とはいえ昨年試みた「超大雑把な蓬乳酸菌の培養」にしても最初に蓬漬物をつくる手順が必要な点は普通の蓬乳酸菌培養と変わりはありません。摘んできた蓬の新芽を前にして「とぎ汁培養や玄米浸漬培養のように蓬乳酸菌も簡単に培養できるといいのに…」などと考えていました。
そのときふとひらめいたことがあります。8月の始めに柴漬け作りに初挑戦したときのことでした。参考にしたサイトの作り方ではキュウリ・ナス・ミョウガ・生姜を赤紫蘇と一緒に塩漬けするのですが、1日後に上がって来た漬け汁を捨てた後、代わりに同量の塩水を加えるという手順があります。何にも分からないのでその手順に従うことにしましたがせっかく出てきた漬け汁を捨ててしまうのがもったいなくてちょっと顕微鏡で見てみると思っていた以上にたくさんの乳酸菌がいました。この乳酸菌を培養できないだろうかと考えたときに頭に浮かんだのがここ1年あまりの間の経験です。
一般的に米乳酸菌の培養では乳酸菌や酵母の炭素源・エネルギー源として糖(黒糖や白糖など)が使われますが米ぬか培養や玄米浸漬培養では糖に加えてデンプン源としての米粉や小麦粉・片栗粉・米粒などが重要な働きをします。また濃いとぎ汁を用いた培養や白米浸漬培養でもやはりデンプンが重要な役割を果たしています。これらの一連の実践によって培養初期におけるデンプンの存在が乳酸菌の増殖を促すことが分かってきたわけです。
そこで柴漬けの漬け汁にあら塩と白糖だけでなく片栗粉を加えてさらに水を加えた培養液を試してみたところとぎ汁培養と同じような経過をたどってほぼ一週間で乳酸菌液ができました。乳酸菌や酵母の数もとぎ汁乳酸菌液と遜色ありませんでした。当初やや黒みがかっていた培養液は pH の低下と共に赤みが増して最終的には淡いピンクをしたきれいな乳酸菌液になりました。
そんな経緯があったため、片栗粉や米粉などを最初に入れてやれば蓬葉を直接ペットボトルに入れて手軽に蓬乳酸菌の培養ができるのではないかと思いついたというわけです。実際に試してみたところ乳酸菌密度も問題なく満足できるレベルのものになりました。培養の経過もとぎ汁培養などとほとんど同じでした。
〔注記〕記事中では写真はすべて縮小表示していますが写真をクリックすると別窓が開いて原寸で表示されます。
この記事の目次
ペットボトルで手軽に蓬乳酸菌を培養する
昨年と同じように蓬漬物を作ってから培養液をつくるつもりで蓬を摘んできたためペットボトルに直接入れて培養するには蓬の量がちょっと多すぎるようです。重さを量ってみると約230g あります。4リットルのペットボトルを使ったとしてもやはり多すぎます。そこで蓬を半分ずつ2つに分けて白糖乳酸菌液と黒糖乳酸菌液を別々に作ることにしました。4リットルのボトルを2本使って合計8リットルの培養液を作ります。
蓬漬物には多量の黒糖(糖蜜)と塩が必要ですがペットボトルで直接培養する場合はとぎ汁培養などと同じ分量の糖やあら塩で十分です。そういう意味でも手軽な培養法だと思います。
白糖培養液と黒糖培養液
初日:蓬を半分の 116g ずつ計り取ってそれぞれを4リットルのボトル2本に分けて入れます。どちらにもあら塩を 40g (1%) ずつ入れます。
デンプン源としては片栗粉・米粉・小麦粉など何でもいいのですが、白糖培養液の方は純粋に蓬乳酸菌だけを培養するために片栗粉を小さじ4杯(約15g)入れます(白糖・片栗粉には乳酸菌や酵母がいません)。黒糖にはもともとさとうきび由来の乳酸菌や酵母が住んでいるためいろいろな種類の乳酸菌や酵母が入っていた方が面白そうなので黒糖培養液の方には米粉と小麦粉とをそれぞれ小さじ2杯(約7.5g)ずつ入れました(米粉や小麦粉の中には米や小麦由来の乳酸菌や酵母がいます)。
白糖培養液には最初から白糖を 120g (3%) 入れます。黒糖培養液には初期の乳酸菌を増やすために白糖を 40g (1%) 入れました。こちらには2日後に黒糖を追加投入します。
培養液のボトルは窓際に敷いたアルミシートの上に立てて置きます。晴れた日の日中は結構液温が上がります。様子を見ながらときどきボトルを振って攪拌します(1日に1~2回で十分です)。
2日後:どちらの培養液も pH5.0弱 になりました。ここで黒糖培養液に 黒糖を 80g (2%) 入れました。これでどちらの培養液にも糖が120g (3%) 入ったことになります。写真は黒糖を投入した直後のものです。どちらもやや発泡が見られました。
3日後:白糖培養液・黒糖培養液の pHがどちらも4.0弱になりました。発泡はまだゆるやかです。
4日後:白糖培養液・黒糖培養液それぞれの pHが3.5強・3.5になりました。黒糖培養液の方が乳酸菌の密度が高いのかも知れません。どちらも発泡量が多くなりましたが黒糖培養液の方がより活発です。酵母の増殖も始まったようです。
5日後:白糖培養液の方も pH3.5 になり、発泡量も増えました。黒糖培養液の発泡はさらに激しくなりました。酵母が大増殖を始めたものと思われます。
6日後:白糖培養液の方も発泡が激しくなりました。黒糖培養液の激しい発泡はまだ続いています。この大量の発泡はまだしばらく続きそうです。蓬葉の間に気泡がたまるため何度もガス抜きをしなければなりません。この作業はちょっと面倒です。
顕微鏡で見るとどちらも乳酸菌の密度は相当なものです。酵母については白糖培養液の方はほとんどが楕円形です。円形のものもそれなりに見られますが棹形のものはほとんどいません。これに対して黒糖培養液の方には円形と楕円形の酵母が同じくらいいます。予想に反して棹形の酵母が少ないようです。もっとも酵母の分布は偏っているためたまたまプレパラートの中に見られなかったということも考えられます。

8日後:乳酸菌液として使える状態ですが相変わらず発泡が続いています(左側の写真)。
9日後:発泡は続いていますが別のボトルに乳酸菌液だけを取り分けることにしました。ザルで濾し取ったあと茶漉しを使って小さめの蓬葉のかけらを取り除いた上でそれぞれを2リットルのペットボトル2本ずつに分けて入れました。4リットルのボトルの口のところに詰まった蓬葉はピンセットと指を使って取り出し、それを絞った汁も加えたため白糖培養液・黒糖培養液のどちらからも約4リットルの乳酸菌液が得られました(右側の写真)。匂いはまったく違いますが見た目はとぎ汁乳酸菌液や玄米乳酸菌液とほとんど変わりがありません。デンプンやデンプンかすが浮遊しているためやや濁っていますが発泡が落ち着けば徐々に透明に近くなります。
10日後:白糖乳酸菌液・黒糖乳酸菌液のどちらも pH3.5弱 になりました。顕微鏡で見るとどちらもさらに乳酸菌が増えています。黒糖乳酸菌液の方が乳酸菌密度が高いのは米粉と小麦粉、それに黒糖に由来する乳酸菌がいたからだと思われます。同様に酵母も黒糖乳酸菌液の方が多めです。
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〔まとめ〕ペットボトルを使った蓬乳酸菌液の作り方
2リットルのペットボトルを使う場合について簡単にまとめます。
必要な材料
蓬:50g程度
あら塩:20g (1%)
糖(白糖・黒糖など):60g (3%)
デンプン(米粉・小麦粉・片栗粉など):小さじ2杯(約7.5g)
水:2リットル弱
作り方
1)ペットボトルに蓬・あら塩・デンプンを入れます。白糖を使う場合は最初から一緒に入れます。黒糖を使う場合は2日後に入れます。
2)水を入れます。培養終期に激しく発泡するためガス抜きのことを考えて上部に空間ができる程度の水量にします。黒糖を使う場合は2日後に黒糖を入れた後のことも考慮して空間が少し多めになるように水を加減します。
蓋をきっちりと閉めてできるだけ暖かい場所に置きます。
4~5日で pH が 3.5 になり、その後発泡が激しくなります。ときどき蓋を開けてガス抜きをしますが気をつけないと培養液が噴出してしまうので蓋を開ける際には慎重に。
発泡が続いていても7~10日後には使える状態になるのでザルや茶漉しを使って液だけを濾し取ります。濾し取った蓬乳酸菌液はきれいなペットボトルに保管します。そのまま1か月以上はもちます。使いきれないときは2か月に1回程度の割合であら塩・糖・デンプンを入れます。入れる量は少なくてかまいません。目安としては乳酸菌液1リットルあたりあら塩2g・糖6g・デンプン小さじ4分の1(1g弱)くらいで十分です。
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果実酒用の瓶を使った蓬乳酸菌の培養
2リットルのペットボトルを使う場合について簡単にまとめます。
蓬:50g程度
あら塩:20g (1%)
糖(白糖・黒糖など):60g (3%)
デンプン(米粉・小麦粉・片栗粉など):小さじ2杯(約7.5g)
水:2リットル弱
作り方
1)ペットボトルに蓬・あら塩・デンプンを入れます。白糖を使う場合は最初から一緒に入れます。黒糖を使う場合は2日後に入れます。
2)水を入れます。培養終期に激しく発泡するためガス抜きのことを考えて上部に空間ができる程度の水量にします。黒糖を使う場合は2日後に黒糖を入れた後のことも考慮して空間が少し多めになるように水を加減します。
蓋をきっちりと閉めてできるだけ暖かい場所に置きます。
4~5日で pH が 3.5 になり、その後発泡が激しくなります。ときどき蓋を開けてガス抜きをしますが気をつけないと培養液が噴出してしまうので蓋を開ける際には慎重に。
発泡が続いていても7~10日後には使える状態になるのでザルや茶漉しを使って液だけを濾し取ります。濾し取った蓬乳酸菌液はきれいなペットボトルに保管します。そのまま1か月以上はもちます。使いきれないときは2か月に1回程度の割合であら塩・糖・デンプンを入れます。入れる量は少なくてかまいません。目安としては乳酸菌液1リットルあたりあら塩2g・糖6g・デンプン小さじ4分の1(1g弱)くらいで十分です。
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pH試験紙/乳酸菌液の利用・活用・効能等について
〔注記〕pH試験紙については「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「pH試験紙・培養液の色(10円硬貨の利用)」をご覧下さい。pH試験紙が手元にない場合の簡易判定に10円硬貨を利用する方法についても記してあります。
〔注記〕乳酸菌の培養に用いて使い終わったペットボトルの汚れは水で洗うだけで十分ですがボトル内部の肩口の辺りに付着している浮遊物や産膜などはブラシで落とせます。なお、「〔基礎編〕米乳酸菌を培養してみた」の「培養液の濾過・沈殿培養液・ボトル等の洗浄」でご紹介している「フルフルボトル洗い」を使うと手間がかからず簡単にペットボトルの洗浄ができます。
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