対象意識(2)――自己意識の契機(PC版ページへ)

2006年08月01日05:38  意識>観念的自己分裂

人間の意識は意識の外部および内部の世界を映し出す鏡である(三浦つとむは「認識は精神的な鏡である」といっている)。いわゆる認識とはこの「鏡」に映し出された「像」(客体)であり、その意味で「像」としての認識は対象認識ともよばれる。

しかし意識という鏡は単に受動的に対象を映し出すだけのものではない。意識にはこの対象認識(object)を客体として把握している意識主体(subject)が存在しており、その意識主体は現実の主体(現実的な自己)の分身つまり観念的な自己である。

したがって現実の主体・現実の人間の意識は、カメラマンが被写体を自らの主体性によって選び取り、自らの身体を動かし対象に向かってカメラを向け、最良のシャッターチャンスにおいて対象を写し取るのと同じように、対象とする世界を選び取り、世界に働きかけ世界を認識しようとする能動的な存在でもある(「二つの主観(1)~(3)」では意識主体・対象認識をそれぞれ主観(subject)・客観(object)という見地から考察した)。

このようにさまざまなものを対象認識としてとらえている意識主体は、意識内部の「鏡」に映った像を見ている主体であるが、この主体すなわち意識主体は意識に映し出される像を媒介にして自己を認識する。つまりこれらの像を見ている自分を意識することになる。これが自己意識の第一の契機である。

〔追記〕デカルトが「我思う、ゆえに我あり(Je pense, donc je suis)」で言っている「我(Je)」とはこの意識主体のことである。ただし時枝誠記が指摘しているように、語「我(Je)」として表現されるのは意識主体が客体化=概念化されて対象認識されたものであり、意識主体そのものではない。意識主体そのものや表現主体そのものは言語表現において語として現れることはなく、客体的表現・主体的表現を介してその存在が媒介的・間接的に示されるだけである。

また意識は外部の世界を映し出すだけではなく自分の身体をも映し出す。目や鼻や耳や皮膚は自分の身体を知覚しているし、深部感覚は身体内部の状態を知覚している。水を飲んだり物を食べたりするときには味を感じたり、のどごし感を覚える。こうした知覚を介して意識は自己の身体の存在を認識している。また運動覚や平衡覚、視覚・聴覚等を通じて意識は自己の身体の位置や動きを認識している。こうして現実の意識主体は自己の身体を内と外の両側から知覚し認識している。身体的存在としての自己を認識しているこの意識は身体的自己意識とよばれている。身体的自己意識は他ならぬこの身体の中に自己(=意識主体)が存在しているという意識である。これが自己意識の第二の契機となる。

表現とよばれるものは人間の意識を意識の外部につまり表に現したものである。表現は、人間が自己の意識を物質的・物理的な形態で表出したものであり、それ自身一つの鏡である。つまり表現は表現した人間の意識を映し出す鏡であり、あらゆる表現の中で言葉は人間の意識をもっとも忠実に映し出すものである。マルクスはこのことを「言語は意識とおなじようにふるい――言語は実践的な意識、他の人間にとっても存在し、したがってまた私自身にとってもはじめて存在する現実的な意識である(古在由重訳『ドイツ・イデオロギー』岩波文庫)といっている。

表現は人間の意識を映し出すのだから、人間は表現を介して他者の意識を知り、自己の意識を知る。すなわち意識の外部に対象化・物質化された(外化された)他者の意識・自己の意識である他者の表現・自己の表現を介して人間は自己の意識のうちにこれらを対象意識として取り込むことができる。こうして人間(人間の意識)は、意識のうちに映し出された(客体化された)他者の意識・自己の意識を媒介にしてあらためて人間としての、類としての自己を認識することになる。これが自己意識の第三の契機になる。意識の中に他者の意識を取り込むことによって人間は他者の目に見える自己の姿を知るようになり、いずれは自分を他者の目で客観的に見る自己意識が芽ばえる(自分の他人化)。

〔注記〕

「第一の契機」「第二の契機」は説明の都合上つけた名称である。順番に意味はない。ただし「第三の契機」が「第一・第二の契機」に先立つことはない。そして「第三の契機」こそが類的意識を伴った人間の自己意識を形成する最大の契機なのである。

〔2006.08.17注記〕

対象認識は対象意識を形成する一つの意識実体であり、対象意識と対象認識とは異なるものであるので、文中で対象認識の意味で使われていた「対象意識」の語を「対象認識」に改めた。

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