。もしかすると糖とタンパク質が高温でメイラード反応を起こしてメラノイジンができたのかもしれません。

2013年8月13日 夜〕加熱沸騰させた培養液を種にして豆乳ヨーグルトができるかどうかを試してみました。加熱培養液 10ml豆乳 125mlとをタッパに入れて部屋の中でも比較的暖かい場所に置きました。翌日の午後には固まっていました。18時間以内で固まったことは確かです。普通の乳酸菌液を種にしたものはこの時期常温で半日ちょっとで固まりますからそれよりも時間がかかりました。考えてみると普通の乳酸菌液の場合、豆乳250mlに対して乳酸菌液25~30mlを入れていますから、豆乳125mlに対して培養液10mlはちょっと少なかったかもしれません。乳酸菌の数が減っていることを考えれば培養液を20mlにしてもよかったかもしれません。

できた豆乳ヨーグルトはかなりゆるめですが乳清の分離は見られません。冷蔵庫でしばらく冷やしてから食べてみました。プレーンで癖のないさっぱりした味です。酸味や旨みは余りありません。ブルーベリーソースを載せて食べたところとてもおいしい。

2013年8月14日 夜〕今度はヨーグルティアを使ってみました。加熱培養液 30ml豆乳 250mlとを330mlのタッパに入れて、水を入れたヨーグルティア容器の中に浮かせました。40℃・9時間で固まりました。なお湯煎状態にするとお湯の温度は設定した温度よりも1℃くらい低くなるようです。こちらもゆるめのヨーグルトになりました。冷蔵庫で冷やしてから食べてみると、プレーンでさっぱりしているところ、酸味がほとんどないところは変わりませんが旨みがあるのに驚きました。とてもおいしいです。培養液の量の割合を多くしたこと、時間が経ったことによって乳酸菌が増えたことが原因かもしれません。普通の乳酸菌液を種にするときもあらかじめ煮沸しておいた乳酸菌液を使うとプレーンな風味の豆乳ヨーグルトができるかもしれません。

――〔2013年8月17日 追記〕2日経ったヨーグルト。乳清が分離してきていますが固形部分のおいしさは変わりません。今夜はこれを種にしてみようと思います。

2013年8月15日~16日〕加圧煮沸した培養液は250mlのペットボトルに入れて常温放置していますがゆるやかに発泡しています。蓋を開けてたまった気体を逃がした後、数時間でペットボトルが固くふくらんでいるのが分かります(気体には妙な匂いはありません。むしろさわやかな甘い香りがほんのりとしています)。これの繰り返しです。中で乳酸菌が増殖しているようです。酵母がいないのであら塩と白糖の量はまだ足りていると思われます。すでに発酵初期のほんわかとした香りは消えてほとんど無臭です。なお取り分けておいた原液の方は激しく発泡しています。

2013年8月17日 〕白糖乳酸菌液独特のストレートな匂いがしません。酵母が作り出すアルコールがないからなのでしょうか。発泡は量も増えて続いています。顕微鏡で見たところ2~8連鎖のものがたくさん見られます。明らかに乳酸菌は増えています。驚いたことに酵母もいます。加圧沸騰させる前にいた酵母が胞子の状態で生き残り、よい栄養状態になったので発芽して増えたのでしょう。楕円形のものが多いですが桿形のものも短桿形・中桿形・長桿形といろいろな種類がいます。枝分かれしてつながったものも散見されます。産膜酵母も生き延びたようです。発酵微生物の生命力はすごいですね。――取り分けておいた原液の方は乳酸菌が順調に増えています。酵母も当初よりも数が増えていますがまだコロニーを形成するほどの数ではありません。白糖乳酸菌液は黒糖乳酸菌液に比べて酵母が少ないのが特徴です。こちらの方はアルコールが混じったようなちょっとストレートな匂いがしています。

2013年8月21日 〕煮沸実験からほぼ一週間。ずっと発泡を続けています。酵母はやや少なめですが乳酸菌は通常の白糖乳酸菌液と同じくらいの密度になりました。120℃の煮沸に耐えた乳酸菌が一週間でここまでに増え酵母も姿を現したということは煮沸する以前に乳酸菌液の中にいた乳酸菌の多くが120℃の苛酷な環境を生き延びたということ、酵母の中にも生き延びるものがあることを意味しています。つまりこの実験の結果は通常のとぎ汁乳酸菌液には菌防さんの定義する「植物性乳酸菌」がとても多いことを意味しています。といったわけで結論が出たようなのでこの実験はここまでと致します。

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実験2:白米とぎ汁にあら塩を加えたものを圧力鍋で煮沸した後、白糖で培養する

〔注記〕写真をクリックすると別窓が開いて原寸表示のものが見られます。

2013年8月14日 午前 1合分の白米とぎ汁500mlにあら塩小さじ1杯強を加えたものを圧力鍋に入れて2分間加圧煮沸しました(高圧モード)。火を止めてすぐに水道水で鍋を冷却し、あら熱を取った後蓋は外さずそのまま自然冷却するのを待ちました。写真は冷めた後で蓋を取ったところ。米デンプンがアルファ化して糊状になっているのが分かります。タンパク質も固まっているのではないかと思います。

鍋から500mlペットボトルに移し、蒸発で失われた水分や鍋に付着した固形分によって培養液が目減りしていたので首のところまで水を追加しました。糊状になったでんぷんがふわふわと浮遊しているため全体がミルクのような感じになっています。糊状のデンプンや固まったタンパク質は時間が経てば底の方に沈殿します。

落ち着いて上の方が少し透明に近くなったところで顕微鏡で見てみました。通常の場合も培養初期のとぎ汁の中にいる乳酸菌は顕微鏡を覗いてもそれほどたくさん観察できるわけではありません。加圧沸騰させたとぎ汁では加熱によって死滅してしまう乳酸菌もいるのでさらに少なくなります。あまり期待していませんでしたがわずかながら乳酸菌らしきもの姿は見えました(通常のとぎ汁の場合、細胞分裂して連鎖しているものがそれなりの数で見られますし2連結しているものはピコピコと動いています。しかし単独のものは動きがほとんどないのでそれが乳酸菌なのか単なる栄養分などなのか判別しづらいところがあります。「らしき」と表現したのはそういう意味です)。しかし苛酷な環境に耐えて生き残ったわずかな乳酸菌がいることを確信しながらホットマット上に他の培養液のボトルと並べて置いてカバーで覆いました。

2013年8月15日〕糊状化したデンプンがボトルの底に5~6センチくらい積もっています。上部はやや透き通った半透明状態です。そのデンプンのところからわずかですが小さな泡が昇ってきています。蓋を開けたときにほんのかすかですが気体が抜ける音が聞こえました。pH を調べてみると 5.0弱にまで下がっていました。腐敗臭などはありません。発酵が始まったと判断し、白糖を大さじ1杯強入れます。白糖を入れた後消えにくい泡が口の所に集まってきました。液の内部に溶け込んでいた乳酸菌の呼吸によって生じた二酸化炭素が白糖を入れた衝撃によって気体になって出てきたものと思われます。

〔注記〕白糖を入れる理由
とぎ汁の中には白米に含まれていたデンプンとタンパク質が含まれています(タンパク質はデンプンに比べるとわずかです)。白米のかけらもあるのでこれにもでんぷんとタンパク質が含まれています。また白米の表面に付着していたわずかな糠(ぬか)も含まれています。糠にはセルロース(食物繊維)のほかに脂肪分やフィチンが含まれています。フィチンは酸性の水溶液の中でフィチン酸とミネラルに加水分解されます。また玄米を精白するときに剥がれ落ちた胚芽や胚芽のかけらも含まれています。胚芽にはミネラルやタンパク質が含まれています。

これらの栄養分は乳酸菌が初期の発酵・増殖をするのには十分ですがさらに増殖してたくさんの乳酸を作り出すためには不十分です。とぎ汁培養では以後の発酵に必要な栄養分として黒糖を使いますがこの中にはミネラルやタンパク質、そして乳酸菌が増殖・発酵し生きていくための栄養分であるショ糖がたくさん含まれています。なお糠や胚芽にはデンプンを分解してデキストリンや麦芽糖・ブドウ糖に分解する酵素やタンパク質を分解してアミノ酸にする酵素、フィチン酸を分解してリン酸とイノシトールに分解する酵素も含まれています。また植物性乳酸菌は麦芽糖をブドウ糖に分解する酵素やショ糖をブドウ糖と果糖に分解する酵素をもっているのでこうしてできたブドウ糖や果糖をエネルギー源とすることができます(ブドウ糖や果糖を分解してエネルギーを作る過程で乳酸を産生し二酸化炭素を排出します――乳酸発酵・嫌気呼吸)。アミノ酸やミネラルやリン酸は乳酸菌の身体を作るために必須の栄養素でありブドウ糖(果糖)は乳酸菌が生育し増殖するためのエネルギー源になります。

というわけで初期の発酵が終わった後、さらに中期・後期の発酵を続けさせるために栄養分として黒糖を与えるわけですが、黒糖には上記の栄養分だけでなく乳酸菌や酵母などが住み着いているので追加の栄養分として黒糖を入れてしまうと加圧沸騰で生き残った乳酸菌だけでなく黒糖由来の乳酸菌や酵母が入りこんでしまいます。この実験の目的は120℃という苛酷な高温処理に耐えた乳酸菌を増殖させて加熱乳酸菌液を得ることができるかどうかを確かめることですから、追加の栄養分として黒糖を入れるわけにはいきません。そこで中に乳酸菌や酵母などが含まれていない白糖を使うというわけです。ただし、白糖にはタンパク質やミネラルはまったく含まれていないので乳酸菌が発酵するための栄養分としては不十分なところがあります。roujinさんが濃いとぎ汁を使ったのは十分な増殖・発酵に必要なタンパク質やミネラルが必要だったからです。roujinさんはさらに白糖の量も多めに入れる工夫もなさっています。このような工夫によって pH3.1 の煮沸とぎ汁乳酸菌液が得られたわけです。

2013年8月16日写真中:8月14日に加圧煮沸した主役のとぎ汁培養液。わずかに発泡しています(液面に小泡が見えます)。pH は4.5弱です。とぎ汁培養初期のほんわかしたあの匂いがします。生き残った乳酸菌による発酵が着実に進んでいるようです。アルファ化したでんぷんが底の方に厚く積もっているのが分かります。
写真左:8月12日に仕込んだ通常のとぎ汁培養液。2日後に黒糖を入れ4日後の今日 pH3.5 に到達しました。
写真右:8月15日に仕込んだ通常のとぎ汁培養液。気温が高いので乳酸菌の呼吸によって発生する二酸化炭素の泡が口の所に集まっています。培養初期の粘りけのある消えにくい泡です。仕込んでから1日目ですがすでに pH5.0弱になっています。黒糖はまだ投入していません。通常の培養液ではデンプンや米ぬか成分などが写真のように下に積もっています。乳酸菌の活動が活発なのですでに沈殿の上部にはデンプンかすが見られます。

2013年8月17日〕ゆるゆると発泡が続いています。蓋を開けると「プシュッ」と音がします。もはや発酵していることは明らかです。ほんわかした匂いは昨日よりも弱くなっています。これは乳酸菌が増殖していることを示しています。pH はグッと低下して 3.5強になりました。明日は仕込んでから4日目ですがきっと 3.5 になるでしょう。この時期ホットマット上に置いた白糖乳酸菌液は 3日で 3.5 に到達しますが 120℃で煮沸した白糖とぎ汁培養液がたった1日遅れで 3.5 に到達するとは思いもしませんでした。顕微鏡で見ると1日目には見られなかった連鎖状の乳酸菌がたくさんいます。数も明らかに増えています。2連鎖・4連鎖のものが多いですが中には8連鎖のものも見られます。ピコピコと動いている2連鎖のものもいました。さて、上の「pH3.5 に到達したとぎ汁培養液(あら塩・白糖添加)を圧力鍋で煮沸したもの」にはたくさんの酵母が見られたことを確認しましたが、なんとこの加圧煮沸したとぎ汁培養液の中にも酵母が生きています。その数はさほど多くはありませんが出芽状態の楕円形の酵母・短桿形の酵母が見られました。この後、その数も増えるでしょうし、他の中桿形や長桿形のものも見られるかも知れません。

2013年8月18日〕発泡が続いています。ほんわかとした匂いはほぼなくなり、pH が3.5に到達しました。

2013年8月19~20日〕発泡は続いていますが pH が 3.5強に戻ってしまいました。中で何が起きているのでしょう。通常のとぎ汁乳酸菌液でもこのように pH が戻ることはありますがそれはごくまれなことです。

2013年8月21日〕pH 3.5 を回復。顕微鏡で見ると通常の白糖乳酸菌液と同程度の乳酸菌がいます。酵母はやや少なめです。匂いは通常の白糖乳酸菌液よりも穏やかな感じがします。この実験によってとぎ汁を120℃煮沸しても高熱に強い乳酸菌がなおしぶとく生き残って増殖し、酵母もなんとか生き延びることが確認されました。私自身はこれほど早く pH3.5 に到達するとは予想していませんでした。

2013年8月22日 追記沸騰させたとぎ汁培養液の匂い
発生する二酸化炭素の量が増えてきたので培養液のボトルをよく振って攪拌したところ、炊きたてのご飯の匂い(アルファ化したデンプンの匂い)がしました。まだデンプンが分解されずに残っている証拠です。考えてみればとぎ汁に含まれていたアルファ化したデンプンを分解する酵素(グルコアミラーゼ)が煮沸することによって失活してしまったんですね。いざとなれば乳酸菌はこの分解酵素を作り出せるようなことも聞きましたが、白糖があるのでデンプンを使わずにこれを分解してエネルギー源にしているのでしょう。

この実験はとぎ汁の中にいる乳酸菌が煮沸に耐えるかどうかを確かめる実験なので仕方ありませんが、高温に耐えるとぎ汁乳酸菌を得るためなら実験1や実験3のように十分に発酵して乳酸菌や酵母が増殖した後の乳酸菌液を煮沸する方が効率的ですね。なお90℃程度の加熱なら酵素が失活せずに残る可能性はあります。

2013年8月22日〕この乳酸菌液を種にした豆乳ヨーグルトを作ってみました。煮沸とぎ汁乳酸菌液30ml・豆乳250ml。ヨーグルティアで湯煎。40℃・9時間で固まりました。ゆるめでなめらか、小さな気泡が少し見られます。冷蔵庫でしばらく冷やしてから食べてみましたがちょっとしょっぱい。味は悪くないのですが塩味に邪魔されてあまりおいしくありません。種にした煮沸乳酸菌液をなめてみるとわずかな酸味がありますがやや甘くてしょっぱいですね(pH は 3.5 です)。酵母が少ないので白糖とあら塩がまだ消費されずに残っているのでしょう。そういえば 90℃加熱実験をなさったroujinさんも塩は少なめでもよいとおっしゃっていましたね。とぎ汁を煮沸する場合は塩分少なめにするべきかもしれません。豆乳ヨーグルトの種にするなら、できあがって塩分や糖分が既に消費された乳酸菌液を煮沸したものを使う方がよいかもしれません。

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実験3:やや古くなった黒糖とぎ汁乳酸菌液を圧力鍋で煮沸する

2013年8月21日〕7月24日に仕込んで28日に pH3.5 になったとぎ汁乳酸菌液(2012年産玄米を精白した白米のとぎ汁にあら塩を入れ2日後に黒糖を追加投入したもの)。豆乳ヨーグルトの種として使ってきたものですが最近固まるまでに時間がかかるようになったので思い切って120℃煮沸してみました。煮沸する前の原液には非常にたくさんの乳酸菌とこれもまた非常にたくさんの酵母(種類もさまざま)が増殖していました。

これを圧力鍋に入れて高圧モードで2分間沸騰させました。冷めた後の煮沸乳酸菌液を顕微鏡で見ると乳酸菌の数はほとんど減っていないように見えました。高温煮沸にもかかわらず連鎖した乳酸菌が多数見られました。ピコピコと動く2連鎖のものもたくさんいました。ほとんどが球菌のようです。酵母はほとんどいなくなりましたがそれでも大型のものが少数生き残ったようです。上の実験1・2の結果から、死滅してしまった酵母の中にも胞子の形で生き延びたものがいると推測できるので数日中には酵母の数も増えているのではないかと思います。

この乳酸菌液の中には黒糖由来の乳酸菌や酵母が混じっていますが黒糖由来のものも含めてとぎ汁乳酸菌液の中の乳酸菌や酵母は120℃の煮沸に耐えて生き残ることがあらためて確認できました。黒糖乳酸菌液の中で初期に増殖した乳酸菌はとぎ汁の中にいた米乳酸菌ですが黒糖投入後に増殖した乳酸菌の中には黒糖由来のものがそれなりの割合で含まれていると思われます。また、もともと数が少ない酵母は黒糖投入後に増えるので黒糖由来のものがかなりの割合で含まれているように思います。白糖乳酸菌液に酵母が少ないのはそれが原因なのかも知れません。

いずれにせよ高温に耐えるたくましい植物性乳酸菌だけを含む乳酸菌液を得るのが目的ならできあがった黒糖とぎ汁乳酸菌液を加熱するのが一番効率がよいでしょう。酵素類の失活ということを考えるなら80℃程度の加熱にとどめておいた方がよいと思われます。ただし、高温加熱しなくてもとぎ汁乳酸菌液の中には高温に耐えるたくましい乳酸菌がもともとたくさん生きているので普通に使用するものならわざわざ加熱する必要性はまったくありません。高温に強い乳酸菌を使って豆乳ヨーグルトを作りたいとか酵母のいない雑味のない豆乳ヨーグルトを作りたいといった特別なことでもない限り今まで通り加熱しない乳酸菌液を使うことになんの問題もありません。また、加熱とは直接関係はありませんがアミノ酸やミネラル等の栄養分の質と量という点でも白糖で培養するよりも黒糖で培養する方が理にかなっているのではないかと私は考えています。

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実験4:黒糖とぎ汁乳酸菌液を圧力鍋で高圧蒸気滅菌処理する

〔注記〕写真をクリックすると別窓が開いて原寸表示のものが見られます。

2013年8月26日〕上の実験について『放知技』でギリスさんから次のようなコメントを頂きました。

230ギリス :2013/08/22 (Thu)

シカゴさんへ
大変楽しくブログを拝読させていただきました。面白かったです。
ジャムとか菜種油とか炊いたご飯でも豆乳ヨーグルトができるわけですから結果は見えていますが、どういう形で検証するかがキモで、そのためにどんな実験系を組むかが思案のしどころだったと推察します。あつくても頑張る菌クンたちを見習いたいです。
ちなみに、煮沸消毒は、100℃、15分以上。高圧蒸気滅菌は2気圧、121℃、20分です。(飽和水蒸気を使います)
シカゴさんが圧力鍋で20分煮沸していたら、菌クンたちは天使になってたものと・・・(笑)じゃあ、”炊いたご飯豆乳ヨーグルト”はどーなるんだ?

高圧蒸気滅菌」というのはどんなものなのだろうと気になってググってみると、「オートクレーブ」(autoclave)という蒸気滅菌装置を使って医療器具や実験器具や液体などを滅菌消毒することだったんですね。オートクレーブという言葉は耳にしたことがありますがそれがいったいどんなものなのかは知りませんでした。従来の煮沸消毒では SARS などのウィルスや芽胞を作って生き延びてしまう細菌などを殺すことができないのでさらに高熱で滅菌する必要があるということで作られたものだそうです。で、この装置を使って2気圧・121℃・20分の飽和水蒸気のもとで滅菌することを高圧蒸気滅菌とよぶようです。2気圧・121℃の飽和水蒸気というのは市販されている圧力鍋の内部とほぼ同じなので圧力鍋も簡易型のオートクレーブとして使われることがあるんですね。

さて高圧蒸気滅菌ということは「殺菌」ではなく「滅菌」、つまり「細菌を消滅」することですね。通常の医療器具や実験器具にはそんなにたくさんの菌が付着していることはないためオートクレーブで高圧蒸気滅菌すれば本当に細菌などは死滅してしまうために感染やコンタミネーションを防げるのでしょう。

しかしながら、細菌の密度が非常に高い場合にはこの高圧蒸気滅菌をしてもなおそれなりの数の個体が生き延びるのではないかと私は考えました。1か月程度経ったとぎ汁乳酸菌液の中にはものすごくたくさんの乳酸菌や酵母がいます。高圧蒸気滅菌をくぐり抜けて生き残る乳酸菌も顕微鏡で観察できるくらいはいるのではないか、と。

と、ここまで考えてふと私は思いました。この程度の推察はあのギリスさんなら当然なさっているはず。ということは私に実験で確かめてみるべしと暗にほのめかしていらっしゃるのではないだろうか。これはやってみるしかない、と腰の軽い私はすぐに乗ります。

実験3で使ったのよりもやや新しいとぎ汁乳酸菌液を使います(2013年7月29日のもの)。全部を圧力鍋に入れてしまうのはもったいないですし、液体を高圧蒸気滅菌する場合は容器に入った状態でオートクレーブ内のカゴにセットする(アルミ箔などで軽く蓋をする)ので私もこの方式に倣(なら)います。圧力鍋に水を入れ、乳酸菌液を入れて蓋をしたシャーレを圧力鍋付属の蒸し皿の上に載せます(写真)。
――シャーレ本体と蓋との間には隙間があります。水蒸気は気体なのでこの隙間を通って高温・高圧の水蒸気が出入りします。したがってシャーレ内部の乳酸菌液も高温・高圧にさらされます。

圧力鍋の蓋をきちんと閉めて圧力調整ダイヤルが高圧モード(左からⅡ:高圧、Ⅰ:低圧、一番右:開放)になっていることを確認してからガスレンジにかけます。強火で加熱し始めてからしばらくするとまずロックピン+調圧弁(穴の開いた赤いプラスチックよりもやや内側寄りにある小さな穴の中にあります)が上がり中から気体が出始めます(空気でしょうね)、その後圧力表示ボタン(中央より向こう側にある青くて丸いプラスチック)が2本目の白線まで上がると安全弁から出始めた水蒸気が空気に冷やされて湯気になって見えます(赤い頭部分が少し見えています)。圧力調整おもり(赤いプラスチック)の穴から水蒸気が出始めたところで強火から弱火に切り替えます。ここから高圧蒸気滅菌の開始です。写真は弱火に切り替えてから約10分後の様子(タイマーは22分にセット)。鍋の上の空気が高温になっているため湯気は見えませんが圧力おもりのところからは水蒸気が吹き出すシューシューという音が聞こえます。

22分後にタイマーが鳴ったので火を止めました。そのままガスレンジの上で温度と圧力が下がるのを待ちます。写真は圧力表示ボタンが下がり、ロックピン+調圧弁が下がって鍋の内圧が大気圧と同じになったので圧力調整おもりを取り外して圧力調整ダイヤルを開放にしたところです。圧力調整おもりが載っていたところに空気抜きの穴が開いたステンレスのパイプが見えます。これで鍋の中と外とが完全に同じ圧力になります。

圧力鍋の蓋を開けたところ。まだ高温なのでしばらくこのままで放置します。十分に冷めたところでシャーレの中の乳酸菌液を採って顕微鏡で見てみました。果たして乳酸菌は生き残っているでしょうか。半分期待しながら覗いてみると…。結果はコマーシャルの後で…。
――「コマーシャルの時間です。おっと、誰か来たようだ。うわなにをするやめqあwせdrftgy」…「失礼致しました。続きをどうぞ」

いや、驚きました。プレパラートのところどころに生き残った乳酸菌が見られるのではないかという淡い望みを抱いていたのですが期待以上の結果でした。実験3の2分間加圧煮沸に比べるとずっと数は少ないですがそれでも相当数の乳酸菌が生き残っています。単独のものばかりでなく連鎖状態のもの、ピコピコと動く2連鎖のものがかなりいます。培養初期の黒糖を入れる直前の状態よりもたくさんの乳酸菌が見られました。そして酵母は楕円形のものがわずかにいます。短桿形のものはそれよりも多く生き延びたようです。高圧蒸気滅菌する前は大きなコロニーがあちこちにありましたが今はコロニーは全滅です。乳酸菌に比べるとほとんどのものが死んでしまったようですがそれでもしぶとく生き残った酵母がいるんですね。

というわけで予想したよりも多くの乳酸菌が生き残ることが分かりました。完全にいなくなるだろうと思っていた酵母もわずかながら生き延びました。発酵菌はすごい生命力を持っているんですね。こんな面白い実験をする機会を与えて下さったギリスさんに感謝致します。なお、実験に使った乳酸菌液はシャーレごとポリ袋に入れてしばらく放置して様子を見ます。昇天した菌たちに合掌。

追記〕そういえば「とぎ汁は優良な培地である」と聞いたことを思い出しました。培地として用いるには滅菌をしなければいけませんが高圧蒸気滅菌するのでしょうね。とぎ汁そのものにはさほどたくさんの乳酸菌はいませんからそのまま高圧蒸気滅菌すると米乳酸菌はほとんど生き残らないのでしょう。実験2でとぎ汁を高圧蒸気滅菌していたら、ギリスさんがおっしゃるように「シカゴさんが圧力鍋で20分煮沸していたら、菌クンたちは天使になってた」んでしょう。――うーむ、「でしょう」ばかりの文章になってしまった。

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――乳酸菌を培養する――

   (1)〔基礎編〕  米乳酸菌を培養してみた(とぎ汁培養液)
   (2)〔応用編1〕米ぬか培養液・拡大培養
   (3)〔応用編2〕乳酸菌液で作る豆乳ヨーグルト
   (4)〔応用編3〕通販の米ぬかを使った米ぬか培養液
   (5)〔応用編4〕飯山氏、拡大培養の「秘法」を明かす
   (6)〔応用編5〕発泡乳酸菌液と乳酸菌風呂
   (7)〔応用編6〕乳清で作る豆乳ヨーグルト
   (8)〔応用編7〕乳酸菌風呂、その2
   (9)〔探究編1〕古米の玄米と米乳酸菌、玄米浸潤液
 (10)〔探究編2〕玄米浸潤培養液
 (11)〔探究編3〕黒糖と白糖、乳酸菌風呂3
 (12)〔探究編4〕米ぬかと糖だけを使った培養実験
 (13)〔展開編1〕玄米で作る豆乳ヨーグルト
 (14)〔展開編2〕とぎ汁で作る豆乳ヨーグルト
 (15)〔展開編3〕日本茶で作る豆乳ヨーグルト
 (16)〔展開編4〕豆乳だけでヨーグルトができた
 (17)〔展開編5〕植物系で作る豆乳ヨーグルト ―― 野菜・果実・穀物・蜂蜜・梅干…等で作るヨーグルトのまとめ
 (18)〔探究編5〕米乳酸菌は120℃に耐えるか
 (19)〔発展編1〕驚異の玄米浸漬培養液
 (20)〔探究編6〕炊いたご飯と乳酸菌
 (21)〔展開編6〕超大雑把な蓬乳酸菌の培養
 (22)〔発展編2〕玄米豆乳乳酸菌液で作る豆乳ヨーグルト
 (23)〔発展編3〕濃いとぎ汁と乳酸菌の増殖率
 (24)〔探究編7〕白米浸漬培養液も乳酸菌が多い
 (25)〔基礎編2〕七分づき米のとぎ汁培養液
 (26)〔発展編4〕米麹の力(米と麹だけで作れる濃密な乳酸菌液)
 (27)〔発展編5〕黒糖と米麹の併用/米麹と産膜性酢酸菌
 (28)〔展開編7〕手軽にできる蓬乳酸菌の培養
 (29)〔展開編8〕色がきれいな赤紫蘇乳酸菌液
 (30)〔展開編9〕ミカンの皮の乳酸菌液

 乳酸菌を培養する(1)~(30)をまとめて読む。

(関連記事)

(関連サイト)

米のとぎ汁には・・・ (エコは楽しい グレープおばさんです~ 13.08.22)

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