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2006年09月11日(月)| 科学・教育>数学 |  
マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか(1)――負の数とタイル・正負の数の加減

塾などというものをやっているせいか、「マイナスかけるマイナスはどうしてプラスになるのですか。いまだによく理解できないのですが…」といった質問を大人の方から受けることがときどきある。そんなときに私が用いている説明をご紹介する。タイルを使ったものだがたいていはすんなりと納得していただけるようだ。

正の数・負の数は中学一年生の最初の頃に学ぶことがらである。教科書や参考書にもいろいろと説明が書いてあるが、直観的に「分かった!」といえるようなものはないように思う。もう二十年以上前から私が用いている正方形タイルによる正の数・負の数の説明はおそらく私のオリジナルであろうと思われる(同じようなものにお目にかかったことはない)。

正方形タイルは、遠山啓さんが提唱して現在も数学教育協議会を中心に行われている「水道方式」という算数・数学の指導法で用いられるもっとも基本的な教具・シェーマである。これは小学生に計算や数や量の指導をするときに非常に役に立つ――現在は小学生が学校で使う算数セットの中にタイルが必ず入っているし、多くの教科書が数や計算の説明にタイルを使っている。まだ十分とはいえないがタイルを用いる水道方式の有効性が広く理解された結果であろう。このタイルは単に直観的に理解しやすいばかりでなく、小・中学生には(あるいは大人でも)その計算過程を論理的に理解するのがむずかしい小数や分数のかけ算・割り算が、この正方形タイルを使うことによってなぜそういう計算をすれば解けるのかが論理的に筋道をたどって理解できるという大きな長所をも持っている(タイルによる分数のかけ算・割り算については『学習支援 まなびの函』というサイトの「学習のポイント 算数」にその説明がある)。

しかし、水道方式は小学校の算数ではタイルを大いに利用しているが中学校の内容になると「約数・倍数」などでちょっと使うだけで、正の数・負の数ではまったく使わない(トランプを利用した指導法が主流である。上で紹介したサイトの「学習のポイント 数学」でもその方法が紹介されている)。これは宝の持ち腐れであろう。タイル(白黒タイル)を用いた正負の数の指導方法(私の方法)は分かりやすさという点では他に例を見ない方法であると自負している。

さて、いきなり正負の数のかけ算に入るのは無理なので、日頃中学一年生に教えているステップを多少(かなり)端折りつつ順に説明を進めて行こうと思う。以下テーブル・タグを利用して作ったタイル図によって説明する。一応 IE6.0 と Firefox1.5 ではきちんと表示されることは確認済であるが他のブラウザではきれいに表示されないかも知れない。その点はご了承いただきたい。

正のタイル・負のタイル正負の数を扱うのだから当然「負のタイル」が必要である。私の方法では、正の数には白いタイル、負の数には黒いタイルを使う(黒いタイルを使うのは私のオリジナルである)。したがって、下のように白いタイル一枚が +1 を表わし、黒いタイル一枚が -1 を表わす。

=+1 =-1

(正の数)+(正の数)、(負の数)+(負の数)(+3) は白いタイルを縦または横に3個連結したもので表わされ、(-4) は黒いタイルを縦または横に4個連結したもので表わされる。そうすると、
  (1) (+3)+(+4)
のような正の数どうしの加法は単純に白いタイルのかたまりどうしの連結であるし、
  (2) (-5)+(-3)
のような負の数どうしの加法は黒いタイルのかたまりどうしの連結であるから、答がそれぞれ +7, -8 になることは容易に分かる。また、負の数どうしの加法でも交換法則が成り立つことは明白である(式・図は省略)。小数や分数についても小数・分数のタイルを使うことによって同じ結果が得られる(式・図は省略)

(1)
(2)

(+1)+(-1)=0, (-1)+(+1)=0 であるところで、正負の量は互いに反対の性質を持つ量として定義されるから、正負の量は互いに打ち消し合うという性質を持っている。したがって、同じ大きさ(絶対値)を持つ二つの正負の数は互いに打ち消し合ってその和は 0 になる。つまり、
  (+1)+(-1)=0, (+2)+(-2)=0, (+3)+(-3)=0, …
である。また、
  (-1)+(+1)=0, (-2)+(+2)=0, (-3)+(+3)=0, …
である。つまり、下の(3)~(6)はすべて 0 であるし、図において負のタイルを上に、正のタイルを下に置き換えたものもすべて 0 である(式・図は省略)。小数や分数のタイルでも同じことが示される(式・図は省略)

(3)
(4)
(5)
(6)

0 の中に正の数と負の数とがともに保存されていることを示す上の図は弁証法的である。物質と反物質との対消滅のようにも見える。この図を見た友人が「まるでディラックの海みたいだ」といったことを思い出す。(@量子力学)

(正の数)+(負の数)正の数と負の数との加法
  (7) (+5)+(-2) や (8) (+3)+(-7),  (9) (-6)+(+4)
をタイル図で表わすとそれぞれ下のようになる。答がそれぞれ +3, -4, -2 になることは説明するまでもないだろう。この場合も交換法則は成り立つ(式・図は省略)。小数・分数についても同様なことが示される(式・図は省略)

(7)
(8)
(9)

正負の数の減法引き算は引く数の符号を変えたたし算になることを示す。なお、「引き算は引く数を引かれる数から取り去ることである」という定義を採用する。引かれる数が 0 である場合の例
  (10) 0-(+3)=0+(-3)
  (11) 0-(-3)=0+(+3)
を最初に示す。

(10) 0-(+3)=
=0+(-3)
(11) 0-(-3)=
=0+(+3)

図から分かるように (+3) を取り去ると (-3) が現われる。この結果から (+3) を引くことは (-3) をたすことと同じであることが分かる。同様に (-3) を取り去ると (+3) が現われるから、(-3) を引くことは (+3) をたすことと同じであることも分かる。

この性質は、引かれる数がどのような数であっても成り立つ。これを、
  (12) (+2)-(+3)=(+2)+(-3)
  (13) (-2)-(-3)=(-2)+(+3)
について示す。スペースの都合上、式を省略する。

(12)
(13)

他の場合にもまったく同様な結果が示される(式・図は省略)。したがって、引き算は引く数の符号を変えたたし算になる。つまり引き算は引く数の反数*を加えるたし算に直してから計算すればよいことがタイル図によって示されたわけである。小数・分数の場合も同様になることがタイル図で示される(式・図は省略)

* 絶対値が同じで符号が反対である数のことをもとの数の反数という。これは英語の opposite number の訳語である。この訳語を最初に使ったのは遠山啓さんだという。

途中説明をかなり端折ったが、以上で正負の数の加減の計算方法の説明は終りである。これで正負の数のかけ算の説明をするための準備が整った。「マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか」については次稿で。

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コメント
 
[112] じぶんなりに考えてみました。
2007/03/28(水)10:03:46 | URL | 金子義亮[編集
自分なりに、こんな説明を作ってみました。
 
[113] 拝見しました
2007/03/28(水)15:20:28 | URL | シカゴ・ブルース[編集
金子義亮さん、こんにちは。

リンク先を拝見しました。
身近な具体的な例で考えるということですね。
これは (1あたり)×(いくら分) を使った例です。小学校ではマイナスは使いませんがマイナスとはどういうものか、つまり普通の数(プラスの数)とは反対の性格をもった数だということを納得させたあとで導入すれば小学校高学年の子どもでも理解できるのではないかと思います。

「1日に2個ずつりんごを食べます。5日間ではいくつ食べることになりますか」ならば

2個/日×5日=10個

という計算になりますが、
「1日に2個ずつりんごを食べます。5日後には今と比べてリンゴの数はどうなりますか」という問題では、「1日に2個ずつリンゴが減る」つまり「1日にー2個ずつリンゴの数が変化する」と考えられます。そして5日後にはたしかに 2個/日×5日=10個 リンゴが減ります。つまりリンゴの数はー10個になるということから、

(ー2個/日)×5日=ー10個

となるというわけですね。また、
「それでは5日前は今と比べてリンゴの数はどうでしたか」なら、5日前=ー5日後と考えれば、5日前には今よりも 2個/日×5日=10個 リンゴが多かったわけですから、

(ー2個/日)×(ー5日)=10個

となる、という説明をするわけですね。

確かにこれで (マイナス×プラス)と(マイナス×マイナス)については説明できますが、(プラス×プラス)と(プラス×マイナス)も含めて統一的に説明できるモデル(増減を統一的にとらえられるモデル)の方が子供たちも納得しやすいのではないかと私は思います。たとえば水槽に水を入れることと水槽から水を抜くことのような…。

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言語関連の用語について

 表現された言語(本来の意味の言語)を単に言葉あるいは言語、ことば…のように表記しています。ソシュール的な意味の言語(言語規範ないし思考言語)はカッコつきで「言語」あるいは「言語langue」・「ラング」・「ことば」等と表記しています。(背景色つきで「言語」のように表記している場合もあります)

 一般的な意味の概念を単に概念と表記し、ソシュール的な意味の概念(語の意義としての概念、いわゆるシニフィエ・語概念)はカッコつきで「概念」と表記します。(2006年9月9日以降)

 また、ある時期からは存在形態の違いに応じて現実形態表象形態概念形態のように用語の背景色を変えて区別しています(この文章では〈知覚形態〉も〈表象形態〉に含めています)。

 ソシュールの規定した用語を再規定し、次のような日本語に置き換えて表記します。詳細は「ソシュール用語の再規定(1)」を参照。

【規範レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語韻     (ある語音から抽出された音韻)

・シニフィエ   → 語概念(語義) (ある語によって表わされるべき概念)

・シーニュ・記号 → 語規範(語観念)(ある語についての規範認識)

・記号の体系   → 語彙規範   (語すべてについての規範認識)

・言語      → 言語規範   (言語表現に関するすべての規範認識)

語概念・語韻は 語概念⇔語韻語韻⇔語概念)という連合した形で語規範として認識されています。語規範はこのように2つの概念的認識が連合した規範認識です。ソシュールは「言語langue」を「諸記号」相互の規定関係と考えてこれを「記号の体系」あるいは「連合関係」と呼びますが、「記号の体系・連合関係」の実体は語彙規範であり、言語規範を構成している一つの規範認識です。規範認識は概念化された認識つまり〈概念形態〉の認識なのです。

なお、構造言語学・構造主義では「連合関係」は「範列関係(範例関係)」(「パラディグム」)といいかえられその意義も拡張されています。

 語・内語・言語・内言(内言語・思考言語) について、語規範および言語規範に媒介される連合を、三浦つとむの主張する関係意味論の立場からつぎのように規定・定義しています。詳細は『「内語」「内言・思考言語」の再規定』を参照。(2006年10月23日以降)

  : 語規範に媒介された 語音個別概念 という連合を背後にもった表現。

内語 : 語規範に媒介された 語音像⇔個別概念 という連合を背後にもった認識。

言語 : 言語規範に媒介された 言語音(語音の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった表現。

内言 : 言語規範に媒介された 言語音像(語音像の連鎖)⇔個別概念の相互連関 という連合を背後にもった認識・思考過程。

内語内言は〈表象形態〉の認識です。

なお、上のように規定した 内言(内言語・内的言語・思考言語)、 内語とソシュール派のいうそれらとを区別するために、ソシュール派のそれらは「内言」(「内言語」・「内的言語」・「思考言語」)、「内語」のようにカッコつきで表記します。

また、ソシュールは「内言」つまり表現を前提としない思考過程における内言および内言が行われる領域をも「言語langue」と呼んでいるので、これも必要に応じてカッコつきで「内言」・「内言語」・「内的言語」・「思考言語」のように表記します(これらはすべて内言と規定されます)。さらに、ソシュールは「内語の連鎖」(「分節」された「内言」)を「言連鎖」あるいは「連辞」と呼んでいますが、まぎらわしいので「連辞」に統一します(「連辞」も内言です)。この観点から見た「言語langue」は「連辞関係」と呼ばれます。ソシュールは「内語」あるいは「言語単位」の意味はこの「連辞関係」によって生まれると考え、その意味を「価値」と呼びます。構造言語学では「言(話し言葉)」や「書(書き言葉)」における語の連鎖をも「連辞」と呼び、「連辞関係」を「シンタグム」と呼んでいます。詳細は「ソシュールの「言語」(1)~(4)」「ソシュール用語の再規定(1)~(4)」「ソシュール「言語学」とは何か(1)~(8)」を参照。

 さらに、ソシュールは内言における 語音像⇔個別概念 という形態の連合も「シーニュ・記号」と呼んでいるので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【内言レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音像(個別概念と語規範に媒介されて形成される語音の表象)

・シニフィエ   → 個別概念(知覚や再現表象から形成され、語規範の媒介によって語音像と連合した個別概念)

・シーニュ・記号 → 内語

・言語      → 内言

ソシュールがともに「シーニュ・記号」と呼んでいる2種類の連合 語韻⇔語概念語規範)と 語音像⇔個別概念内語)とは形態が異なっていますのできちんと区別して扱う必要があります。

 また、実際に表現された言語レベルにおいても、語音個別概念 という形態の連合が「シーニュ・記号」と呼ばれることもありますので、このレベルでの「シニフィアン」・「シニフィエ」についてもきちんと再規定する必要があります。

【言語(形象)レベルにおける再規定】

・シニフィアン  → 語音個別概念語規範に媒介されて実際に表現された語の音声。文字言語では文字の形象

・シニフィエ   → 表現された語の意味。個別概念を介して間接的にと結びついている(この個別概念語規範の媒介によってと連合している)

・シーニュ・記号 → (表現されたもの)

・言語      → 言語(表現されたもの)

 語音言語音語音像言語音像語韻についての詳細は「言語音・言語音像・音韻についての覚書」を、内言内語については「ソシュール用語の再規定(4)――思考・内言」を参照して下さい。また、書き言葉や点字・手話についても言語規範が存在し、それらについても各レベルにおける考察が必要ですが、ここでは触れることができません。

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プロフィール

シカゴ・ブルース

シカゴ・ブルース (ID:okrchicagob)

1948年生れ(68歳♂)。国語と理科が好き。ことばについては子供のころからずっと関心を抱いていました。20代半ばに三浦つとむの書に出会って以来言語過程説の立場からことばについて考え続けています。現在は39年間続けた自営(学習塾)の仕事を辞め個人的に依頼されたことだけをこなす日々です。

コメント等では略称の シカゴ を使うこともあります。

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意識と言語(こころとことば)

われわれは人間が『意識』をももっていることをみいだす。しかし『精神』は物質に『つかれて』いるという呪いをもともとおわされており、このばあいに物質は言語の形であらわれる。言語は意識とおなじようにふるい――言語は実践的な意識、他の人間にとっても存在し、したがってまた私自身にとってもはじめて存在する現実的な意識である。そして言語は意識とおなじように他の人間との交通の欲望、その必要からはじめて発生する。したがって意識ははじめからすでにひとつの社会的な産物であり、そして一般に人間が存在するかぎりそうであるほかはない。(マルクス・エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』古在由重訳・岩波文庫)


ことばは、人間が心で思っていることをほかの人間に伝えるために使われています。ですから人間の心のありかたについて理解するならばことばのこともわかってきますし、またことばのありかたを理解するときにその場合の人間の心のこまかい動きもわかってきます。
このように、人間の心についての研究とことばについての研究とは密接な関係を持っていて、二つの研究はたがいに助け合いながらすすんでいくことになります。一方なしに他方だけが発展できるわけではありません。
…こうして考えていくと、これまでは神秘的にさえ思われたことばのありかたもまったく合理的だということがおわかりになるでしょう。(三浦つとむ『こころとことば』季節社他)


参考 『認識と言語の理論 I』を読む 1(1)――認識論と言語学三浦つとむ『認識と言語の理論 I』

子どもたちに向けた言葉

ふしぎだと思うこと
  これが科学の芽です
よく観察してたしかめ
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