* 穀類や大豆を蒸したものにコウジカビを植えつけて繁殖させたものを「こうじ」とよびます。「こうじ」を漢字表記する場合、普通は「麹」を使いますが「米にコウジカビを植えつけたもの」であることを特に明示するために「糀」という国字(こくじ)が使われることもあります。日本で作られた国字については『和製漢字の辞典』というサイトが詳しいです。
ホットマットも顕微鏡もありませんでした。部屋の中では比較的気温の高い窓辺に置いて日に数回攪拌するだけのペットボトルの中で発酵はかなりゆるやかに進んでいたのではないかと思われます。それでも発泡量はかなり多めでした。しかしながら pH がなかなか下がりません(4.5~4.0のまま3.5に到らない状態が長く続きました)。当時は「酸っぱさ」つまり pH の値だけが乳酸菌の増殖状態を測(はか)る指標(しひょう)だと思っていましたから、結局「失敗」という結論を出してその実験は終わったのでした。
今あらためて思い返してみると、500mlのペットボトルの中に白米を50~60ml程度入れたはずですからそのボトルの中では間違いなく発酵は進んでいたと思われます。腐敗臭もありませんでした。単に pH が 3.5 まで下がらなかったというだけのことでしょう。顕微鏡で覗いてみればそれなりの数の乳酸菌と酵母が観察できたはずです。2、3日後に黒糖を入れない培養液では乳酸菌や酵母が大増殖しないというだけで、実際にはボトルの中ではゆっくりとした発酵が行なわれていたのだと思います。ただし、白米のデンプンを分解する麹菌の数が少なかったこと、培養液の中では偏性好気性生物である麹菌が十分にデンプンを分解することができなかったこと、それが原因でブドウ糖の量が足りなかったであろうこと、これらが私の目論見(もくろみ)が外れた理由だったのだろうと考えられます。
位相差顕微鏡を手に入れてとぎ汁で作った乳酸菌液を覗いてみるとたくさんの乳酸菌や酵母に混じってわずかながら麹菌もいることが分かりました。塩麹を作り、それを少量の水で薄めたものを顕微鏡(200倍)で見たときの驚きは今でも忘れられません。麹菌の菌糸が繊維状に隙間なく並んでいるのです。紙を破いてその端っこを20倍のルーペで観察したときと同じように見えました。紙はセルロースの繊維がびっしりと重なり合ってできていますがそれと同じように麹菌の菌糸が重なっていたのです。そしてわずかな隙間には菌糸に寄りそうように乳酸菌や酵母がいました。米麹の中にはたくさんの麹菌だけでなく乳酸菌や酵母も一緒に生きているということを知ったのはそのときです。余談ですがさらに後になってドライイーストを水で溶かしたものを観察したとき、その中には大量の円形酵母だけでなくそれなりの数の乳酸菌もいるということを知りました。
その後沈殿培養の実験を始める前にとぎ汁培養液の沈殿物を少し取って少量の水に浸(つ)けてからその水を顕微鏡で観察してみたところ、培養液の中に比べて少し多めの麹菌が見られました(乳酸菌や酵母もたくさんいます)。とぎ汁培養液の内部では麹菌の多くは液の中ではなく沈殿した栄養分の中にいるのだということが分かったわけです。
さて、玄米や白米をたくさん入れた浸漬培養液(しんせきばいようえき)や濃いとぎ汁あるいはとぎ汁に白米を加えた培養液など、デンプンの多い培養液では通常のとぎ汁培養液よりも乳酸菌の増殖が活発になるということが最近分かってきたわけですが、それらの中にはデンプン分解酵素も含まれており、この酵素の触媒作用(しょくばいさよう)によって生じたブドウ糖や麦芽糖が乳酸菌の栄養源になっているのだと推察されます。
このような培養液の場合、pH がまだ 3.5 に到達していない培養初期の段階でもすでにたくさんの乳酸菌が増殖しています。また、それとは逆に「〔探究編6〕炊いたご飯と乳酸菌 」の実験でも分かる通り、pH がたとえ 3.5 になっていたとしても中にいる乳酸菌の密度がさほど高くないものもあります。つまり、同じ条件で培養しているとぎ汁培養液どうしを比べるような場合には pH の変化で乳酸菌の増殖率つまり乳酸菌液の出来具合を判断するのは理にかなっていますが、違う条件の培養液どうしの場合は単に pH の値だけでそれらの乳酸菌液の完成度を比較するのは適切ではないということです。私の経験では落ち葉の乳酸菌液や竹粉の乳酸菌液では初期の乳酸菌が少なかったため、pH3.5 に到達した段階でも乳酸菌の数が十分には増えていませんでした。
――とはいえ、最初の乳酸菌密度が一定程度以上あり栄養分も十分に含まれている米ぬか培養や玄米浸潤培養などにおいて pH3.5 が乳酸菌液完成の目安になると考えるのは間違いではありません。落ち葉や竹粉の実験の場合は使った材料の中に十分な数の乳酸菌がいなかったこと、そして乳酸菌が増殖するための栄養分が不足していたこと、この二つが重なって乳酸菌密度が高くならなかったのだろうと推測できます。
ところで、米麹(こめこうじ)ですがこれとおかゆや炊いたご飯とを混ぜたものに水を加えて8~12時間程度加熱(55~60℃)し続けると甘酒ができます。この程度の時間で甘酒ができるということは麹菌がデンプンを分解したためではなく、米麹の中にすでにたくさん含まれているデンプン分解酵素の働きでご飯や米麹のデンプンが分解されるために多量のブドウ糖が作り出されたというのが本当のところでしょう。したがって、デンプンをたくさん含む培養液の中に米麹を入れてやればデンプンから作られるブドウ糖の量が増えて乳酸菌の増殖率が増すだろうと推察できます。
――その後分かったことですが 55~60℃の長時間過熱によって麹菌や酵母は死滅しますし、この程度の温度でも長い時間過熱すると乳酸菌もそのほとんどが死んでしまうようです。なお、米麹の中にはデンプン分解酵素だけでなくタンパク質分解酵素や脂質(脂肪)分解酵素も含まれています。
〔注記〕米麹は蒸した白米にニホンコウジカビ(黄麹菌)を植えつけたものです。市販されているのは生麹と乾燥麹で、乾燥麹には板状のものとそれをほぐしたバラ麹とがあります。今回実験に使ったのはスーパーで購入した「米こうじ」(ますやみそ製)という乾燥麹(バラ麹)です。
なお、以下の実験で使った玄米は2013年産の玄米です。白米はこの玄米を自家精米器で精米して得たものを使いました。これらの実験は2014年3月末~4月上旬にかけて行なったものです。また、pHの測定には「0.5~5.5 の範囲を 0.5刻みで測れるタイプの試験紙」を使用しました。
〔注記〕顕微鏡での観察結果について
培養液や乳酸菌液の中では乳酸菌はほぼ均等に散らばって分布していますが酵母は増殖が活発になると一定程度の数が集まった集団を形成して分布するようになります(以後この集団を「コロニー」と表記)。コロニーには小さなものから広範囲に広がった大きなものまでいろいろありますが、それらのコロニー自体がある範囲に集まってコロニー集団を作ります。つまり酵母のコロニーは培養液や乳酸菌液の中では必ずしも一様に分布しているわけではありません。
顕微鏡で観察する際には液の一部をスポイトで取ってさらにその一滴をスライドグラスの上にたらした後カバーグラスをかけてプレパラートを作ります。場合によっては不規則に分布する酵母の集団がその中にほとんど含まれないといったことも起こりえます。したがって乳酸菌の分布についての記述はほぼ正確だと思いますが酵母や麹菌の数についてはそのような制約のためにやや不正確になることをご了解下さい。
〔注記〕記事中では写真はすべて縮小表示していますが写真をクリックすると別窓が開いて原寸で表示されます。
この記事の目次
▲白米と米麹を使った予備的な実験
▲実験1:白米+米麹 ▲実験2:米麹のみの実験
▲実験3:白米のみの実験 ▲実験4:白米と米麹の量を半分にしてみる
▲浸漬米と米麹を使った実験
▲実験5:白米+米麹 ▲実験6:玄米+米麹
▲とぎ汁と米麹を使った実験
▲実験7:白米とぎ汁+米麹
▲まとめ
▲米麹の量について ▲米麹乳酸菌液の特性
▲米麹培養液と産膜性酢酸菌 ▲米麹の利用
▲pH試験紙/乳酸菌液の利用・活用・効能等について
白米と米麹を使った予備的な実験
実験1:白米+米麹
白米浸漬培養では2リットルの培養液に対して1合(180ml)の白米を使います。実験では500mlのペットボトルを使うので浸漬培養なら4分の1の45mlですが、とりあえず6分の1の 30ml(大さじすりきり2杯)でやってみます。米麹の分量については見当もつかないので白米と同じ 30ml にしました。
初日:白米大さじすりきり2杯(30ml)・ 米麹大さじすりきり2杯(30ml)・あら塩小さじ1/2杯(約2g)を500mlのペットボトルに入れ、それに水500ml弱を加えて攪拌してからホットマットの上に置き、さらにカバーをかけます。――水はボトルいっぱいに入れずに上部にある程度空間ができるくらいにしておきます。
1日後:カバーをはずしてボトルをつかんでみるとかなり固くなっています(私はコーラの空きボトルを使っています、コーラのボトルは強靱なのでふくれ上がることはありませんが気体が多量に発生しているときは固さで分かります)。二酸化炭素の発生のため米麹がたくさん浮いてきています。発泡量が多いようなので、噴出を避けるため蓋を慎重にゆるめて気体を外に逃がしてすぐに蓋を閉めます。これを何回か繰り返しました。pH は 4.0強。顕微鏡で見るとものすごい数の乳酸菌がいます。玄米浸漬培養の2日目と同じくらいに増えています。楕円形の酵母もかなりたくさんいます(出芽状態のものも散見)。わずかですが短桿形の酵母も見られました。乳酸菌と酵母の数は予想以上です。
2日後:激しい発泡が続いているため蓋を慎重にゆるめて中の気体を逃がします。麹はまだたくさん浮いています。pHが 3.5 になりました。乳酸菌はさらに増え、楕円酵母に加えて短桿形の酵母の姿が見られます。
4日後:浮遊していた米麹が沈みました。乳酸菌の大増殖は終わったようですが酵母はまだ少しずつ増え続けています。短桿形の酵母がコロニーを作り始めました。
5日後:発泡が落ち着いてきたのでホットマットの上から床の上に移動。
6~7日後:乳酸菌液として使える状態になりました。完成。

できあがった乳酸菌液を使って豆乳ヨーグルトを作りました。乳酸菌液:豆乳=25ml:250ml。36℃・8時間で固まりました(ヨーグルティア使用)。きれいでなめらかなできばえ。かなりゆるめです(乳酸菌の数が多いとゆるめのヨーグルトになります)。しばらく冷蔵庫に入れてから食べてみると酸っぱ目で少しピリッとした舌触りがあります。おいしい。翌日食べたところ酸味がわずかに増しています。乳清は少なめ、なめらかさはそのままです。
実験2:米麹のみの実験
米麹には麹菌だけでなく乳酸菌や酵母も含まれているので米麹だけならどうなるかを試してみました。
初日:米麹大さじすりきり2杯(30ml)・あら塩小さじ1/2杯(約2g)を500mlのペットボトルに入れ、それに水500ml弱を加えたものをホットマットの上に寝かせてカバーをかけました。
1日後:非常に激しい発泡をしています。中の培養液を噴出させずに発生した二酸化炭素を逃がすのにはかなり慎重な扱いが必要です。何度もガス抜きをしてから pH を測ると 4.0弱程度になっています。乳酸菌はかなり多いですが、目立つのは楕円形の酵母の多さです。白米がない分乳酸菌が少ないため米麹に住んでいた酵母が早めに増殖したようです。発生した多量の二酸化炭素の大半は酵母が作り出したものだと判断できます。
2~3日後:2日後も続いた大発泡は3日後にはおさまりましたが発泡自体はまだ続いており、乳酸菌も酵母も増え続けています。
4日後:pH が 3.5 になりました。発泡は緩やかながらまだ続いています。乳酸菌密度はかなりのものですが楕円形酵母の方もまだ増え続けています。
6日後:浮いていた米麹も数粒になりました。ゆるやかに発泡。酵母がさらに増えて小さな集団ができはじめています。
7日後:発泡は続いていますが乳酸菌の増殖は一段落のようです。酵母が小・中のコロニーを形成しています。短桿形の酵母と楕円形の酵母が一つのコロニーの中に混在しています。プレパラートのなかに散在する楕円形酵母もたくさんいます。出芽状態のものも散見されます。まだ酵母の増殖は続きそうです。
この発酵液は乳酸菌液というよりもむしろ酵母液と呼ぶ方がよいかも知れません。
実験3:白米のみの実験
白米だけでどれくらいの乳酸菌や酵母が増えるのかを確認するための実験です。
初日:白米大さじすりきり2杯(30ml)とあら塩小さじ1/2杯(約2g)とを500mlのペットボトルに入れ、水500ml弱を加えてからホットマットの上に置きカバーをかけました。
1日後:わずかに発泡しています。pH は 5.0。乳酸菌は観察できる程度にはいますがとぎ汁培養液の初期に比べるとその数は少なめです。酵母の姿は見られません。
2日後:発泡はゆるやかに続いています。pH は 5.0 のまま。乳酸菌は少し増えました。非常にわずかですが楕円形の酵母が確認できました。
3日後:発泡が続いています。pH がやや下がって 5.0弱になりました。わずかな米ぬか成分が浮いてきています。乳酸菌の数はあまり変わりません。楕円形の酵母が散在しています。短桿形の酵母が小さなコロニーを作り始めました。
4日後:pH は 4.5弱。発泡はまだ続いています。乳酸菌が少し増え、楕円形の酵母が目立つようになりました。短桿形酵母の分布は前日とあまり変わりがありません。
5日後:pH が 5.0弱に戻ってしまいました。発泡は依然続いています。乳酸菌はさらに増え、酵母も増えています。楕円形の酵母が作る小コロニーが見られるようになりました。
pH が高止まりしている割には乳酸菌の数が多いようです。デンプンはまだたっぷり残っているのでこのままゆっくりと発酵が進んでいくと思われます。いずれにせよ乳酸菌と酵母がこれだけいれば腐敗することはないでしょう。
実験4:白米と米麹の量を半分にしてみる
白米と米麹の量を実験1の半分にして様子を見ます。
初日:白米大さじすりきり1杯(15ml)・ 米麹大さじすりきり1杯(15ml)・あら塩小さじ1/2杯(約2g)を500mlのペットボトルに入れ、それに水500ml弱を加えて攪拌してからホットマットの上に置きカバーをかけます。
1日後:カバーを取ってボトルを掴んでみるとやはり固くなっています。二酸化炭素の発生のため米麹がたくさん浮いてきています。発泡量が多いようなので、蓋を慎重にゆるめて気体を逃がしてすぐに蓋を閉める作業を数回。pH は 4.5弱。顕微鏡で見ると実験1ほどではありませんがそれでもかなりの乳酸菌数です。楕円形の酵母もかなりたくさんいます。出芽状態のものもけっこう見られます。
2日後:浮いている麹は減りましたがまだ発泡は続いています。pH3.5強。乳酸菌はさらに増え、楕円酵母に加えて短桿形の酵母の姿が見られます。
4日後:pH3.5 に到達。乳酸菌の増殖は一段落したようです。酵母の小さなコロニーが観察できます。
6日後:発泡が落ち着いて米麹がすべて沈んだのでホットマット上から床の上に移動。
8日後:ほぼ完成。楕円形の酵母がかなり増え小さな集団もあちこちに見られます。実験1に比べて桿形の酵母が少ないのは、白米が少ないため米に含まれていた初期の酵母数が少なかったせいかもしれません。楕円形酵母はほぼ米麹由来のものだと思われます。
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浸漬米と米麹を使った実験
実験5:白米+米麹(白米米麹培養液)
実験1の[白米30ml+米麹30ml]の経過を見て、水を4倍・白米3倍・米麹2倍にして試してみました。水の量を4倍にしたので、実験1に比べると実質的には白米を 3/4、米麹を 1/2 に減らしたことになります。

初日:白米半合(90ml)・ 米麹1/3合(60ml)・あら塩小さじすりきり2杯(約8g)を2リットルのペットボトルに入れ、それに水2リットルを加えました(写真左。白米から出たデンプンで白く濁っています)。きちんと蓋を閉めてからホットマットの上に寝かせてカバーをかけました。
1日後:かなり発泡しています。米麹の一部が浮いています(写真右。液の色が黄色みがかっているのは米麹から出た色素のためだと思われます)。pH は 4.5弱。

2日後:ボトルがパンパンにふくれ上がっています。底の部分もふくれています(写真左)。かなりの発泡量なので慎重に蓋をゆるめて気体を逃がし、すぐに蓋を閉めます。数回繰り返して落ち着いたところで pH を測ると 3.5 になっていました。半分くらいの米麹が浮き上がってきています(写真右)。白米と米麹の割合を減らしてもなお2日で 3.5 に到達です。乳酸菌の密度も相当なものですし、楕円形の酵母もけっこういます。出芽状態のものも散見されます。
3日後:発泡が少し落ち着いたのでホットマット上から床に移しました。乳酸菌がさらに増え、楕円の酵母も増えました。短桿形酵母の小コロニーもちらほらと見えます。このあたりは実験1とあまり変わりがありません。
4日後:早めに床に置いたのが原因かもしれませんが pH が4.0弱に上がりました。乳酸菌はほとんど変化なし。短桿形酵母の小コロニーが増えています。
6日後:pH が3.5 に回復。乳酸菌密度はあまり変わっていません。楕円形酵母の数がこころもち減ったように思います。短桿形酵母は増えています。
7日後:この乳酸菌液を種にして豆乳ヨーグルトを作ってみました。乳酸菌液25ml、豆乳250ml。ヨーグルティア使用(36℃・8時間)できれいでなめらか、やや柔らか目のものができました。酸っぱ目、ちょっとピリッと刺激がありますがおいしい。乳酸菌が多いのでしょうね。このヨーグルトは1日おいても乳清があまり出ません。柔らか目でなめらか。そしてさらに酸っぱくなりました。こんなに酸っぱい豆乳ヨーグルトは初めてです。
その後:もう一度同じようにして豆乳ヨーグルトを作ってみましたがやはり酸っぱ目でおいしいものができました。2日後のものにも乳清があまりありません。さらに酸っぱさが増しました。この乳酸菌液の乳酸菌はとても元気がよいようです。
実験6:玄米+米麹(玄米米麹培養液)
培養手順は玄米浸漬培養(〔発展編1〕驚異の玄米浸漬培養液)とほとんど同じです。最初に米麹を入れること、2、3日後の黒糖投入は行なわないこと、この二点が違います。

初日:玄米1合(180ml)・ 米麹大さじすりきり2杯(30ml)・あら塩小さじすりきり2杯(約8g)を2リットルのペットボトルに入れ、それに水2リットルを加えました(写真左。白米と違って玄米からはまだデンプンが溶け出していないため液は透明です)。よく混ぜてからホットマットの上に置いてカバーをかけました。
1日後:気体の発生量が多いためペットボトルが丸くふくらんでいます。米麹も浮いてきています。蓋を慎重に開けて二酸化炭素を逃がしてすぐに蓋を閉めます。液が噴出してこないことを確認してから pH を測ると 4.0弱でした(写真右。ガス抜き後)。やはり乳酸菌の増え方が違います。顕微鏡で見ると通常のとぎ汁乳酸菌液と同等の密度です。たった1日で乳酸菌がこれだけ増えた培養液はこれが初めてです。楕円形の酵母も目立ちます。
2日後:ペットボトルがダルマ状にパンパンにふくれあがっています。底もふくれ上がっています(実験5ほどではありませんが相当ふくれています。写真を撮るのを忘れました)。慎重にガス抜きを何回も繰り返してやっと落ち着きました。pH は 3.5。乳酸菌密度が黒糖を使ったふつうの玄米乳酸菌液と同じくらいになっています。酵母も少し増えたようです。
3日後:乳酸菌の増殖が落ち着いて短桿形の酵母がずいぶん増えました。短桿形酵母の大きなコロニーが散見されます。
5日後:乳酸菌がさらに増えています。酵母も短桿形がさらに増え、楕円形酵母もそれなりの数が見られます。ここでホットマットから床にボトルを移します。
6日後:浮いていた米麹がすべて下に沈みました。発泡もおさまったようです。これで乳酸菌液としてほぼ完成でしょう。
7日後:この乳酸菌液を種にして豆乳ヨーグルトを作りました。乳酸菌液と豆乳との比率は 25ml:250ml。ヨーグルティア使用、36℃・8時間で固まりました。実験5の乳酸菌液で作ったものと同じようにきれいでなめらかです。やはり酸っぱ目でピリッとした舌触りがありますが、実験5のものよりはややおとなしい感じです。1日後のものには乳清が少し見られました。食べてみるととてもなめらかです。食感としては茶碗蒸しのような感じでしょうか。これはなかなかおもしろいヨーグルトです。
追記:写真右は実験5のボトル(13日後)で、左は実験6のボトル(9日後)です。ヨーグルトを作るために使ったので少し減っています。米麹を使った乳酸菌液はやや黄色みを帯びていますが日にちが経つとその色がだんだん薄くなります。実験5の乳酸菌液は2週間近く経っていますが最初に入れた米麹の量が多かったため実験6のものよりもまだ黄色みが強い状態です。

〔2014年4月18日 追記〕12日後のこの乳酸菌液で作った豆乳ヨーグルトですが、冷蔵庫に入れたまま食べるのを忘れて翌日取り出しました。乳清はほとんど出ていません。スプーンを入れてみるとなぜか固い感じがします。しかしただ固いというわけではなくなんとなく粘りけがあるような感じです(写真左)。食べてみると酸っぱくておいしいですがちょっと舌触りが違います。容器に残ったものをスプーンに取ってたらしてみるとやはり粘りがあります(写真右)。味自体は7日後のものと変わったようには思えませんがなんだか不思議です。
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とぎ汁と米麹を使った実験
実験7:白米とぎ汁+米麹(とぎ汁米麹培養液)
いつもの白米とぎ汁を使います。上の玄米浸漬培養液の実験を見ると、2リットルの培養液に対して大さじすりきり2杯(30ml)の米麹(1リットルあたり15ml)は多すぎたようなので、培養液1リットルあたり米麹小さじすりきり2杯(10ml:約8g)の割合で実験してみました(私は白米1合分のとぎ汁500mlの培養液を使うので使う米麹は小さじすりきり1杯(5ml:約4g)ということになります。実験4の白米15ml・米麹15mlの実験経過から見ても、白米15mlに比べて1合分のとぎ汁の方が初期の乳酸菌数やデンプン分解酵素の含有量が多いはずなので、米麹5mlというのは適切な量ではないかと思われます)。実験結果を見ると乳酸菌密度の高いとぎ汁乳酸菌液が得られたのでこの位の割合でちょうどよかったようです。
初日:白米1合分のとぎ汁500mlにあら塩小さじ1/2杯(約2g)と米麹小さじすりきり1杯(5ml)とを入れてホットマット上に寝かせてカバーをかけます。
1日後:発泡して米麹の一部が浮いてきています。消えにくい泡がボトル上部にできています。pH は 4.0。通常は 5.0~4.5強です。米麹に含まれている乳酸菌が加わっていること、さらにデンプン分解酵素が多いことからこれは予想通りです。
2日後:発泡が続いています。半分以上の米麹が浮いています。pH は 3.5 になりました。白糖を初日に入れた培養液よりも1日早いですがこれも上記のことから当然のことかもしれません。乳酸菌の密度はかなりのものです。楕円形の出芽酵母の姿も見えますがその数はわずかです。
3日後:まだ発泡は続いており米麹も浮いています。乳酸菌がさらに増えましたが酵母の数はあまり変わっていません。
5日後:発泡が少しおさまり、米麹が沈んだのでホットマット上から床に移動。
6日後:酵母が少し増えました。乳酸菌液として使える状態になりました。
7日後:この乳酸菌液を種にして豆乳ヨーグルトを作ってみました。乳酸菌液と豆乳との比率は 25ml:250ml。36℃・8時間(ヨーグルティア)で固まりました。実験5,6の乳酸菌液で作ったものと同じようにきれいでなめらか、柔らか目のものができました。酸っぱさはほとんどなく二酸化炭素のピリピリ感もわずかです。実験6のものほどのきめこまかな舌触りはありませんがちょっと上品でおとなしいおいしさです。
米麹の量
〔2014年7月17日 追記〕最近は乾燥米麹の量をやや多めにしています。培養液1リットルあたり米麹小さじ1杯強×2(12~13ml:約10g)くらいの割合です(約1%)。
まとめ
米麹の量について
培養液1リットルあたり、玄米半合(90ml)、米麹大さじすりきり1杯(15ml)くらいがちょうどよい感じです。あら塩は少なめで1リットル当たり小さじすりきり1杯(約4g)でも大丈夫でしょう。酸っぱい豆乳ヨーグルトを作りたいなら実験5の乳酸菌液もおもしろいかもしれません。
とぎ汁乳酸菌液の場合はとぎ汁1リットル当たり米麹小さじすりきり2杯(10ml)でも通常のものよりは乳酸菌密度の高いものができます。1リットル当たり大さじすりきり1杯(15ml)だとどんな感じの乳酸菌液になるでしょうか。
――上で追記したように最近は1リットルあたり米麹小さじ1杯強×2(約1%)にしています。
米麹乳酸菌液の特性
米麹乳酸菌液は黒糖を使った乳酸菌液と飲み比べてみるとあまりおいしくありません。白糖乳酸菌液のストレートさもなくなんとなくおとなしい味です。黒糖乳酸菌液と混ぜて飲むとよいかも知れません。
逆にいえば黒糖のものよりは癖がないとも言えるわけで、野菜の浅漬けや肌に塗ったりする用途には適していると思われます。また米麹乳酸菌液で作る豆乳ヨーグルトはゆるめになりますが、これは乳酸菌が多いためですし、舌触りもなめらかでおいしいという特徴があります。
米麹培養液と産膜性酢酸菌
〔2014年7月17日 追記〕「〔発展編5〕黒糖と米麹の併用/米麹と産膜性酢酸菌」の「米麹と産膜性酢酸菌」の項に書きましたが、米麹を使った乳酸菌液は使用してボトル上部に空気が入るようになると液面に白い膜が張ります。この膜は産膜酵母が作る膜とは違っていてシンナー臭もなく苦みもありません。この膜は産膜性酢酸菌が作り出す酢酸菌膜という細いセルロース(食物繊維)の集合体であり、無味無臭です。
米麹の利用
通常のとぎ汁培養などで最初にごくわずかな米麹を入れると初期の乳酸菌の増殖率が高まるのではないかと思います。黒糖はやや少なめにして2、3日後に入れます。どんな乳酸菌液ができるかいずれ試してみるつもりです。
〔2014年7月17日 追記〕最初に少量の米麹を入れ、2日後に黒糖を入れるとぎ汁培養の実験を繰り返した結果乳酸菌密度の高い乳酸菌液ができることが分かりました「〔発展編5〕黒糖と米麹の併用/米麹と産膜性酢酸菌」。
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〔メモ〕(1)ヨーグルティアについて
ヨーグルティアはいろいろあるヨーグルトメーカーの中でも使い勝手のよいすぐれものだと私は思います。容器の内容積が 1200cc あるので 1000ml の豆乳 1パック分と種菌液とを入れてもまだ余裕があります。電子レンジでの殺菌処理もできますし、内容器が2個付いているのも便利です。25~65℃(1℃きざみ)の範囲で温度が設定できるためヨーグルトだけでなく甘酒作りやその他いろいろな用途に使えます。タイマー設定時間が 1~48時間と広いのも魅力です。大学の研究室で簡易恒温槽として使うところもあるというのも頷ける話です。
9180円(税込み)とちょっと高いのが難点ですが楽天などで探すと税込み・送料別で 5800~6300円くらいで買えます(送料込だと 6400円くらいから)。なおふつうの「ヨーグルティア」と「ヨーグルティア スタートセット」はまったく同じものです。色は白・青・ピンクの三色から選べます。
(2)ふくれん 成分無調整豆乳
私は豆乳ヨーグルト作りに癖のないふくれんの「成分無調整豆乳」を使っています。原料は九州産の「ふくゆたか」という大豆です。通販で購入すると少々高いですが、スーパーなどで購入すればそれほどでもありません。東京・神奈川・埼玉・千葉なら『オーケーストア』がお薦め。1000mlのパック1本が200円以下(税込み)で買えます。とはいえ私が住む近くには『オーケーストア』はありませんので、通販の中では比較的安価な Amazonの『オーナインショップ』で2箱(1リットル×6本×2箱で2,660円)まとめて購入しています。関東は送料無料なので1本あたり222円(2014年4月現在)ということになります。
securitytokyoさんの関連ツイート 2012年01月27日(金)
pH試験紙/乳酸菌液の利用・活用・効能等について
〔注記〕pH試験紙については「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「pH試験紙・培養液の色(10円硬貨の利用)」をご覧下さい。pH試験紙が手元にない場合の簡易判定に10円硬貨を利用する方法についても記してあります。
〔注記〕乳酸菌の培養に用いて使い終わった使ったペットボトルの汚れは水で洗うだけで十分ですがボトル内部の肩口の辺りに付着している浮遊物や産膜などはブラシで落とせます。なお、「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「培養液の濾過・沈殿培養液・ボトル等の洗浄」でご紹介している「フルフルボトル洗い」を使うと手間がかからず簡単にペットボトルの洗浄ができます。
〔注記〕 米のとぎ汁や米ぬか水等を利用した米乳酸菌の培養に関する基本的な事項や知っておくべき大切な情報は <乳酸菌を培養する(1)――〔基礎編〕> に載せてあります。まだお読みでない場合は一通り目を通しておかれることをお勧めします。また、その記事には 乳酸菌液の利用・活用・効能 や 関連記事へのリンク集 も載せてあります。
なお、日々の実践を通して新たに分かったことや新しい知見、あるいは誤っていた記述など、<乳酸菌を培養する(1)>の内容は頻繁に更新・追加されていますのでときどき目を通して頂ければ幸いです。
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