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Author:シカゴ・ブルース

1948年生れ。理科が好き。ことばについては子供のころからずっと関心を抱きつづけています。

〔08/01/08追記〕シカゴ・ブルースというハンドルネームは長いので、以後コメント等では単に シカゴ という略称を使います。

ソシュール「言語学」とは何か(1)

『ソシュール講義録』はまだ四分の一ほどしか読み進めていない。できる限りソシュールの立場に立って読もうと思っているのだが苦痛の方が先立って読む気が失せるのである。それでも何とか読もうと努力をするのはソシュールの「言語学linguistiqueがいかなるものかを知るためである。また、それによって私の抱いている言語観に刺戟が与えられて多少なりともその内容が変化するのではないかという期待があるからでもある。

まだ四分の一ではあるが、ソシュール「言語学」の概要はつかめたように思う。

ソシュール「言語学」は、ソシュールが言語であると考えた対象についての哲学、もっといえば形而上学である。当然ながらソシュールは自らが言語であると考えた対象をあらためて「言語langueと名づけた。ソシュールの「言語langueは私の立場からいえば、言語規範言語規範に媒介される限りでの純粋に内的な思考・認識(以後、このような思考・認識を「思考」と表記する)である。しかし、それらは個人の意識内におけるそれではなく仮構された社会的・一般的な言語規範であり「思考」である。それらはある意味では社会からも個人からも遮断され自ら以外のものとなんらの交渉ももたない孤立した・独立した存在であり、自己の内部でのみ運動する一種の有機体である(新陳代謝を行わない有機体というのは矛盾しているが)。その意味でソシュールが自らの「言語学」「静態言語学linguistique statiqueと名づけたのは正しい。

ソシュールにとって「言語langue(連合関係)は無前提で目の前に存在するもの・所与のものである。それはいつとは知れぬ遠い過去においてある社会の構成員たちの間で契約された約束ごとではあるが、その契約は現在の社会の構成員たちにはあずかり知らぬところでなされたものであり、その内容を変更することは彼らには許されていない、そういった約束ごと・社会制度である。

しかし、そのような所与の社会制度――「記号の体系」連合関係=言語規範)――が自己運動するはずはない。その運動は個人の意識内において個人の主体性によって媒介という形で言語行為に関与するしかないものである。ソシュールが「言語langueのうちに連合関係(言語規範)だけでなく連辞関係(「思考」)を入れなければならなかった由縁である。そうでなければ閉じた体系(連合関係)内における「言語単位」相互の価値規定など定義しようもない。

こうしてソシュールは「言語langueのうちに「思考」を組み込んだが、純粋に社会的なものとして仮構された「言語langueのうちに個人的な要素である「思考」をいれるわけにはいかなかったから、上述した個人は個人ならぬ仮構された純粋に社会的な個人でなければならない。それはソシュール自身の意識内に存在している社会的な個人としてのソシュール自身の意識・思考でしかありえない。しかし、「言語langueのうちに「思考」を組み込んだことによって、純粋に社会的で外部とは一切遮断されたはずの「言語langueの中に、外部から時に公然と時にひっそりと「言parole「書écritureや外部の事物や現象が侵入してくることになる。なぜなら、いくら純粋で孤立した「思考」とはいえ、思考するためにはその対象や契機が必要であり、その対象を連合関係(言語規範)や連辞関係(「思考」)それ自身だけから調達できるはずはないからである。

ソシュールの言説はそのような矛盾や破綻をあちこちに抱えている。しかし、「言語langue内部で完結しているはずの「言語事実・事象fait(s) de langueを説明するために使われる「語mot「音son…等々が現実の語・音…等々だったり、表象形態あるいは概念形態としての語・音…等々だったりすることが混乱と錯綜と誤解の裏(うち)にこの矛盾と破綻とを覆い隠している。

「ソシュール言語学」は、建前としては純粋に社会的な――どんな個人とも関わりをもたないという意味で社会的な――孤立した・静的な「言語langueの性格が、「言語langue内部の論理にしたがって、仮構された純粋に社会的な(=非個人的な)意識内部の現象として分析・考察されたものである。そのような前提のもとで成立している「言語langue「言語学」が、現実の人間が話したり書いたりしている現実の言語や現実的な人間の言語活動とは無縁のものであることは言うだけ野暮である。「ソシュール言語学」は、「言語langueのうちに完結しており――上述した通り、実際には外部からいろいろなものを持ち込んではいるが、建前としては内部で完結すべきものである――、外部からもってする批判を前もって拒んでいる、そういったたぐいの形而上学である。

したがって、ソシュール「言語学」の理論をもって現実の言語を分析する試みはすべて徒労に終るだろう。巷間で言われているようにソシュール「言語学」そのものと構造主義とは何のゆかりもない。構造主義および構造言語学(いわゆる「ソシュール言語学」)は誤解されたソシュール「言語学」を基盤として成立した思想である。ソシュール「言語学」は、現実の世界とは遮断された「言語langue「学philosophyなのである。

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