▼ 対象意識(1)〜(5)をまとめて読む。
前稿「対象意識(3)――対象意識と観念的自己分裂」(08/05)では人間の意識の一つのあり方である対象意識について取りあげた。ところで人間は初めから対象意識(観念的な世界)を意識のなかにもって生れてくるわけでもないし、人類もまた最初から対象意識をもった種として生れたわけでもない。マルクスはいう。
意識はもちろん最初はたんに身ぢかな感性的環境についての意識にすぎず、また意識的になりつつある個人のそとにある他 の人物および事物とのかぎられたつながりの意識にすぎない。それは同時に自然の意識でありそして自然ははじめ人間にむかってまったくよそよそしい全能かつ 不可侵な力としてあらわれ、人間はそれにたいして純粋に動物的に関係し、かれらは禽獣のようにそれに威圧される。したがってそれは自然について純粋に動物 的な意識である(自然宗教)。(『ドイツ・イデオロギー』古在由重訳・岩波文庫)
しかし人間はこのような動物的な意識にとどまることなく、社会(最初は家族という小さな社会であろうが)を作り協働生活を始めるやいなや相互に精神的な交通をする必要に迫られる。きわめて大雑把にいうなら、やがて何らかの表現手段を発明し、それをもって他者と関わり合うことを通して人間の他者意識は徐々にではあろうが動物的なものから人間的なものに――つまり他者の意識が自己の意識のうちに浸透することによってあらゆる物を自己の鏡とするように――なる。すなわち人間は対象と自己との関係を意識して活動するようになり、遅かれ早かれ自己をそして自己の意識そのものを自己の対象とするようになる(自己の二重化(7)――他者を鏡とするということ)。
それと相携える形で人間は記号的な表現をそして言葉を作り出すに至る。しかし記号や言葉を作り出す以前に人間は世界を概念的に把握する存在であったであろう。概念的な把握ができていなければ、異った種類の個物相互の間に差別を設け、ある同じ種類の個物に共通する名をつけるときに、それとは異ったある同じ種類のものにすでにつけた名と新しくつける名とを区別する必然性がない。そして個々の概念に対応する音声が記号ないし語として分節されるのはそれ以前に現実の個物から抽象された個々の概念が人間の認識において区別され分離されているからである。
言葉による表現を介して人間は自己の意識をより客観的にとらえることができるようになり、同時に他者の意識をより容易に自己の意識の中に取り込むことができるようになる。こうして人間は自己意識と類的意識(他者意識)とを内包する真に人間的な対象意識(観念的な世界)をもった存在となる。
人間の子供が自己の意識を形成し発展させる過程、言葉を習得し自己意識を獲得する過程もほぼ同じであろうと思われる。人間の子供時代が他の動物と比べて非常に長いのは意識の形成と言葉の習得とにおいて個体発生が系統発生を繰り返す必要があるからだ(教育による社会的遺伝)と私は思っている(社会的な存在として自己を作り上げ十分に社会に適応できるようになるためには意識の形成と言語の習得以外にも長い教育期間が必要とされるのはもちろんである)。
〔2006.08.16注記〕
以前の稿では「自己意識」は「(観念的世界における)意識主体」ないし「現実の自己における意識主体」という意味で使ってきた。この稿では単に意識主体を指すのみでなく、意識主体とその客体である認識とが意識内部で対峙している意識のあり方を「自己意識」と呼んでいる。つまり、自己意識も対象意識の一つであるという考え方をしている。「他者意識」についても同様である。
これは何を対象(客体)としている意識のあり方なのかという観点から「対象意識」「自己意識」「他者意識」をとらえなおした結果である。したがって、現実の自己の場合についても何を対象としているかによって「対象意識」「自己意識」「他者意識」は考えられるであろう。ただし、現実の自己の意識は記憶からのフィードバックを受けており、この場合の「対象意識」「自己意識」「他者意識」は知覚レベル以上のものである。
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